#ディベート甲子園2023振り返り 第2.5回(東海高-岡崎高)

こういうことで、このnoteを準備してます。

上記マシュマロの通りこの試合の主審を担当していたため、基本的な試合の割れるポイントやアドバイスに関する部分は講評で喋っているのですが、改めて試合音声を聞いてパート別の感想などを書こうかな、と。また、否定側の東海高校については、先週末に振り返り配信で同じサイドを見ていますので、そこでの言及も一部引用しながら書いていきます。


◆本稿について/注意!

試合を聞く時、自分は基本的に2つの視点で思考・検討を行っています。

①試合のジャッジとしての評価
→パート毎、各議論について評価を下し、比較し、判定を出す立場としての思考・検討。各論点の立証や反駁の内容などを検討する

②ディベート指導者としての評価
→選手に対してアドバイスを送る立場として、チームや選手に対する評価を伝える思考・検討。判定には影響しない内容だが、議論選択やスピーチ技術、チーム戦略に関する感想など

基本的に、試合後の講評では①を多めに喋ります。後は、ディベート普及者として、社会人として、中高生の皆様に届けるメッセージなど。この試合ではディベート甲子園における「ライバル」について、自分の思うところを喋らせて戴きました。

その点、②の観点の話は試合後の講評で伝える事は殆どありません。そもそも選手は勝敗が気になっているのでアドバイスはあまり届かないものですし、②で思っている内容は次の試合までに直るレベルでないものが多いからです(もちろん、改善が容易なコミュニケーションの課題や、こうすれば勝敗が変わった、という文脈で話す事はあります)。練習試合や、今後を見据えた位置づけの試合(全国出場が決定している学校同士の順位決定戦など)では結構ストレートに②の話を伝えるのですが。

そういったわけで、今回はかなり具体的に、パート別に①②それぞれの観点で思った話を書こうかな、と思います。特に②の話は選手視点だとショックなこともあるんじゃないかなと思うので、苦手な方は視聴をお控え戴ければ。

大会も終わって、選手の皆様も比較的客観的な視点で試合を振り返る事が出来る時期かと思いますので、僕も素直な感想を書きます。ただ、選手への批判の意図は全くないですし、(ないと思いますが)本記事を用いて当該試合の選手を批判/非難することのないように、くれぐれもお願いします。

また、当然ながら下記の取り方やアドバイスは単なる1ジャッジの見解に過ぎない事にもご留意ください。実際の試合は2-1で割れており、逆サイドへの投票理由も非常に納得できるものでした。普段なら「ここは解釈が割れる」「こう取る事もできるし、こう取る事もできる」と言及するのですが、今回は記事の趣旨上、敢えて自身の見解のみを書いています。

もしできるなら、他のジャッジの方にも同様の形式で記事を書いていただき、論点別の評価やコメントの差をみて自分も勉強することができれば面白いのですが、何しろこういった記事執筆には莫大な時間と労力がかかるので、難しいですよね…
配信の方がやや簡便にできるものの、それでもゲストで来て戴くジャッジの方には多大なご負担をお願いしており、有難い限りです…。

さて、それでは実際のスピーチを見ていきましょう。

◆肯定側立論

①試合のジャッジとしての評価
◆重要性の2枚目はイニシャルで棄却している。
・被害者を再犯者より優先すべき、という説明では、何を優先するのか、何故優先するのか、が分からない。
・資料で読まれていた新潮の記事も、一番大事なのは被害者、我々庶民である、というような、根拠不明のお気持ち記事であり、証拠能力は認め難い。
・「被害者を生まないために足輪を付けるのは正当化できる」と主張したいのだろうとは思うが、そもそも足輪を付ける対象は「再犯可能性がある人」であって「再犯した人」ではないし(足輪を付ける段階では再犯をしていないので)、正当化できる根拠が「被害者が可哀想」みたいなふわっとした理由では評価ができない。
・重要性の1枚目は、PTSDになると生死を左右する苦しいことになる、という部分は取っているので、重要性がゼロという取り方にはなっていない。被害者が出たら辛いし、出来る範囲で避けるべきだ、くらいの取り方。

