ヒトとは?人間とは?(37)

 ヴェネツィアと同様に十字軍の恩恵をもらった都市国家の一つに、フィレンツェがあります。フィレンツェには、もともとこれといった特産品がありませんでした。そのため、当初のフィレンツェは、あまりぱっとしませんでした。しかし、遠く北ヨーロッパから生糸を輸入し、それを加工して丈夫な布や衣服を作り、それを輸出することができるようになります。この加工貿易によって、フィレンツェは、莫大な富を得られるようになり、ヴェネツィアの通貨と並ぶ基軸通貨を持つ都市国家となったのです。

 本の著者は、「フィレンツェは、盆地であり、よそものを簡単には受け入れないところがあるので、ちょっと京都に似ている」といいます。また、「資源が貧しく輸入した資材を加工して輸出することが得意だったかつての日本とも似ている」といっています。確かに、イタリアという国は、日本と同じように職人気質を大事にする国だと聞いたことがあります。そういう意味では、確かに似ているのかもしれません。

 前に述べたとおり、中世では、地方領主の代表である君主とキリスト教会を納めるローマ教皇がヨーロッパ各地を支配していました。彼らは、独自に税金をかけていたため、君主とローマ教皇とは、常に諍いを起こしていました。そのため、ヨーロッパの中世は暗黒の時代と呼ばれています。その土地に住む人たちは、どちらにつくかで常に悩んでいたそうです。

 しかし、十字軍遠征により、商業に紀元前のような活気が戻り、商人が政治の世界に口を出し始めると、この二重構造が変わっていきます。商人たちが、政治の中心的役割を果たすようになるのです。

 彼らは、職種ごとにギルドという同業組合を作ります。そして、自分たちの権利を守るためにこの同業組合をおおいに利用します。

 まずギルドが認めたマイスターという資格がないと新規参入ができないようにします。日本では、タクシー組合が同じようなシステムになっています。このシステムは、自由競争を阻害するため、今ではほとんど使われていません。しかし、市場が狭かったこの時期は、許認可制を導入することで自分たちの権利を守っていたのです。

 同様に、価格もコントロールされていました。最低価格が決められ、それ以下で販売することができないシステムが構築されていました。現在でも、定価を決めずに、オープン価格と表示する場合があります。

 定価が決まるとその商品の価値が明確になります。そのため、買い手は販売店がどのくらい安くしているのかが一目でわかるようになります。他の販売店と比較するときも、定価という基準となる目安があるので比較しやすくなります。

 オープン価格というのは、仕入れ値が固定されているということです。販売店が勝手に値段をつけて下さいというシステムなのです。しかし、オープン価格にしてしまうと、商品の価値が曖昧となり、販売店がどのくらい値段を下げているのかが、消費者からは分かりづらくなります。また、当然、仕入れ値よりも値段を下げると赤字になってしまいますから、販売店の価格競争による仕入れ値の値崩れを防止することができます。メーカーにとっては、売値を下げる必要がないシステム、すなわち価格コントロールしやすいシステムなのです。オープン価格の場合、メーカー同士で仕入れ値を談合してしまえば、定価が示されていないのでギルドのように最低価格を決めることができます。もっとも、今の法律では談合は禁止されていますからそういうことはないのだと思いますが。

 さて、このギルド、職種ごとに作られているので、この頃非常に勢いがあった繊維産業や金融業の組合は、当然大きな力を持っていました。七つほどあったこの大きなギルドを「大アルテ」と呼んだそうです。肉屋やパン屋、靴屋など比較的規模の小さな組合は、小さなギルドとして区別されていました。

 大アルテのそれぞれの代表者が集まり、都市国家の重要事項を話し合いで決めていきます。こうして、商人たちが中心となった自治都市国家「コムーネ」が誕生します。

 次回は、このコムーネの話をしたいと思います。

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)ヒトとは?人間とは?(35)に記載してあります。

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