ヒトとは?人間とは?(6)

 皆さんは、ボノボというチンパンジーに似た類人猿をご存じでしたか?情けない話ですが、ぼくは、これまでその存在すら知りませんでした。今回、このシリーズの書くために調べていて、はじめて知りました。20世紀前半に発見されたボノボですが、あまりにチンパンジーと姿が似ていたため、それ以前はチンパンジーと区別されていなかったようです。

 しかし、よく調べてみると、ボノボは、チンパンジーとはまったく違った性格を持ち、チンパンジーとは違った社会を築いていました。

 ほとんどの動物が、メスの後ろからオスが交尾するのに対し、このボノボは、人間と同じように、互いに見つめ合って交尾するらしいのです。そのため、発見されたときは、ヒトに一番近い類人猿と言われたそうです。

 ヒトは、およそ600万年前に、このボノボとチンパンジーの祖先からわかれました。そのため、ボノボと共通の遺伝子、チンパンジーと共通の遺伝子を持っています。当然、感情、性格といった個人差はあるものの誰でもが持ち合わせいるものは、彼らが森林での生活の中で見せてくれるしぐさや行動にそのルーツがあるのかもしれません。

 ちなみにヒトとチンパンジーでは、98%以上の遺伝子が一致しています。それなのに、姿形そしてしぐさや行動にいたるまで、まったく違うように見えます。それはどうしてなのでしょう。遺伝子のイメージが、我々の体の設計図のように思われることが多いのからなのかもしれません。しかし、遺伝子は、そんなにがんじがらめなものじゃなくて、もっと自由さがあって、次のようなとらえ方をした方がわかりやすいかもしれません。

 村上春樹さんの小説「1Q84」という恋愛小説を読んだとします。誰でもそうですが、ほとんどの人が辞書を引くことなく、読むことができると思います。つまり自分がすでに知っていることばで書かれており、一部意味がわからないことばがあったとしても、それは、文章内でやはり自分がすでに知っていることばで説明されているので辞書を引かずに読み通せます。

 同じことが、宮部みゆきさんのミステリー小説「理由」でもいえます。ほとんど辞書を引かずに読めるはずです。ところが、「1Q84]という恋愛小説と「理由」というミステリー小説はまったく別の、そして分野も違う小説です。遺伝子は、このみなさんが知っていることばのフレーズと同じようなものと思って頂いて結構です。そして、「1Q84」がヒトであり、「理由」がチンパンジーなのです。ことばのフレーズは、どう組み合わせるかによって、まったく違った小説を生み出します。

 それと同じように遺伝子もさまざまな組み合わせによって多様性にとんだ違ったかたちの生き物を生み出すことが可能なのです。だから、人間とチンパンジーは遺伝子が98%以上一致していてもまったく違った生き物になっているのです。

 ただし、「1Q84」も「理由」も日本語で書かれています。同じ文法を使って書かれています。ヒトとチンパンジー、そしてボノボの間にもこの文法に近いものが存在している可能性があるのです。それが、種の共通性となります。

 ところで、ヒト科の動物の共通点として、妊娠しづらいというのがあります。普通の動物、例えばネコとかウマとかは、メスが発情すれば、一度の交尾でかなりの確率で妊娠します。特にウマは妊娠の確率が高く、だからこそ高額で競走馬の種付けのやりとりができるのです。

 ヒト科の動物となると、そもそもメスが発情する機会が、他の動物たちと比べて非常に少なくなります。そして、交尾したとしても簡単には妊娠しないのです。

 その辺のところを、チンパンジーを例にして見ていていこうと思います。

 エッセイ集Ⅱ もくじ


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