◆その他の論点は立論段階で特に棄却等はしていない。

②ディベート指導者としての評価
◆やや勝ちづらそうな立論戦略だな、という印象
・肯定側の立論は、最後の資料にある通り、「犯罪者の動機は変えられなくても、場所/時間という機会を抑止してしまえば再犯ができない」というものと理解している。内因性でも犯罪者は再犯モチベーションが高く、犯行が露見しないように綿密に準備する旨の言及がある。
・つまり、モチベーションについてはプラン前後で差がないことを認めているため、ADを評価させるにはプランによって犯罪機会が適切に抑止できる、という立証を最後まで守る必要がある。
・相手が上手ければ1NRは当然プランによって機会抑止ができない旨を重厚にアタックしてくるはずで、そうなると1ARで相応のブロックを積む必要があり、アタックが薄くなりえる。すると勝率は下がる。
・仮に前述の試合展開を想定するのであれば、立論内に相手の立論を切るための仕込みを入れることで、アタックの時間を圧縮する必要があるが(固有性アタックになりえる分析を立論に入れ、クロスアプライでアタックを一部代替する、など)、それに足る資料は見当たらない。
・結果として、相手の1NRに適切にアタックを積まれてしまうと、1ARに相当の負担がかかってしまうタイプの立論だな、という感想を抱く。
・練習試合であれば、上記旨を話したうえで、制度を導入するだけで生まれるメリットを強調するように議論の構成を変える事を提案する。例えば、解決性最後の資料を消し、他方でAの韓国の事例の付近を独立した論点にし、電子監視による心理圧力で対象者の再犯モチベーションが減退する旨を強調する(勿論、既存の議論構成でも2ARが再構成すれば取れなくはないが、立論の説明の筋がかなり「犯罪者は計画的、場所や時間を選んでる→プラン後はそれぞれ抑止できる」という説明構造になっているので、聞いた時に無理筋と感じる可能性はある。ちなみに、解決性2が説明なくいきなりABに別れているのも、上記解釈を生む遠因となっている。クレームで補足があると良かった)。

◆aff/negの比較基準として用意していたであろう重要性の2枚目をジャッジがどう取ってるか、チェックしていたか?
・僕は(自身の信条として)議論に対する評価を常に大きくリアクションするように意識しているので、当該資料を取っていないのは見れば伝わったはず(大分大きく首を曲げた)。
・3人ジャッジのうち1人以上が取っていない可能性が高い、ということは、2票以上取るゲームにおいてこの勝ち筋と心中するのはリスクが高いと分かり、必然的に他の投票構成も強めにアピールする必要がある。つまり、第一反駁以降のスピーチの構成も変わりえる。
・この辺りの情報をチームメイトがジャッジのリアクションを見るなどして把握していたか、チーム内で共有できていたか?という部分は気になる(もし気づいていなかったのであれば、ジャッジを説得する競技である以上、そういった部分も票を取るための要素として意識した方が良いよ、と伝える)。

ちなみに、僕はディベート界のジャッジの中でも特に議論に対するリアクションを露骨にやる方だと自認しています。これは、自身が選手として「議論を投げてノーリアクションのジャッジより、ハッキリ首を振ってくれた方が取捨選択がしやすく、喋りやすい」と思うために意図的にやっているものです。首を振ると選手に対して威圧的で良くないという意見がある事も承知しつつ…(これらの話は、ノーリアクションのジャッジに対して何か批判的な意味が含まれている訳ではないということは念押しさせてください)

勿論、立論自体のクオリティは(重要性2は取りませんが)総じて高く、選手の皆さんの努力の結晶であると感じる所です。他方、議論の選定の段階で、チームとしてどう勝っていくか、という視点をより意識されると、より良い結果につながりそうです。

◆否定側質疑

①試合のジャッジとしての評価
◆腕時計型は視認できる、で合意を取ったところは大きい
・恐らくだが否定側の発生過程の起点にもなる部分で、肯定側がここを争わなかったのは意外。
・それ以外の質疑は特に追加情報や立論への印象を変えるものではなかった。

