日本語競技アカデディベート、パート別ワンポイントアドバイス(前編)

こんにちは。今回もディベートの話です。

前回記事

の下部コメント欄にて質問や要望等を募集したのですが、その中で下記のような内容を戴きました。

自身が筑駒在学時に書いたディベートガイドがあるので、それを軽く焼きなおせばいいや…と思って回答したのですが、実際に公開するとなるとデザインや構成等で納得がいかず、結果ほぼ白紙状態から作り直しております…

画像1

(こんな感じ。)

 というわけで、とてもじゃないけどお盆中に公開できる形になく、代わりに上記テーマにて記事を書くこととしました。

 今回のテーマは、ジャッジやコーチ等を担当する中で行うアドバイスについて、パート別に「お伝えする頻度が高いもの」を抜き出したものとなります。体感的には、関東予選敗退~通過、であったり、全国予選敗退~通過、くらいの境目の状態の選手の方にお伝えすることが多いかな、と思う内容が中心となっています。

 本来、アドバイスというのは選手の個別の特性や、試合展開、議論の傾向等によって内容や価値が変わるものですし、こうやって抜き出したとしてもそこまで価値があるか、とか、実際問題直すべき課題なのか、というのは不透明ではあるのですが、自身の指導経験からもお伝えする機会が多い、即ち多くの選手の方が抱える改善点だったりするのかな、という気持ちで、筆を執っております。というわけで、ご笑納ください。

立論

私が立論者によく伝える事ですが、立論者の価値は、「立論を読むこと」よりも「適切に応答をすること」のほうが比重が大きいと考えています。極端な話、ちょっと聞きづらかったり早かったりしても、ジャッジは聞く努力をしたり脳内で補正を行う事で議論を適切に拾ってくれるケースが多いですが、応答で致命的な回答をしてしまった場合、応答は立論の補足として扱う為、かなり立論段階の評価を下げざるを得ません。

実際、ジャッジをしていると、毎年必ず「肯定側立論が否定側質疑にボコボコにされ、応答も失敗しており、この段階でメリットがほぼ切れているので試合としては殆ど終わってしまった」というような試合に出くわします。質疑の内容は第一反駁で伸ばさない限り反駁として評価しない扱いになっているため、厳密にいえばまだ終わってはないのですが(1ARでターンが刺さり、ターンに投票する可能性もある)、ただ、ゲームの趨勢はほぼ決まってしまった…となってしまいます。かつ、上記のような試合は、得てして応答者や肯定側もあまり「質疑段階で詰んでいた」ことに気づいていないように見受けられるケースが多いです(体感的な話ですが)。

そして、それ以上に頻発しており、かつ致命的なのが「立論段階の別の個所やクレーム等ではAと回答しており、その説明には納得していたのに、応答ではBと答えてしまい、試合もBという前提で進んでしまったので、立論の評価をかなり減じた」となるケースです。

このケースにおいては、議論作成者と立論担当者が異なっており、本来の議論作成者の意図を理解しないまま応答をしてしまっているのだと思います。結構良く見る光景ですし、議論作成者が「じゃ、これで、読み練しといて」と立論担当者に投げて終わり、というケースも指導の現場で見たりするのですが、これは立論担当者も議論作成者も両方とも得をしないので、やめましょう。

少なくとも、議論作成者は、各論点のクレームをどう伸ばす想定なのか、こういった質疑が来た場合にはどう応答すべきなのか、というところは立論担当者と認識のすり合わせを行うべきです。また、その際、必ず文字の形にして説明すべきです(会話で説明しても、文字起こしして後日見返したらロジック破綻していた、となりがちなので、全員が見れる形にすべきです)。

そして、立論担当者は、応答者としての職務をしっかり果たすため、模擬質疑応答や応答方法の確認などに時間を入念に割くべきです。読み練は部活中にやらなくてもできますが、模擬質疑応答や応答の確認は他の部員が居ないとできません。優先順位を意識しましょう。

質疑

質疑に対して出てくるコメントは、おおよそ下記に集約されます。

「質疑中に反駁をしないで」
「反駁に影響を与える部分を聞いて」
「一問一答で終わらないで」
「応答者の話をもう少し聞いて」

1つづつ説明していきます。

「質疑中に反駁をしないで」…よくありますが、「~~だと思うんですけど、どうですか?」のような質疑は、評価されないケースが多いです。
例)スマホ論題について、「解決性に聞いていきたいと思うんですけど、プラン後、他の端末とかで自画撮りとか送っちゃうと思うんですけど、その辺はどう考えてますか?」など
内容としては反駁のようなものなので、~~という前提があるのなら、反駁でその内容を立証してからにしてくれ、というのがジャッジの正直な気持ちです。また、「どうですか?」と聞かれても、応答者視点は「そうは思わないです」と回答するしかないだろ!意味ないじゃん!という風にも思います。試合で有効に機能する質疑にはならないので、やめましょう。

