ヒトとは?人間とは?(16)

 調理をするには、火をおこさなければなりません。今でこそ、火をつけることは、簡単にできますが、キャンプの時に薪で火をおこすことを思い出してもらうと、火をおこすということが結構大変な作業であることがわかって頂けると思います。しかし、一度おこした火をみんなで分かち合うのは簡単です。

 また、調理は大変ですが、できたものを分配するのは、難しくありません。

 チンパンジーは、食べ物を咀嚼するだけで6時間も時間をかけるそうです。肉食動物もチンパンジーとそれほど変わらない時間をかけて咀嚼します。つまり、その間は、あまり運動ができませんし、移動もしません。

 ところが、調理を覚えた人間は、火をおこすことや調理に時間をかけますが、料理ができれば、数分で食べ終えることができます。火をおこす時間と調理の時間を入れても、短い時間で、次の作業に移ることができます。

 多くの狩猟採集民は、女性が主食(炭水化物)を集め、料理し、食事を子どもや男性に与えます。そして、女性が料理を担当してくれることで、時間ができた男性は、獲物を求めて狩りに出かけていき、獲物(タンパク質)を持ち帰ってきます。もし、男性が狩りに失敗したとしても、主食は女性が集めてきてくれるので、男性は、毎日の食事に困ることはありません。毎日の食事を用意してもらう代わりに、男性は、火をおこしたり、他の侵入者が現れた場合に追い払ったりします。

 石器時代後期の人びとも、これと同じようなことをしていたと考えられています。女性が毎日必要な炭水化物を集め、料理することを分担し、男性がたまに摂取すべき貴重なタンパク質を採って、持ち帰ることを分担していました。子どもの面倒は、普段は女性が見て、時間が空いたときに男性が見るといったところでしょうか。

 このように、家族の中で男女が分担を決め、分業し、それぞれの分担に関して専門化していったのではないでしょうか。

 女性は、主食(炭水化物)のありかを覚え、それを集めて調理する方法を覚える。男性は、狩りに必要な知識身につけ、それに必要な道具を作る。このような専門化が進む中で、文化的進歩の一歩が踏み出されたのだと思います。

 おそらく、狩り自体は、男性が集団で行っていたでしょうから、狩ってきた貴重な獲物(タンパク質)は、集団から各家族に振り分けられていたのでしょう。

 主食を集めていた女性も集団で採りにいったり、調理をしていたのかもしれません。

 こうして、家族というサブユニットと集団の中で、それぞれ分業と専門化が徐々に浸透していきます。

 ちなみに、現存のホモ・サピエンスが出会ったネアンデルタール人たちには、男女の分業化と専門化はありませんでした。ネアンデルタール人が駆逐されたのは、こんなところにも理由があったのかもしれません。

 そして、ある日、どういうきっかけで、始まったのかわかりませんが、集団間で物のやりとりが始まります。物々交換の始まりです。

 集団の中で、分業化し、それぞれの分野で専門化し、そうやって作ったものを必要としている人と交換する。そんな社会が出来上がった頃から、文化的進歩が加速度的に進み始めます。その文化的進歩は、世界各地へのわれわれ人間が拡散していった大昔の大移動中におこります。

 次回は、約6億5000年前に、ホモ・サピエンスが始めたその大移動のはなしです。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。


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