②ディベート指導者としての評価
◆もう少し具体的な追及することができたのではないか
・例えば、(装置を)切断したら警察はどう把握するのか、という質問の部分は、結構あっさり終わってしまった印象。
・ここで「え、でも、肯定側ってプランで夜は家にいる事、とか義務付けてる訳ですよね。これ普通に足輪切断して家に置いといて深夜普通に再犯したらバレなくないですか?」と突っ込むことはできただろう、と思う。
・先に述べた通り、否定側のテーマはプランで場所/時間の制約が十分行えない事を明らかにする事であり、その点からも、この監視装置じゃダメそうだぞ、という印象を抱かせたい(後の1NRで足輪破壊事例等を読む場合は特に)。その観点で、この論点をアッサリ終わらせるのは勿体ない。
・その点、Bの論点でやっていた「50%の人は昼間にやっているんですよね?」という質疑は、時間抑制効果の限界を指摘するもので、良い着眼ではあった。但し、応答に関係ないことを喋らせすぎなので、ハイかイイエの2択を強いるか、応答を遮るべきだった。
・この論点も「時間の観点からプランで抑止できるのはこの5割だけですよね?しかも、内因性の資料中で痴漢は朝の通勤時間帯って話が出てたと思うんですけど、こういうのはプランで全く抑止できないですよね?こういう人も痴漢されたら重要性で言ってるようにPTSDとかになって辛いですよね?」くらい突っ込んでいれば、かなり肯定側の立論の評価を下げることに成功したと考える。

相手の応答が不十分だった場合、引き下がらずにもう一段突っ込んで聞くようにしましょう。論点を絞って必要な部分に圧をかける質疑の方が投票に結びつきます。

質疑を行う上での技術的なポイント等は、前回の振り返り配信のこちらの部分でも喋っていますので、良ければ聞いてみてください。


◆否定側立論

①試合のジャッジとしての評価
議論自体は良く整理されており、練られていた。
強いて言うなら深刻性のメ―ガン法に関する補足は立論内であっても良い。初見ジャッジを置いていく可能性がある。

②ディベート指導者としての評価
◆発生過程1Aは勝ち所になりえるので2NRで伸ばせるかが勝負
・ADは制度導入した瞬間に確実に生まれる差を明確には示せていないが、DAの腕輪が視認され、それがストレスになる、という部分はまずほぼ無条件で残る論点。UQ3と併せるとDA=0となる事は殆どない。
・ADの発生が怪しい旨を散々ケースフローで見た後に、「我々は確実に起こるDAを示していて、それは何か。発生過程1Aです。」と2NRで喋る事が2NRのスピーチ構成の1つ大きな強みになる可能性は高い。
・これらを事前に勝ちパターンとして認識し、チーム内で共有できているかが気になる。出きていたら戦略的で素晴らしい。

◆ストレス→自殺、「→自殺」は必要か?
・死ぬから発生を大きく評価する訳ではない。
・ミミさん+韓国で自殺を大々的にアピールしているが、2枚読むほどの価値は感じない。
・こうしたストレスが社会的孤立や失職を通じて再犯の因子になりえる、という深刻性3の論点は肯定側への強烈なアタックになるのだから、ここのロジックを丁寧に補足する方が勝率は上がるだろう。

◆深刻性2が宙に浮いている
・論旨は理解するしかなり取るが、メリットデメリットの観点で考えた時に、この話が何をサポートしているのかが不明。
・これは肯定側のインパクトにアタックとして読むべき資料であって、立論の構成上は不要。
・とはいえ、1NRで読む時間がないから無理やり置いたんだろうなぁ…とは理解する。
・読み方として、「プランは正当化できない」というクレームでは、メリットデメリット比較方式のディベート甲子園では評価の位置づけが宙に浮いてしまうので、何かしらメリット/デメリットの観点からの論じ方に修正する事が望ましい。「対象者はあくまで再犯の可能性がある人、であり、本人が犯行を犯すことが確定ではない以上、確定的ではない再犯抑止というメリットよりも、具体的にストレスがかかるデメリットを優先して評価するべき」という感じの当て方など。ちなみに、論題の肯定を妨げることを役割とする大学以降のディベートではこの読み方でOK。

◆肯定側質疑

①試合のジャッジとしての評価
固有性2の満期釈放者か否かという事実確認は良かった。

②ディベート指導者としての評価
◆反駁につながる質疑だったか?
・論点を総花的に確認しており、1つ1つの論点に対する深堀がなかったため、立論をフローに取れているジャッジとしては「立論のおさらい」止まりになってしまう。
・質疑は第一反駁との議論面での連携が大事であり、第一反駁で読む反駁と連動した質疑を繰り出せるよう、チーム内で準備や認識のすり合わせができると良い。

