ヒトとは?人間とは?(10)

 チンパンジーやボノボと分かれる前の我々の祖先は、熱帯雨林に長い間住んでいるうちに、時間をかけて少産多保護戦略を身につけ、4~5年ぐらいの間隔を空けて、子どもを産み育てるように進化していきました。

 そのため、メスとの交尾を望むオスたちの間では、競争がおこり、オスの世界できわめて緊張した関係が維持されるようになりました。その一端が、現在のチンパンジーのオスの社会で垣間見えることができることを、前回述べました。

 ところが、ボノボの社会では、チンパンジーと違った進化を遂げています。それは、「子づくりのために交尾する」という動物の世界では当たり前の常識から逸脱した行為を行うようになっているのです。ボノボの社会では、「子づくり以外の場合でも交尾する」ことが当たり前に行われているというのです。

 ボノボは、一種の愛情表現もしくは、親密さを確認するために交尾のような行動を行います。例えば、メスとメスどうしが、互いの性器を数秒間こすりあわす「ホカホカ」とよばれる行動をします。また、オスとオスどうしで、互いのお尻をすり合わせたりします。これらの行動は、人が敏感な頬と頬を互いに触れ合せて挨拶をするように、交尾というよりもお互いに敏感な部分をこすり合わせることで、互いの親密さを確認しているかのようです。

 また、まだ子づくりが出来ない同士、まだ成熟していない子どものオスと大人のメス、あるいは子どものメスと大人のオスが交尾をします。こららも交尾が目的というよりも互いの親密さを確認し合っているように見えます。

 チンパンジーの場合、メスは、出産後子育てが終わるまで、ほとんど発情しないのに対して、ボノボのメスは、出産前の1ヶ月と出産後の1年以外は、発情します。これをどう考えればいいのでしょうか?

 この事実から、チンパンジーのメスは、大人になってからの生涯で5%ほどしか発情しないことになります。それに対して、ボノボは、約27%の期間、発情していることになります。オスから見れば、交尾ができる期間が、チンパンジーよりも圧倒的にボノボの方が多いのです。

 また、同時期にメスが何頭発情しているかというのも重要です。ボノボの場合、発情している期間が27%ということは、メスが10頭ほどいる集団では、常に3~4頭が発情していることになります。こうなると、順位の高いオス以外にも交尾のチャンスが広がります。逆の見方をすれば、ボノボの社会では、順位1位のオスだけでは、発情しているメスたちに対して、対応できないことになります。

 こうなると、ボノボのオスの社会では、交尾をするために互いの順位を争うという行為は必要なくなってきます。オスにとって、メスにどう好かれるかの方が重要になってくるからです。

 なんとなく、人間の社会と似ていると思いませんか?そう、好きな人と結ばれるという前提がボノボの社会にはあり得るのです。それ故、ボノボが発見されたとき、ボノボは人間の祖先だといわれたらしいのです。

 さて、そんなボノボの社会ですが、実はメスが中心にいる社会をつくっています。そんな彼らの社会を次回も覗いてみようと思います。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。

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