ヒトとは?人間とは?(11)

 ボノボもヒト科の動物である以上、父系社会を形成しています。つまり、メスたちは、他の集団から移住してきます。また、ゴリラやオランウータンのように、オスとメスの大きさが極端に違うというわけではありませんが、力の強さだけを考えれば、メスはオスにかないません。それなのに、ボノボの社会では、メスが中心となって集団を動かしています。メスたちはどうして集団の中心にいられるのでしょうか?

 前回書いたとおり、ボノボのメスたちは、ホカホカという互いの絆を確かめ合うあいさつを頻繁に行います。こうすることで、メスたちの絆を作っているのです。そして、オスが一頭のメスに何かを仕掛けようとすると、メスたちみんなでそのオスに対峙し、対抗します。こうやって、ボノボのメスたちは、集団での地位を維持しているのです。

 ボノボの社会で食べ物が絡んだ場面では、圧倒的にメスが強いそうです。チンパンジーなどの場合は、まずオスが餌場を占領し、オスが去った後に、メスがおこぼれを食べるというのが普通らしいのですが、ボノボでは、先に占領していたオスが、後からきたメスたちに餌場を簡単に明け渡してしまうそうです。明け渡されたメスは餌場で悠然と食事をします。どうも、ボノボでは、オスが先に餌場へ行かないと、メスに食料をすべて食べられてしまい、オスがめしにありつけないらしいのです。

 あるとき、こんな状況があったそうです。餌場にあるサトウキビをボノボのオスが両手いっぱいに持ち、近くに居たメスのところへ移動していきました。そして、メスの前にオスが座ると、抱えていたサトウキビをメスの前に落としたそうです。メスは、その置かれたサトウキビを、それが当たり前かのようにオスの目の前で食べたそうです。どうみても、オスがメスにサトウキビをプレゼントしたとしか思えない行動です。

 ボノボの集団では、移動するタイミングと方向もメスたちが決めています。樹木の上で果実などを食べた後、満腹になったボノボたちは、毛づくろいをしたり、ベッドを作って昼寝をしたりしますが、そのうち移動するべき時が来ます。このようなときに、オスたちは樹木を下りて枝などを引きずりながら、行きたい方向を示しますが、ほとんどメスに無視されてしまうそうです。ある程度樹木から下りた位置で、順位の高いメスが、他のメスたちの行動を観察します。そして、みんながどの方向に行きたいかを確認した後、順位の高いメスが、移動する方向を決定するそうです。順位の高いメスが移動を始めると、他のメスたちが追従し、集団が動き始めます。

 移動している最中でも、集団がバラバラになりそうになると、先頭を移動している順位の高いメスが立ち止まり、他の仲間がついてきているかを鳴き声を上げて、確認します。ボノボは、みんなで移動することにこだわっているかのようです。ボノボの集団では、このように、メスが中心になって集団を動かしています。

 ボノボは、メスが妊娠できない時期でも発情することによって、メス争奪のためのオスの競争社会を抑制し、結果的にメスも暮らしやすい平和な社会を築いています。これは、少産多保護戦略を選択したヒト科の動物では、ゴリラやチンパンジーとは違って、ボノボがかなり平和な社会を形成する方向へ進化してきたことを意味しています。

 餌場で、ボノボの二つの集団が対峙する状況が生まれたときがあったそうです。オスのリーダー格が互いに二足で立ち上がって、対面し、今にも衝突しそうな雰囲気が漂います。睨み合いが続いた後、ついに2頭のオスが相手に向かって突き進み、喧嘩が始まるかと思った瞬間、二頭のオスは、互いに向きを180度変え、お尻同士を付き合わせ、尻つけと呼ばれている挨拶をしたそうです。この瞬間、群れ同士の緊張はとけ、その後、この二つの群れは一日中一緒に行動していたそうです。

 ボノボの社会では、互いに対等であることを示す挨拶をすることによって、平和な社会を築いています。なんともほのぼのとした光景でしょう。

 さて、ヒト科である人間の場合、少産多保護戦略によって生じたメス争奪のためのオス同士の緊張状態を避ける手立てをどうやって防いでいるのでしょうか?

 次回は、いよいよ、人間であるヒトに話が移ります。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。

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