ちなみに、自身が質疑に関して指導をする際は、いつも下記手順でコメントを付けています。

・まず第一反駁のアタックのブリーフを作ろう。その際、1点目にダウトを必ず入れよう。
・ダウトを打つときは、自分たちの資料の根拠やロジックに着目しながら「相手はここを証明していないが、我々はしている」と比較説明することを意識し、前段の「相手はここを証明していない」を丁寧にクレームで書こう。
・そのうえで、ダウトの部分をまとめて、質疑集を作ろう
・試合中、第一反駁の反駁の構成にあわせて、適宜質疑でダウトの部分を聞いていこう。

質疑というポジションは第一反駁との連携で真価を発揮すると個人的には考えており、質疑が相手にダメージを与えられていないときは、質疑者の責任だと目をそらすのではなく、チーム全体で上記のような作業に取り掛かる事が良いでしょう。特に、ディベート甲子園では多くのチームが「立論質疑に1年生、反駁に2-3年生」という形で編成を行っており、立論質疑を経験した子が翌年の反駁を担当する、というパターンも多いかと思いますので、質疑者の方は来年の第一反駁の練習だと思って、第一反駁の方と協力して取り組んでみてください。

◆否定側第一反駁

ここからは個別のアタック別に、①ジャッジ的視点と②指導者的視点を書いていきます。

◆解決性2の韓国事例へのアタック(ロジック)
・1点目
 ①説明不足。対象者が全体だから何なのか?
・2点目
 ①アンケートに逮捕されないと考える人が少ないだろう→根拠は?匿名性が担保されてたり回答による実害が出ないアンケートなら素直に答えるのでは。
・3点目
 ①行動変容が困難なのは肯定側も認めている気がするし、読まれても特に試合の評価は変わらない。
 ②仮に、韓国でのモチベーション減退の話を伸ばされるとしても、この資料があるから何かが変わるわけではない。相手の立論を伸ばして彼らも犯罪者の計画性、再犯時の用意周到さを指摘すれば良いので、資料を読む必要はない。
・4点目
 ①位置情報が分かるだけでは抑止にならない、と言っているが、ここについてはクレームや他の資料で補足が必要。韓国で足輪がついたまま性犯罪を行うケースが出ているのは分かったが、何故?
 ②肯定側の想定では、位置情報がバレると事後で犯行が露見した際に逮捕リスクが上がるから犯行をしなくなる、という筋であり(Sol-A)、このロジック自体を切る理由の補足がないと、整合的に解釈することが難しい。「結局逮捕リスクとか関係なしに衝動的にやりたい人はやっちゃうんですよねー」くらいの話なのか、「そもそも電子監視で逮捕リスクが上がらないことが(何らかの理由で)明らかになり、電子監視による再犯抑止効果がなくなっている」レベルの話なのかで解決性の取り方は大きく変わるため、1-3点目のアタックよりもこの論点に時間を割くべき。

◆解決性2の韓国事例へのアタック(事例)
・1点目
①因果まで証明されていないのは同意。韓国(とアメリカ)でその他様々な施策が行われていることも理解。但し、資料内では「アメリカ」と記載されていたが、フロリダでやっていたかは別に言及されていないので、フロリダまでセットで事例を切っていいかは怪しい(州ごとに施行施策に差がある可能性は当然あり、フロリダでもやっているなら否定側が証明すべき)。
科学的去勢の効果が高いのは理解した。
②良い反駁だが、ここは第二反駁でも伸ばす/争点になる事は明白なので、コミュニケーションエラーを防ぐためにも反駁のポスティングを細かくつけた方が良いのでは。1.因果証明なし 2.他にも施策あり 3.科学的去勢が特に効果あり 4.実証でも電子監視単体効果比較では効果なしと結論、など。
・2点目
①分析の仔細は分からないが、結論だけを読まれた範囲ではそういう研究が存在する事は分かった。1点目のロジックが比較的手厚いため、否定側にやや優位か。
②各調査の結論だけ読まれているので、単体分析で比較した時にこの資料にどれくらい優位性を見出すかはジャッジによって判断が分かれる。素直に元研究を探して、そこの結論を読んだ方が良い可能性がある(外国語文献で叶わずの可能性もあるが)。
3点目
①韓国でも外出制限をしていたのは分かったが、結論が不明。2点目でしていたのは電子監視単体の効果の話であり、外出制限は単体で効果があるという結論が出る可能性も普通にあるのでは。
4点目
①数字だけ見るとT/Aっぽいが、2点目で単体効果がないという資料を読んだうえでこの資料を聞くと、「効果がないし、たまに再犯率が上がる事もあるんだなぁ」という評価にしかならない。2点目の延長線上で、実験数値が上振れるとそういう結果が出ることもあるんだね、程度の評価。
②電子監視がある方が再犯が増えるというロジックがこのフロー上では説明されておらず、せめてDAを引っ張って来るべき。

