ヒトとは?人間とは?(12)

 さて、ヒトの話に移っていくのですが、最初に前提の話をします。もうおわかりだと思いますが、今までのチンパンジーやボノボたちと同様、ここから話すヒトの話も、人間が頭を使って考えてきたというよりも、遺伝子で受け継がれる格好で、長い時間を掛けて、こういうかたちに進化してきたという話になります。人間が試行錯誤して脳を使って人間社会をどう築いてきたかの話は、その後の話になります。まずは、進化の過程で、ヒトがどのように進化したかについて述べたいと思います。

 何度も書いていますが、ヒト科の動物は、熱帯雨林で長い間住むうちに、少産多保護の戦略を身につけた結果、発情期の少ないメスをオスが獲得するためにオス同士が争い、オス間に緊張状態を生まれました。チンパンジーたちは、その競合を生き抜くためさまざまな社会的テクニックを身につけ、ボノボは、妊娠しない時期にメスが発情することでそれを抑制しています。それでは、ヒトの場合は、どうなのでしょう。

 人間の社会は、一生涯休むことなくメスをめぐって争わなければならない他の動物たちの社会に比べれば、性的競合の程度はかなり低いといっていいでしょう。性的関係が特定の相手に限られるというのも人間の社会の一つの特徴です(なかにはそうでない動物に近い方もおられますが……)。

 ただし、相手が限られるというのは、人間だけでなく、他の動物でも見られます。鳥の社会では、90%以上がつがいだそうです。また、テナガザルなどでは、オス一頭にメスが数頭いるハレムをつくるそうです(彼らもまったく浮気をしないわけではないらしい)。

 しかし、これらの動物たちは、そのつがいやハレムが社会のすべてであり、他のつがいやハレムはすべて自分たちの敵でこそあれ、なかまではありません。

 ところが、人間の場合、性的関係を特定の相手にしぼる組織、つまり家族を形成し、その家族が集まって互いに協力し合う、大きな社会集団を形成して生活しています。これが、ヒトの特徴の一つです。

 現代の社会では、この社会的集団が見えづらくなっています。自分たち家族が所属する集団が、地域の自治的な組織なのか、会社の同僚仲間によるものなのか、それとももっと違った組織なのかもしれません。しかし、狩猟を行って生計をたてていた我々の祖先は、明らかにそうした家族が協力し合うバンドと名づけられた組織を形成していました。

 彼らは、バンドからバンドに比較的自由に移り住むことができたため、バンドの構成員は必ずしも固定ではなかったようです。バンドのなかにいる仲間は、一緒に狩りを行い、そのバンドで生まれた女性は、他のバンドに嫁に行っていました。そのかわりに別のバンドから嫁をもらいます。そうした社会を我々の祖先は築いていました。そして、このバンドのなかで作られていたのが家族というサブユニットだったのです。

 この家族の大きな役割のひとつが、共存のための性関係のすみ分けでした。集団内で家族というユニットに性関係を閉じ込めることによって、メスを奪い合うという不必要なバンド内での男同士の争いを避ける戦略をとったのです。

 このような家族とバンドという二重構造をとる動物は、ヒトぐらいなものだといいます。したがって、集団のなかにサブユニットを作るというのはヒトの特徴だといえます。

 そして、ヒトにはもうひとつの特徴があるのですが、それについては次回にします。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。

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