「反駁に影響を与える部分を聞いて」…上から下に聞いていくこと自体は悪くはないのですが、そこを聞いてどうする!となるような質疑が続くケースも一定見ます。質疑応答は基本的に「反駁の準備」になるので、反駁する予定のないところや、回答を得ても議論評価に影響しないところを聞くのは時間がもったいないのでやめましょう。

「一問一答で終わらないで」…質疑原稿を質疑者が読み、応答者が「立論中では述べていません」や「良く分からないです」などの応答をし、「わかりました、次の質問に行きます…」と次の原稿を読むシーン。これ、非常にもったいないです。某スヌーピー好きの方も講評で良く仰っていますが、立論中で述べていない、と言われたら、じゃあ今答えてください、と返してほしいです。応答は立論の補足なので、応答者が質問に対して補足することは何ら問題ありません。また、「立論中では述べていません」という回答は、「そこを立証していないんだな」という情報しか引き出せておらず、非常にもったいないです。後にも記述しますが、質疑者は沢山の論点に聞いたら偉いわけでも、3分間聞き続けたら偉いわけでもないので、深堀するべき論点については、一問一答で終えず、更に質問を重ねましょう。

「応答者の話をもう少し聞いて」…これはコミュニケーションの問題です。応答を遮るのが早い選手の方が一定いらっしゃり、コミュニケーションの観点からは減じられますので、もうちょっと話を聞こうね、という。


では、質疑は何をすべきなのか?という話なのですが、基本的に質疑は「反駁の準備」をする場所であり、具体的には「相手がどこまで立証していて、何を立証していないのか」と「相手の議論はどことどこがつながっていて、どことどこのつながりを示していないのか」の2つを問う場所です。

例えば、

「解決性1の2枚目の資料は、1998年のイタリアで、こういう事例があった、って話ですよね?」「これ以外の事例とか、全体的な傾向がどう、とかは、立論中では証明してないですよね?」

というような質疑は、後の反駁で「2010年の日本の分析」や、「統計的なデータ+イタリアの事例を採用すべきでない理由」などを読むことにより、相手の資料を棄却させることにつながります。のちの反駁の布石となるわけです。

また、もっと露骨に、反駁ブリーフのダウトの部分をそのまま読む、という手もあります。

「解決性Xで、ここでは、『スマートフォンを取り上げることで性犯罪に巻き込まれなくなる』と言っていましたが、これはあくまでスマートフォンという手段がなくなるからそうなるだろう、という話であって、他の手段に移行する/しないとか、スマホを没収された生徒はSNSなどもやらず大人しく過ごす、というところまでは言ってませんよね?」

というような形。1Rでやるから言わなくてもいいじゃん、となる一方、立論段階から論証が不十分である旨をジャッジに印象付けることで、後の反駁を取りやすくする効果が期待できます。


一方、三要素単位でのつながりを聞く質疑もかなり重要なものとなります。高校論題でよくあった例ですが、

「内因性の5点目で、Co2排出により熱波や台風が発生している、とありましたが、これ、解決性のCo2削減量で熱波が減るとか、台風が減るとか、そういう話は別に立証してないですよね?」

というような、内因性で上げた問題が解決性で解決するのか、それが重要性とつながっているのか、という部分を突いてくれることで、ジャッジとしてもメリット/デメリットの評価をかなりしやすくなります。

このように、質疑者は自身の反駁の展開を確認しながら、反駁で言う内容を先出ししつつ、立証が不足していることをジャッジにアピールすることが責務となります。ですので、当然質疑者と第一反駁者は準備時間に反駁の方向の確認を行うべきですし、どの論点を重点的に聞くべきかはチェックすべきです。

また、質疑で聞く内容も、反駁ブリーフとセットで扱うものが多いため、事前に準備ができるはずです。この反駁を読む前提なら、この論点にこういう回答を引き出したい、というような確認を事前に行いましょう。


両パートに共通する事

立論質疑と一二反で完全に別れてしまい、反駁陣は準備時間に議論確認、立論質疑は言われた資料請求をやったり暇になる、という形で、試合中のコミュニケーションが断絶しているパターンを見かけます。年次が下だったり、議論作りにかかわってなかったり、様々都合があるのかと思いますが、上記のように応答も質疑も試合の勝敗を左右する大事なパートですので、チーム全体でコミュニケーションを取って、戦略を確認するようにしましょう。立質を軽視するようなチーム作りをしていると、いかに反駁担当者が優秀だったとしても負けます。

また、応答質疑は勝敗に影響を大きく与えるパートです。応答ミスは負けに、質疑の成功は勝ちに直結します。両パートを担当される方は、是非自身のポジションによりこだわりとプライドを持って、事前に反駁担当者や議論作成者との打ち合わせを行いましょう。



立質だけで結構書いたので、反駁パートは後日…。

質問などがあれば、コチラにお願いします。


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