◆プランに対するアタック
・監視体制に関する分析
①監視人数が不足する事は分かった。ただ、2枚目の犯行増加が監視体制によるものかは資料内で明言がない。足輪をつけたままやってしまうケースもあるらしいから、不足も一因だろうなぁ、くらいの評価。警察が翌日夜まで気付かない事例があったことも把握した。無期限プランでの影響度が大きいのは認める。
②本来ならこれを冒頭に持ってくるべきでは?最初のアタックの4点目の評価にも関わる話であり、プレゼンテーションの観点から順番が違う。むしろ、優先順位としても高目の反駁だったと考える(ターンよりも価値は高い)。

◆スピーチ全体
②スピーチを通じて、電子監視による犯罪抑止は一過性の締め付けに過ぎず、締め付けが人的リソースから厳しくなったり、犯罪者側が手馴れてくると普通にこの締め付けを飛び越えて再犯してくるんですよね、だって犯罪者側は常に再犯モチベーションが高いので!というストーリーを押し出してくれると、よりアタックを評価することができた。但し、この方面で行く場合はDAの説明もより慎重に行う必要がある(じゃあ犯罪者側も電子監視装置を気にしないならストレスにだって慣れてきてしまうのでは?と言われるのは避けたい。周囲の目は変わらず厳しいが、かといって逮捕リスクは電子監視があっても低いため、ただの一般人に向けた前科者アピール装置にしかなっていない、など)。
②時間制約については結局スルーしたように見えるため、普通に(短期での)解決性は残る可能性が高い。朝方の痴漢は防げません、とか、時間外でやります、とか、反駁の弾は何かしら撃てた気がする。
②そう考えると、最初のアタックの冒頭30秒が勿体なくなってくる。また、ダウトを質疑に回して反駁ブリーフを圧縮することで時間を捻出できる可能性が示唆できる。

かなりレベルが高い話ではありますが、1NRに関して改善できるとすればこの辺りですかね。全体的に肯定側へプレッシャーをかけることは成功していたものの、1枚1枚の反駁について「それを読む必要はあるのか?」を突き詰めて考えることが大事です。

◆肯定側第一反駁

◆ブロック:プラン
①犯罪者の逮捕リスクの気持ちの問題だから刑務官は関係ない、と言っていたが、刑務官の監視不足で犯罪者の逮捕リスクが下がるなら犯罪者の気持ちも変わるだろうし、このブロックは評価できない。
②「人不足で逮捕リスクが下がるとまでは言えていない」「結局犯行が起きれば警察は調査して近くをGPSで誰が通ったかくらい見るのだから、いつかバレる。だから逮捕リスクを不安がるモチベーションに影響はない」と言ってくれれば取った。1ARは時間がないので、適切に相手の立証できていない部分を指摘する事が大事。

◆ブロック:韓国のアンケート
①アタックを評価していないのでそのまま取っている。
②しきりに「逮捕リスク」という表現を使っているが、1つ上の②で書いたように、犯罪者は具体的にどういう形でリスクを計算しているのか、とい言及は明確にすべき。その場で犯行が露見しない事、ではなく、GPSという証拠で自分が犯人だと捜査の手が及んでくること、しかもGPSにより逃げようにも逃げられないこと、これらが犯行を抑制する理由なんだ、という部分を丁寧に説明しないといけない。これらを冒頭に喋ったうえで、だから装置さえあれば人不足も大した問題ではない、大多数の犯罪者がリスクを評価するアンケートも自然な回答、と切り返せば、同じ秒数でより良い効果を発揮しただろう(この説明であっても、長期的な人不足から足輪切断に刑務官が気付かないから犯行をする、足輪切って翌日夜まで気づかなかったじゃないか!という否定側寄りのルートは残っているのだが)。

◆韓国他施策
①薬物治療の実証研究結果が不十分で躊躇うのは、2012年の韓国の話であり、今から行う日本では普通に行いえるのでは?また、電子監視単体に効果がないというNegの話をそもそも否定していないのでは?
個人情報公開が2割なのは分かったが、これも別に電子監視単体効果に対する分析を棄却するものではない。
②否定側の反駁の趣旨に当たっていないと思しき反駁を2枚読むのは勿体ない。論題は電子監視を導入すべきか否かであり、他の施策に効果があるかないかは肯定側視点では関係ないはず。電子監視単体でも効果がある旨さえ立証して返せばよく、ブリーフ作成段階でチーム全体で反駁の目的確認が必要だったか。

