ヒトとは?人間とは?(1)

 まずは、チャールズ・ダーウィンが生きていた19世紀からスタートしたいと思います。なぜかというと、チャールズ・ダーウィンが初めて、ヒトも動物であり、ほかの動物たちと同じように進化してきたことに気づいた人であり、そのダーウィンが生きた時代だからです。

 18世紀という時代、もう、産業革命は始まっていました。産業革命が進行するにつれ、貧富の差は激しくなり、ダーウィンが生まれたイギリスの首都ロンドンでは、河川が汚染され、今では考えらないほどの異臭を放っていたようです。もっともダーウィンは、田舎町で生まれ、生涯田舎町で過ごしたそうですが。

 このころの、ヨーロッパの1つの価値観は、人間を含めた世の中は、神様が作ったというものでした。「今ある世の中は、神様が緻密に設計して作られたもので、その中でも人間は特別な存在であり、他の獣たちとはまったく別ものである」という考え方が、一般的でした。それを証明するために科学という学問があったほどです。

 そして、この科学を志す人は、非常に裕福な人しかなれませんでした。チャールズ・ダーウィンも例外ではありません。非常に裕福な家庭に育っています。今の日本のように、誰でもが教育を受けられるという環境ではなかったようです。

 そんなダーウィンがビーグル号という小さな船に乗り、アフリカ・南米を旅します。1831年のことでした。その翌年1832年にダーウィンは、フエゴ島に上陸します。そして、そこで見たフエゴ島で生活する住人の姿に驚愕することになります。以下は、ダーウィンの日記からの引用です。

 どれをとっても、これまで見たこともないような、じつに不思議で興味深い光景だった。野蛮人と文明人のあいだにこれほど圧倒的な違いがあるとは思ってもみなかった。人間には動物以上に改善の能力があるので、その違いは野生動物と家畜との違いよりもはるかに大きい。……世界中探しても、これより下等な人間は見つからないと思う。

 ダーウィンが見た当時のフエゴ島の住人は、ウサギの穴蔵のようなところで生活していたのです。動物と同じように、穴を掘ってそこで寝泊まりしていました。裕福な家庭に育ち、イギリスでの生活スタイルに慣れたダーウィンにとって、フエゴ島の住人は、当初、同じ人間だとは思えなかったことでしょう。

 しかし、ビーグル号には、イギリスをすでに訪れていて、イギリスの生活スタイルを経験し服を着たフエゴ人が船に同乗していました。つまり、イギリスの文明に触れたフエゴ島の人たちをダーウィンはすでに知っていたのです。同乗していたフエゴ人は、明らかに人間でした。ということは、フエゴ島で見かけた住民もまた人間なのです。

 5年の乗船のあと、ダーウィンは、イギリスに帰還します。帰還した次の年、ロンドン動物園を訪れたダーウィンは、オランウータンと初めて遭遇します。この時期、類人猿であるチンパンジーやオランウータンは、ヨーロッパでも非常に珍しい動物だったはずです。ロンドン動物園でも初めてオランウータンを公開したばかりでした。

 ダーウィンの目に、オランウータンはどう映ったのでしょうか?翌年、再びロンドン動物園を訪れたとき、ダーウィンは、鏡とペパーミントと木の枝を持っていったそうです。そして、それらをオランウータンにいじらせました。そのときのオランウータンの反応は、ダーウィンが予想していたとおりだったようです。鏡に映った自分に驚き、器用に木の枝を使いこなしたそうです。

 フエゴ島での経験とロンドン動物園で出来事から、「人間は、おそらくこのオランウータンたちと同じ祖先を持ち、そこから自然選択によって進化してきたはずだ」とダーウィンが確信した瞬間でした。

 この頃のダーウィンは、地質学にも興味を持っていて、地形が長い時間をかけれ築かれていくことを知っていました。生き物も地形と同じように長い月日をかけて進化してきたのだろうと考えられた背景には、こうした知識もあったみたいです。

 さて、今回から生物学的にはヒト、通常の社会では人間といわれている我々自身について進化の過程や遺伝子研究を含めた生物的研究から見えてくるものに関して書いていきたいと思っています。

 前回と同じように、結構脱線しながら、本から得た知識からどんなことが言えるのか、自分なりにまとめていきたいと思っています。こんな見方もあるんだなあという気軽な気持ちでお読み下さい。

 連載に当たって、参考にしている本を列記します。

 マット・リドリー著「やわらかな遺伝子」(Amazon Services International, Inc.)

 マット・リドリー著「繁栄」(Amazon Services International, Inc.)

 古市剛史著「あなたはボノボ、それともチンパンジー?」(Amazon Services International, Inc.)

 遠藤 秀紀著「人体 失敗の進化史」(光文社新書)

 今回から、マガジンを新しくします。できれば「エッセイ集Ⅱ」をフォーローをお願いします。

 エッセイ集Ⅱ もくじ


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