2022ディベート甲子園試合メモ①灘中-東海中

こんにちは。

前回はコレ(https://note.com/kkywkign/n/neaa6578aadf8)を書いていたのですが、宝塚観劇をしたりJDAの準備をしたりしていたら更新が滞りました。すいません。近々上げます。

今日はちょっと別の内容を。選手の方からdiscordやDMでこの試合の判定や改善点を教えて欲しい、というような話が来ており、かつ一部の試合では選手の方から判定例を戴いたりしたので、その辺りを見ながら幾つかの試合にコメントを付けていこうと思います。あくまで個人の感想であり、所属団体等々を代表するものではありませんので、その辺りはご了承ください。

◆ 中学準々決勝 灘-東海

パート別の簡単なまとめと、各パート担当者へのコメントを併記します。各パート名の部分にタイムスタンプ付のYoutubeリンクを掲出しております。

肯定側立論

非常に聴き取りやすいスピーチでした。

議論については、タブレットやGIGAスクール端末などの代替端末に関する分析が(反駁を見越して)厚めに行われていたのは良いです。ただ、重要性の深掘りについては、GIGAスクール端末等を使わせる肯定側の世界観と「未熟な子供に使わせるな」というimp1が噛み合ってなかったり、やや整理を付けるべき部分があったかなと思います。

既に出されている議論との関連で行くと、スマホのように親の目が届かない端末ではなく(inh3-4)、GIGA端末のように国や教員などの管理の及ぶところ(inh5)で扱うようにすべきで、まだ未熟で判断能力に乏しいこの機にリテラシー教育を行うべきである、というような趣旨のimpが添えられていれば良かったかと思います。

否定側質疑

質疑応答共に、落ち着いてコミュニケーションが取れていましたが、全体的に否定側がやや聞きあぐねていた印象です。

追加プランに関する財力や目的の質疑については、聞いてその後どうするのかが見えてきませんでした。キッズケータイ配布の実行可能性がないことを叩きたいのかな、とも思いましたが、neg側も配布が不可能だと論証することは難しいように思えますし、1NRで実行可能性の立証を相手に課すことで1ARにプレッシャーをかけることが目的ならば別に質疑で時間を使う必要はなかったかな、と思います。一方、肯定側もGIGAでやれているから…と言っていましたが、現状の施策と同額規模(よりは少ないと思いますが)の端末を追加で配布することに財政的可能性があるかどうかは議論の余地があると思います。非常に単純化すると予算2倍という事ですからね…

SNSでつながっていれば犯罪が起きるのではないか、という部分に対しては、やや肯定側の応答が良い感じに返したかな、という印象です。代替端末には「いつでもどこでも」はアクセスできない、という点があり、そこが差分だと強く協調しています。今後出てくるであろう「フリーwifiで代替端末からアクセス」などの反駁への布石の応答かなと思いますが、逆に言えば1NRも「外の公衆wifiはいくらでもあるため、既にゲームやタブレットでも外で問題なくアクセスできている」という事は指摘の余地があるかな、と感じていました。affのプラン前後の差分が、共用/GIGAによる監視の目とどこでもアクセス可/不可だという2点だと思うので、1NRはここをそれぞれ叩けばかなり肯定側のメリットは減じられるでしょう。

全体的に、質疑は上記のような内容整理と、どこまで立証したかの確認を行うほうが1NR以降につなげやすく、貢献度が高いというのが僕の理解です。その意味では、短い2分間をどう使うか、という部分について、チーム全体で戦略を組むことが大事ですね(中学フォーマットだと特に時間管理が難しいので…)。