◆メタ分析反論
①反駁の趣旨が不明。肯定側優位に取る理由が分からない。
②前のブロックを取っていなければここも取られないので、仕方ない。他の2人のジャッジが取る事を祈るしかない。もしこれが練習段階であれば、前のブロックブリーフの再検討を勧める。

◆アタック:固有性1
①性犯罪者は逮捕時にバレやすい、という分析は理解。
②ただ、出所後に住む町変えたら済む話ではあるし、普通に考えて犯罪犯した後に一家引っ越し、というケースは一定あるので、2NRがちゃんと喋れば簡単に返せそう。少なくとも腕時計が付いていれば、いつでもどこでも誰にでも分かってしまうわけで、そことの差はありますよね?と2NRに言われると厳しい。

◆アタック:固有性3
①今でもストレスを抱えているのは理解できる。固有性を削るには十分。
2点目の禁固刑の自殺率が高いのは、他と比較してどれくらい高いか、そもそもどれくらいの率が高いのかが不明であり評価はしづらい。ただ、刑務所がノンストレスというわけではない、自殺を試みることもある、という事実は受け止める。
②3点目は読んでも良いが、2枚目の内容に数値を補足するだけでもほとんど同じ効果があったのではないか。どちらかというと、出所後のストレス要因(周囲からの視線、刑務所経験が長いと社会生活に適合できない、職がない)をフォローするような1枚を読み、電子監視があろうとなかろうとこれらのストレスは大きく、今もつらい思いをしている、という説明の方が評価しやすい。

◆アタック:発生過程B
①行動履歴だけ監視しているからどこまでストレスになるか不明→否定側の発生ロジックは切っていない。
ミミさんは移民だから事例が特殊→事例が特殊なのは分かったが、そこにかかるストレスがどれほどのものかを立証しない限りは評価しづらい。例えば、ミミさんは前から移民であることや過去の経験に対して強いストレスを抱いており、その中で今回の逮捕と電子監視で限界を迎えてしまった、という話であれば、電子監視単体のストレス効果は僅かなものにすぎない可能性が示唆されるが(それでもDAは発生する)、境遇が過酷だからと言って当人が前からストレスや自殺願望を抱えていたかどうかは分からない為、評価しづらい。

◆アタック:発生過程C
①通信技術は発展している、誤警報まで通じるかは不明→その通りではあるが、そもそも通報基準などを決めるのは肯定側の裁量であり、肯定側がプランの所で条件を明示しない限り、こうしたリスクがある事は否定できないのではないか(リスクがある事とリスクの発生確率は別物なので、直ちにDAが大きく起こるとは思っていないのだが)。削りはするが切る反駁ではない。

◆アタック:韓国事例
①実名公開事例→1NRでnegが読んでいるので資料は不要。クレームのみでいい。実名公開によるストレスが韓国で大きいと取るべきかは不明。ブロックで実名公開は2割に留まると自身が読んでいたので。
②相手の主張を聞いて、打つべき反駁を整理することが肝要。また、ブロックとアタックで立場が矛盾しないか、事前に確認が必要。

◆スピーチ全体
②スピーチを通じて、肯定側がどこで勝ちに行くのかが見えづらくなってしまっていた。デメリットは固有性が削られたもののプラン前後の差はありそう。メリットは事例実証が厳しくなり、ブロックもところどころ抜けているため、アタックよりはブロックにより時間を割く方が正しかったか。
否定側へのアタックは、固有性アタック以外は外してしまい、インパクトに対して「結局電子監視単体のストレスがどれくらいあり、それが自殺や再犯につながるかどうかの明示はない以上、そもそも今も十分ストレスで、要因増えるから更につらいよね、止まりですよね」とプレッシャーをかける方が望ましかったか。再犯増加Impにも触れると良かった。
②全体的に、個別の論点へ事前に準備した反駁ブリーフを各個音読して当てている感じがあり、試合の状況(相手が認めている、相手の主張が想定と違う)への臨機応変な対処に準備時間をより割けると良い。特に1ARは可能な限り無駄を省き、最小限の時間で最大の火力を出すことが求められる。

