ヒトとは?人間とは?(7)

 まず、ヒト科のメスは、人間を含めて、15歳くらいにならないと子どもをもうけることができません。オスは、それよりも早く射精能力が機能し始めますが、集団の中での立場などオス同士の力関係で、やはり15歳~20歳くらいにならないと交尾に参加できません。

 チンパンジーの場合、オスは、射精能力を身につけると、一年中交尾が可能ですが、メスの場合は、排卵日が近い数日、つまり確実に妊娠できる時期しか交尾をしようとしません。そして、オスに交尾が可能なことを知らせるために、局部が大きく赤く腫れあがります。そうすると、オスはもういてもたってもいられない状態になるといいます。どのオスも、メスと交尾をしたがり、交尾の準備が整っていることをメスにアピールします。しかし、典型的なオス社会であるチンパンジーでは、どのオスもが交尾出来るわけではありません。オスの間では順位があって、順位が一番高いオスだけが交尾を許されるらしいのです。

 チンパンジーの群れでは、通常、メスの方がオスよりも多くなっています。そのため、オスがある程度の数までだったら、順位一位のオスが、メスを独占します。しかし、オスがある程度以上増えてしまった場合は、順位上位(1位から3位ぐらいまで)で、共同でメスを独占するようになるそうです。

 そうはいっても、このように共同でメスを囲うのは、それほど、長くは続かないようです。基本的にチンパンジーのオスは、自分以外、他のオスを信用しないようなのです。そのため、後述しますが、常に他のオスを警戒し、群れ以外のオスを殺してしまうことも多々あります。

 順位1位のオスは、一度、メスと交尾すると、2時間ぐらいは、メスと毛づくろいなどをして、体を休め、射精能力が回復するのを待ちます。そして、また交尾するということを繰り返します。そのあいだ、他のオスは、遠回しにその姿をみていたりしますが、順位一位のオスを警戒し、近づくことはありません。

 ところが、ここで、一度の交尾ではなかなか妊娠しないという事実が、チンパンジーのメスにある行動をおこさせます。発情したメスは、順位一位のオスと毛づくろいしている間でもあたりをきょろきょろ見わたしています。そして、交尾可能な状態の他のオスを見つけると、順位1位のオスから離れ、そのオスに近づき、交尾をしてしまうのです。順位1位のオスは、射精能力が回復していませんからなすすべもありません。こうして、メスは、少しでも妊娠する確率を上がるように行動するのです。こういった行動は、おそらくメスが持つ遺伝子が発情しているタイミングで何らかのスイッチを入れることで起きると考えられています。

 チンパンジーのメスの場合、15歳から妊娠できるようになってから40歳くらいまで子どもを宿すことが可能です。妊娠し、排卵が止まり、お腹の中で子どもを7ヶ月間育てた後、出産し、その後、4年間かけて子どもを育てます。そのあいだ、発情することはなく、次に発情するのは、子どもが離れた後ですから、5年から6年後となります。そして、子どもが離れると、また毎月発情することを7ヶ月から9が月繰り返し、何度も交尾し、なんとかまた妊娠します。これは、他の動物たち(ネコやウマ)と比べると、かなり苦労して子をもうけるわけです。

 こうしたサイクルを考えるとチンパンジーのメスは、生涯で5~6頭ぐらいしか子どもを産まないことになります。他の動物たちと比べると、チンパンジーは、極端に産む子どもの数も少ないことにもなります。

 今回は、チンパンジーを例に話をしましたが、子どもを多く作らない戦略は、ヒト科の動物に共通しています。どうして、こうなったのか、おそらくチンパンジーやボノボの祖先とヒトが別れる前の頃にその理由がありそうです。次回は、その話を述べたいと思います。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?