否定側立論

こちらもスピーチは聞きやすかったです。

議論については、SQ3辺りの説明が若干唐突で(いきなり安否確認の定義を説明されると困惑します)したが、議論内容としては理解できました。

ただ、(この辺りはジャッジによって取り方が違うことを強調したうえで記載すると)否定側が述べている災害時の避難遅れなどの種々の問題が、果たして迅速に安否確認ができなかったから、なのかは否定側立論の立証を聞いてもあまり腑に落ちはしませんでした。例えば、SQ5やAP2の事例についても、そもそも国民の迅速な避難意識の欠如が課題であって、安否確認が取れるか否かが避難の遅れを招いたのか?という部分は直感的に疑問が残りました。AP2の事例も、お兄さんを学校で拾って、家に戻って、そこで津波、という話でしたので、安否確認が迅速に行えたとしても避難が間に合ったかはよく分からない事例だなぁ、と思ったりはします。そもそも津波については「津波てんでんこ」という教訓に代表されるように、安否確認など取らずまずは迅速に避難を完了し、そこから安否確認を取るべきだ、という姿勢があるべきのようにも感じますので、この辺りはより丁寧な論証が欲しいなぁ、というのが正直な感想です。

上記ほどの介入を立論段階で行うわけではないのですが、聞いた段階でどうしても頭の中に軽く?が浮かんだことは事実なので添えておきます。ただ、この辺りの違和感は正直今期論題を聞く中でずっと感じていたことであり、negが想定する具体的なケースの発生数なども含め、災害DAはもう少し議論を深めてもらえると、より取りやすかったかな、と思います。個人的には論旨が明快かつプラン前後差の分かりやすいSNS相談手段のDA等の方がイニシャルでは取りやすかったですね(当然個々の議論の論証や反駁まで含めた残りやすさ/勝ちやすさは別途議論の余地がありますが、あくまで立論のイニシャルの立証への納得度は総じて相談手段の方が高いという個人的認識です)。


肯定側質疑

やや緊張が感じられる質疑でした。大きい舞台なので緊張するのは凄く分かるのですが、やはり時間が短いので、質問項目を絞って整理して聞く事ができるとより良いですね。

最初の質疑であった「SQ1の持ち込みは実際できているのか?」という指摘については、その通りだとは思う反面、GIGAスクール端末の存在を内因性で認めているaff視点でスマホ✕GIGA○というような学校の運用があり得るかは若干怪しいなとも思いました。ここは突っ込むならaffから説明がいりそうですね。この辺りはGIGAスクール端末世代ではない僕にはあまりイメージができないです…

affとしては、NCの項目で僕が書いたような、そもそも連絡手段があればみんな避難出来て実害起きないんだっけ?という部分への質疑を深めたり、或いは、そもそもDAが対象となるケースって、家でも校内でも安否確認は取れるから、登下校中とかそれくらいの話ですよね?どれくらいの可能性なんですかね?みたいな話を振るのはあったかもしれないですね。否定側の話が全体的にふわっとしているので、具体的なシチュエーションや具体的な当事者の行動を分析することができると良いかなと思います。


否定側第一反駁

反駁のクオリティは高かったです。一部機能が怪しい反駁もありましたが、総じて密度は高かったです。

反駁を順番に分析すると、

①高校生に移行する→そういう人もいるだろうが、小学生「が」…という犯罪者もいるだろうし、全部が移行するかは微妙かな、とは思います。<削る反駁と評価>

②現実の性犯罪に移行する→資料が再犯を繰り返すという話なので、主張を特にサポートはしていないという認識です。自撮り要求者がそのまま現実で性犯罪を犯すのかはよく分からないですね…<当たっていない反駁と評価>

③SNS利用モチベはあるから、代替端末を買う→話は分かりますが、証人欲求が強い人がそうする、という趣旨だったので、みんなが買うわけではないという理解です。性犯罪に巻き込まれる人がみんな証人欲求が強いかどうかも怪しいので、ここは評価の取り方が分かれますが、個人的にはsolを一定削っているかなという理解です。<削る反駁と評価>