肯定側第一反駁はディベートで一番難しい。後から振り返れば改善策はいくらでも言えるのですが、実際にやると難しいですよね…

◆否定側第二反駁

◆犯罪者のモチベーション
①犯罪者側にモチベーションがある話は評価できる。
②ここからいきなり韓国の事例に飛ぶのは話のつながりが分かりづらい。相手のストーリーに乗って処理していく方が2ARでの投票構成を封じやすいため、「モチベーションが変わらない中、プランで機会抑止できるのか、彼らが出したA/Bそれぞれの観点で見ていきましょう」と解決性のロジックに振っていくのも一手か。

◆韓国事例
①事例の年度比較の上で、電子監視単体効果がない話が残っている部分を伸ばすのは評価できる。韓国は夜間外出禁止で、その中で行った事例だから評価できる→コレは1NRに記載の通り、Negの資料が「(外出制限+)電子監視」と「(外出制限+)電子監視なし」を比較した時に、電子監視単体効果がないと示されたもの、と理解しているので、外出禁止単体の効果がある可能性は特に否定していないように感じる。
②この話だけで否定側に行ってしまうと、「なんかロジックはあるけど実証はないらしい」という取り方になる可能性が普通にある(実際あった)。肯定側の総括はやや雑か。
②プランの人員不足の話を伸ばさずNegフローに行ってしまったのは勿体ない。否定側への投票理由になり得た論点。
②この論題を一定やっていると、多くの試合の投票構成として、DAの評価は「ゼロではないが大きくはない」で一致し、基本的に解決性勝負になっていた気がしている。2NR視点でも、DAを今更大きく回復する事はなかなか厳しいため、もっと肯定側のまとめ、とりわけ解決性の整理に時間を割く方が望ましかった可能性がある。また、上記観点から、DAフローを軽くまとめ、「結局、犯罪者に多大なストレスを与えてまで得られるものが殆どないんじゃないの?というのが、我々の肯定側へのチャレンジです」と切り返してADフローを叩き続ける方が、投票構成上入れやすい可能性はある。

◆固有性ブロック
①逮捕時の話であり、出所後の話ではない、という指摘はその通り。
②上記程度しか返せるところはないため、後は1ARに記載した引っ越しの話なんかを喋るかどうかの判断か。また、日本では再入率が低いという部分を伸ばし、ある程度再犯抑止ができているアピールをするのも一手(ただ、AQと併せて2ARで伸ばされる可能性はある)。

◆発生過程ブロック
①エラーがリスクであり、不安であるくらいの話は取る。
①ミミさんの事例については、足輪がストレス要因であったことは否定できていない、という返しがされたという認識。
②ミミさんの事例はもう少し強気に(1ARで記載のように)返しても良いか。アタックによって削られた感は否めない。

◆深刻性ブロック
①刑罰は犯罪者の更生に資する物でなければならないという話は、今引っ張ってこられてもどう扱えばいいのか…となりがち。ADフローの評価と併せて比較する時に意義があるものであり、試合を通してみても話が浮いていて、唐突感がある。

◆スピーチ全体
②全体的に抑えるべきところは適切に触れていたが、韓国事例の所に書いたように・勝負所である解決性の説明が薄かった事・プランアタックが伸びてない事から、肯定側に入れる余地が残った。ジャッジによって判断が分かれそうな部分に対して手厚いアプローチを行うことを意識しよう。
②個別論点のまとめは出来ている一方、試合を通じてどういった投票構成で入れて欲しいのか、というマクロ視点での言及や、それを念頭に置いたスピーチはもう少し比率を増やしても良いかもしれない。特に2NRは「2ARの投票構成を消す事」が仕事になるため、どう喋られると捲られるのか、練習試合などでジャッジに積極的に確認することで、その負け筋を消す意識を強く持っておくことが必要になる。

この辺りの話は、ちょうど先週末の振り返りラジオでも喋った部分なので、良ければ聞いてみてください。


◆肯定側第二反駁

◆内因性
①認知のゆがみがある人がどれくらいいるか分からない→肯定側は立論で再犯者のモチベーションが変わらない前提で議論を組んでいた認識だったので、違和感。内因性2を伸ばすなら、モチベーション自体は変わらない(が、リスクを取ってやめる)という話に帰着するのでは?
①夜間や見えない場所で犯罪をしがちだ、という部分は特に否定されていないので取っている。

