ディベート甲子園関東春大会所感②

前回はコチラから。

※ 前回記事追記

前回記事掲載後、選手の方からDMで質問を戴きました。DMでお答えした内容とあわせて下記に記載いたします。

GPSを体に埋め込めば良いのでは?とのプランを我々もちょうど考えていたのですが、実際このプランはジャッジのウケが良いプランなのでしょうか?またこのプランを提示するにあたり、気をつけるべきことは何なのでしょうか?

質問

 下記の内容はあくまで1ジャッジの意見なので、この通り取られるかは分からないのですが…
 ウケがいいかどうかは分からないですが、技術的に無理かどうかで行くと可能そうに思えるプランではあるかなと思います。必要ならマイクロチップの埋め込みが実用化されている海外の事例資料などを短く読むと良いかと。 埋め込んだからといって議論評価が変わるわけではないですが、記事内の通りDAの発生を否定するような反駁にはつなげやすい可能性がありますね。ただ、大会でジャッジがちゃんと取ってくれるかは別途確認が必要ですね…

回答

プランにウケがいいという概念は特にないように感じますが…(逆に実行可能性が怪しすぎてウケが悪いプランならある)、マイクロチップを体内に埋め込む事例自体は海外でも日本でもあり(太めの注射針で埋めるらしいですね、日本ではまだ臨床実験段階の様ですが)、マイクロチップの中にはGPS機能を冠しているものもあるため、この辺りの補足が簡単に入ればイニシャルで切られることはあまりなさそうな気もします。練習試合などで議論を試しつつ、ジャッジの反応を伺ってみてください。


 さて、今回は中学論題で気になったポイントをお伝えできればと。

数値の取扱いに注意しよう

「10円値上げ!」「運賃1.2倍!」「いいや2倍!」と試合中に数々のエビデンスと共に出てくるのですが、ジャッジ側の視点として幾つか気になっているポイントがあります。

①資料内で指している「値上げ」の内容条件は?
「10円値上げ」と言われた時、いわゆる「初乗り運賃」が10円値上げされるのか、それとも運賃の総体として値上げ10円なのか。
例えば京王電鉄は、10月から初乗り運賃を10円値上げするそうですが、同時に初乗り以外の区間でも最大42円の値上げを行うそうです。

京王電鉄は24日、平均13.3%の運賃値上げを国土交通省に申請したと発表した。10月実施を予定する。初乗り運賃は10円程度高くなり、切符の場合は現行の130円から140円になる。消費税増税時を除くと、値上げは1995年以来28年ぶり。初乗り以外の区間の値上げ幅は最大で42円。通勤定期も引き上げるが、通学定期は家計負担に配慮して据え置く。 

https://news.yahoo.co.jp/articles/7fed869dd0d33298e08c451f41a15d002ac45a38

こうなると、確かに初乗りの値上げは10円に収まっているが、区間ごとの値上げ幅も最大42円あるらしく、%換算では平均13.3%値上げとなるそうです。
かなり雑な計算だというのを前提としつつ、通勤通学でよくありそうな「聖蹟桜ヶ丘-新宿」区間を月に10往復すると仮定すると、現行がICで325円×2(往復)×10=6500円のため、平均値上げ幅の13.3%上昇すると仮定すると月864.5円、年間10000円超の値上げとなります。他方、「運賃が10円しか上がらない」とするなら、10(円値上げ)×2(往復)×10(回/月)×12(ヶ月)で2400円の値上げになるわけで、生活に与える金額がかなり違うじゃん!ともなるわけです。

②金額算出の根拠は?
上記とも絡めて、例えば「赤字を解消するには運賃を2倍にする必要がある」といった資料が試合内で読まれるケースにおいて、ジャッジとしては「なんで2倍なの?計算方法はどこから?」という風に、出てくる数値の根拠が示されずに資料を評価していいのか悩んでしまいます。数字を示して説得力を持たせようとする考えは良いのですが、その数値がどこから出てくるのか、何故その数字が算出されたのか、といった部分も資料内で補足してもらえないと、評価が難しいです。

もし仮に、「企業の赤字が100億円、今年度の鉄道運賃の利益が100億円だったから、運賃を2倍にすれば利益も2倍で赤字分を帳消しにできる!」というような計算だった場合、そもそも運賃2倍で利益が2倍になるのかどうかも実態は怪しく、かつ純粋に運賃を2倍にすれば高くて利用者が減る事も想定されるため利益もその分減るだろう…など、現実には考慮すべき要因が多々あり、単純な割り算掛け算ではそのまま評価するのは難しいものです。実際、内因性で企業の赤字額を、解決性で10円値上げした際の増加利益を示して、赤字額/増加利益が大体3だったので、30円値上げすればオッケーです!と説明されたことがありましたが、僕自身は額面通り受け取る事はしませんでした(先のような様々な抜けている前提があり、立論段階の立証不足だと判断し、数十円~100円行かない程度の値上げで解決する可能性があるのかもしれない、くらいの薄い評価に留めています)。この辺りはジャッジによって取り方様々かと思いますが、上記のように選手側の立証不足と取るケースもあり得る、という事は理解いただければな、と思います。

(当然、言いたいことを完全に言ってくれる資料を探すのは難しいので、こうした計算で補うしかない選手心理も分かるのですが…、この立証を試合中に何度も伸ばして印籠のようにアピールされても取りづらいなぁ…というのが、いちジャッジとしての正直な感想です)

具体的な実態に目を向けよう

もう1つ気になったのが、「地方路線」「ローカル線」というように、かなり曖昧な括りで内因性の問題を語っているケースが多いように感じた点です。

例えば、練習試合の中で「内因性、地方路線では経営が厳しく…」と明らかに第三セクターの経営する地方鉄道の事例を読まれ、解決性で「首都圏で値上げすると地方路線に還元できるので…」と言われたケースがあったのですが、聞いた瞬間に「え、別にJRで値上げしても第3セクターの経営問題は解決しなくないか?内因性の事例は解決しないのでは?」という感想を抱きました(試合中は選手から指摘がなく、またJRの地方在来でも一部そういった部分があるのだろうとやや好意的に解釈して切りはしませんでしたが)。

 一口に地方ローカル線と言っても、JRの在来線もあれば第三セクターもあり、またそもそもそれらが並走している区間もあれば3セクしかない区間もある、何ならバスなどの代替手段も並走している、していない、など、かなり多様な状況が混在しています。勿論全ての個別ケースを論じる必要はないのですが、少なくとも第三セクターなのか都心にも線路を持つ大手鉄道なのかで値上げの必要額や対象人数は大きく変わりますし、この辺りの解像度は意識的に上げてほしいなと感じています。

(ちなみに、見る限り第三セクターなどは現状でもそこそこ運賃値上げを運輸局に申請しているようですが、現行制度下での値上げとプラン後の「国の認可なく自由に設定できる」との制度差をどう論じるかは今後の肯定側の課題になりそうです。10%程度の値上げが今でも通るなら、単なる値上げによる収支改善ならプランを取らなくてもいいのでは?となるため、論題解説にあったダイナミックプライシングやオフピーク価格の導入など、運賃をより経済合理性に任せる視点での議論なども今後検討の余地が必要そうです。)

以上、中学論題を見ての感想でした。まだまだシーズン序盤ですので、様々なポイントを考え模索しながら今後の議論につなげていっていただけると幸いです。質問などは変わらずDMかQuerieで受け付けてます。



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