④外のフリーwifiを使う→話は分かるし、普通の試合だと結構評価するのですが、この試合はcaseがしきりに「いつでもどこでも使える」ことを差分として出していた以上、フリーwifiでどの程度「いつでもどこでもアクセスできる」のかは分からないなぁという認識です。アクセスが可能なことは分かりましたが、既に子供が公衆wifiを使っていつでもゲームからネットにアクセスしている、とか、そういう話を加えてもらえると良いかなと思います。

例えば、コンビニでwifiにアクセス、といっても、東京なら歩いていればすぐつながるのかもしれないですが、田舎ならそもそもフリーwifi拾うのにも一苦労する可能性が高いですし、そのような行為が恒常的にできるのか(毎日登下校中にフリーwifiを使ってSNSにつなぐとか、そこまでできるのか?)、みたいなところも含めて、より現実の動きを具体的に説明して欲しいというのが個人的感想です。

③④共に肯定側を削る反駁ではあるのですが、「削る」の度合いはジャッジによって受け取り方大きく変わるな、と思いますし、上記のように僕個人は「まぁプラン後もそういう事はあるけど、affのメリットそんなに大きく削れるんかなぁ?」という印象でややaff寄りに受け取ります。

⑤追加プランの実行可能性→目的がないのに配れるか?という話は、反論としてもよく分からないですね。そもそもnegで言っていたような緊急時の連絡手段確保という目的があります、とaffが言ったら終わりですし、目的がない政策が認められないのかも不明です。<当たっていない反駁と評価>

上記をまとめると、総じて代替端末の反駁の件をどれくらい大きい反駁として評価するかがポイントとなりそうです。イニシャルでの反駁評価はかなり分かれる認識ですね。


肯定側第一反駁

ちょっと焦りが見えましたが、必要な所には触れていた印象です。

<ブロック>
・小中学生は未熟、高校生は話が違う→これはよく分からないですね。高校生が精神的に未熟じゃないかも怪しいですし。
・SNSの犯罪は一生残る→現実の犯罪もトラウマなのでは、と思うので、特に大きな差があるかは不明です。等しく問題でしょう。
・フリーwifiは一部→これは納得。
・キッズケータイは緊急時の目的がある→これも納得。

<アタック>
①スマホを持ち歩いているか立証がない、災害時に持っているか不明→主張は分かりますが、持っていないという立証もないので、肯定側優位には取りづらいです。
②SMSは災害時にインターネットよりも強い→最もaffに対して好意的に解釈したとして、ネットもSMSも一長一短ですね、という風にはなりますが、否定側が深刻性で言っている「手段は多い方がいい」については特に覆らないですね。
③AP2、スマホがなかったから人命が失われたのか不明→同意します(イニシャルでこの資料の立証に疑問を持っているので)。
④災害の規模頻度が不明→同意します。

という受け取り方です。総じて、caseフローについては、フリーwifiが一部であり、代替端末が十分機能するか(そんなに誰もが代替端末でwifiにつないでSNSを触れるか)は怪しいが、犯罪の対象が高校生になったり、代替端末で引き続き犯罪に巻き込まれるケースはあるだろう。DAフローについては、連絡手段が多いに越したことはないが、プランでそもそも避難遅れ等々が解決するかはよく分からないなぁ、というのがこの段階の僕個人の評価になります。

この段階ではかなり比較でどう投票するか迷うところではあるので、第二反駁のスピーチで投票が決まるかな、と思っています。


否定側第二反駁

否定側としては、AD=0、DA>0、という比較を出していましたが、そこに乗れていないジャッジの視点ではちょっと難しかった印象です。結局犯罪の移行についても全数が移行するとは言ってないので、メリットを無いと取るのは厳しいかなぁ、という感覚があります。

肯定側フローについて、小中学生はズル賢いからフリーwifi(コンビニ、駅)で色々つないでやるだろう、という部分はもう少し解像度高くコメントが付くと良かったですね。否定側フローも、連絡手段があると結局どういう人が救われるのか、という部分を再度丁寧に説明してもらえると良かったかな、と思います。