◆プラン
①説明の内容が分からなかった。どういう反論をし、どういう決着を付けたかったのかが明示されていない。
②反論の帰結を明確に。結果として、三要素やメリットの大きさ、比較などにどういう影響を与えるのか、最初に言う癖をつけた方が良い。「プランの2点目に~という話が合ったんですけど、ここについては、~が~で、~なんだから…」と喋っていくと、段々反論の帰結が何か分からなくなっている。であるならば、「プランの2点目にあった~という反論は、我々の解決性を切っていないと思います。~で~~だから、これによって解決性Aの~やBの~が妨げられるなんて話は彼らは全く立証していない。」のように、結論を先に言ってから説明をした方が、聞いている側にも伝わりやすいでしょう。

◆韓国
①逮捕リスクがロジックベースである話は評価できる。但し、自分は最終的な取り方として「ロジックベースであろうともその影響は微々たるものであり、実証でも大部分は化学的去勢によるもので単体効果はなかった」という整理で帰着させた。
②実証の部分はノータッチだと厳しい。フォローが必要。例えば、

結局肯定側も否定側も、効果があるとかないとか色々な事例を読んでいて、かなり数字上は両論ある話だと分かったと思います。だったら、少なくとも効果がある可能性があり、新たな被害者を防げる可能性があるのであれば、被害者の心的被害は甚大なんだから、プランを導入しましょう。或いは、より細かく見ていくと、結局ロジックベースで再犯抑止効果の有無を説明しているのって肯定側だけで、少なくとも今述べたような、位置情報が証拠として残るために逮捕されるリスクがあり、犯罪者はそれを恐れる」という部分は全く否定されてなくて、否定側は犯罪が増える理由とか何も説明していない訳ですから、肯定側優位にこの論点は取るしかないです。

というようなスピーチがあり得る。

◆固有性
①現状でもストレスはある、という部分は取っている。

◆発生過程
①色々な要因がある事は分かったが、電子監視が最後の一押しになって自殺した事をスピーチで認めていいのか?という部分は気になった。
①エラーが一定確率で起きることは認められる。

◆スピーチ全体
②肯定側フローは立論の再説明が多く、やや冗長か。資料比較など新規性のある情報をスピーチに盛り込むか、或いは投票構成を説明するなどして、ジャッジに新しい情報や判断要素を与えることが第二反駁で求められる。「ここは残っていて、必ずこの部分の解決性はあるから、メリットの筋は切られていない!」と端的に強く言い切る事も大事。
②肯定側の解決性への言及はより手厚く。詳細は上に記載の通り。

◆自身の判定/終わりに

上記の①の記載をまとめていくと察されると思いますが、僕は解決性を「ロジックベースであろうともその影響は微々たるものであり、実証でも大部分は化学的去勢によるもので単体効果はなかった」と整理しているので、解決性を殆ど認めておらず、否定側に入れています(ここだけ切り抜くと凄く適当に投票を決めているように見えますが、他の論点の整理は上に書いてますのでご容赦を…)。逆に肯定側に入れるなら、解決性を「結局ロジックベースで逮捕リスクや時間制限による犯罪抑止はありそうで、実証も両論あり、なんなら時間制限による単純抑止などは肯定側は立証できていないのだから、肯定側の解決性を一定認めてはいいのでは」と取ることになりそうです。

本稿を通じて、試合中のジャッジの思考を少しでも提供できましたら幸いです。試合中の判定も去ることながら、今回は特に議論を聞いてのアドバイスや指導ポイントなどを重点的に記載して見ました。

練習試合でのジャッジは①だけじゃなく②の部分の要素が非常に重要で、選手の方の成長に影響を与えますので、何を言うか、アドバイスの内容は適切か、適度なアドバイスか(いきなりジャッジがここをこうしろ、というと、選手も思考をやめて従ってしまいがちなので、思ってても言わない、ここについて考えてみたら?というヒントに留める、という事もよくやります)などを自分はいつも考えるようにしています。ジャッジングも奥が深い…


なんと、字数が15000字に近づこうとしています。このカロリーでもう数試合見るのは厳しいので、次回は上記各パートへのコメントなどを抜きながら、もう少し人口に膾炙した示唆やアドバイスを抽出してまとめたいと思います。いつになるかは分かりませんが…

最後に。今週日曜20時から中学論題での振り返りコンテンツを配信で行いますので、是非ご覧いただけますと幸いです。僕以外にゲストのジャッジの方を1名お招きしますので、2倍の情報量があります。オススメです。


それでは、また。



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