ヒトとは?人間とは?(8)

 ヒトが、チンパンジーやボノボの祖先と別れる前の時代は、非常に温暖な時期でした。今よりも広い範囲で森林が広がっていました。そして、我々の祖先は、その森林の樹木の上で生活をしていました。

 前回、子どもを多く作らない戦略という言い方をしましたが、実際は、そうした方法を我々の祖先が考えたわけではなく、今生き残ったいる我々の祖先が、たまたまそのような方法を選択していたのだろうというお話しです。

 逆の言い方をすれば、今の子づくり、子育て方法をしてきたことでヒト科の動物は、現在たくさん生き残っている生物のひとつとして、この地球上に存在していられるわけです。

 種を受け継いでいく方法は、他の生物たちを見れば、さまざまな方法があります。例えば、魚たちのように卵をたくさん産んで育てる方法があります。

 このうち、タラコでおなじみのタラは、さまざまな捕食者がいる海で卵を産みます。そのため、捕食者に食べられても大丈夫なように、卵を大量に産みます。その卵の大きさは、ご存じのように非常に小さいです。

 タラは、海底に卵を産みつけた後は、子育てをしません。つまり、孵化した卵が自然に育つのを待つのみです。そのため、稚魚の生存率は非常に低いと考えられています。

 それでも、種を維持できているのは、大量に小さな卵を産むからです。その数は、数十万から数百万といわれています。そして、タラのメスは、卵は非常に小さいですし、子育てもしないわけですから、卵つまり子どもにあまりエネルギーを注ぎません。多産少保護の典型例がこのタラだそうです。

 逆に、ヒト科は、生む子どもの数は少ないですが、大事に育てて種を繋ごうとする、少産多保護という方法で、子育てをし、種を繋げてきました。人間の場合、愛情を子どもに注ぐといいますが、まさに母親は最大限、子どもにエネルギーを注ぎます。

 こうした子育てを行うようになったのは、温暖な時期の森林、しかも樹木の上で、我々の祖先が暮らしていたからだと考えられています。

 森林の樹木の上は、海や地面に比べるとかなり安全な場所です。チンパンジーの大きさぐらいになると、おそらく子どもを捕食するような天敵がほとんどいません。そのため、捕食者を気にすることなく、生活していくことが可能になります。

 そうなると、子どもをたくさん産みっぱなしにするよりも、産んだ子どもを確実に育てていく方が、種を残す確率が高くなってきます。子どもを育てるために、メスは大量のエネルギーが必要になりますが、森林の樹木の上では、非常に多くの果物があり、場所をあまり移動しなくても食料が手に入ります。そうした環境の中、ヒト科の先祖は、必然的少産多保護のかたちになったのだろうと考えられています。

 そうなると、子どもが生まれて育つまでは、次の子どもを宿す必要がありません。そのため、必然的に妊娠しづらい方へ進化したと考えられています。

 さて、次回は、チンパンジーのオスたちの話をします。ヒトがなぜヒトを殺してしまうのか、戦争をなぜ起こしてしまうのか、そのルーツが見えるかもしれません。あまり面白い話ではありませんが、お付き合い下さい。

 エッセイ集Ⅱ もくじ

 参考文献は、ヒトとは?人間とは?(1)に記載してあります。そちらを参照して下さい。


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