否定側から欲しかったのは、「結局affの話はなんだかんだ、対象が移行したり、代替端末に逃げたりして、かなり漏れのある犯罪削減策である。一方否定側は、手段が確実になくなるという部分が残っており、災害時はイレギュラーが起きるのだからなるべく多くの手段があった方がいい、というimp1の観点が全く否定されていない。構造的な手段喪失という変化が生じる事の方がより問題であり、性犯罪も大して解決しないのだからnegに入れるべき」という比較でした。こういうスピーチが出てくるとかなり良かったかな、と思いますが、自分が中学生の時に同じスピーチをできる自信はないです…

肯定側第二反駁

caseフローのまとめは、勝つならこれしかない、という伸ばし方をしていたかな、と思います。フリーwifiと比較し、いつでもどこでもアクセスできる端末の利点を伸ばしたうえで、スマホ固有の特性からプラン前後の差がある事を明示しています(リアル犯罪云々の件は1NR段階からあまり取ってないです)。

DAフローについては、震災以降でSMS相互接続機能が追加された、という論点はレイトだという認識です。

肯定側に欲しかったのは、「そもそもスマホという固有の媒体がなくなることでの性犯罪減少メリットは減じられていない、移行についても小中学生を守ろうというaffの理念も反論されていない、否定側はキッズケータイ含めて代替手段は一定あるし、そもそもプランで人命救助とか行動変容まで行くかは分からない」みたいな方面ですね。ちょっと1AR段階で喋ってくれよという部分が若干ありますが、caseのまとめは納得度高いですね。


判定

自分はNC/1NRの反論をイニシャルであまり評価していないのでaffに入れます。具体的には、

・caseの性犯罪については、スマホ固有のいつでもネットにつながる機能、個人所有の質的差からメリットは発生する
・高校生へのターゲット変容は立証不足という判断

・DAについては、lineが差分としてあった方がいいことは分かる
・が、人命救助などの実効的なアクションでどれくらい差が出るかは立論段階からやや不透明
・手段が増えることは分かったが、上記の問題解決にこれがどれくらい寄与するかは明示されておらず、手段はあった方がいいね、くらいの評価にとどまる

・上記を踏まえると、少なくともスマホという手段を奪って性犯罪の大きいルートを塞ぐ方が、災害時の連絡手段のオプションが増加する事よりも大きいメリットがあるのではないか

という評価です。

逆に、negに入れるとすれば、DAをより大きくとり、

・少なくとも連絡手段は多い方が良いし、lineは災害で役に立っている
・安否確認によって救える命は十分ある

と立論をそのまま受け入れたうえで、caseはなんだかんだ解決量が不透明なので、より多くの選択肢があるnegを取ろう、という投票になると思います。

ジャッジが立論反駁の評価をイニシャルでどの程度介入するか、は人によってかなり分かれるところですが、私は議論を出す側にもジャッジが納得するだけの立証責任を求めるスタンスですので、イニシャルでの評価をやや下げています。こうした取り方は、生徒の方の視点からだと「相手から反論がなかったのに評価が低いんだけど!」となると思い、心苦しくはあるのですが、とはいえ「ジャッジ自身はよく分からないけど、反論がないからこの試合では分かったことにしよう!」とするのも難しい話なので、ご容赦ください。

総じて、色々コメントは付けましたが非常にレベルの高い試合だったと感じています。判定が3-2になるのも納得です。そして、既に字数が6000文字を超えており、このペースで試合を振り返っていると仕事にもJDAにも大きな支障が出るのではないかという不安が…


そろそろ9月という事で、秋冬シーズンからは幾つか新しい活動を行っていきたいと思っています。合間合間でこうした試合コメントなども上げればなと考えております。引き続きよろしくお願いします。

(何かあればこちらに。)


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