見出し画像

新潟県知事選挙の結果を出口調査から分析してみる

昨晩投開票された新潟県知事選挙は、自民党・公明党が支持した元海上保安庁次長の花角英世氏が初当選を果たしました。

各社の世論調査や出口調査でも、花角氏と池田氏の横一線の激戦が伝えられていましたが、投票率は前回より5.2ポイントも上昇し、両候補が50万票を超えて競り合う結果となりました。最終的には有権者数が190万人を超えている大規模な選挙のため、約37,000票の差がつきましたが、得票率で見れば僅か3.4ポイント差で、2004年や2016年の知事選よりも小差での決着となりました。

選挙期間中の電話世論調査、期日前投票の出口調査、投票日当日の出口調査に関しては一部情報を得ていたのですが、電話世論調査も期日前出口調査も当初は花角氏がリードしていたものの後半は池田氏が追い上げ、当日出口は午前・午後・夕方で傾向が異なったことから、報道各社も事前の情勢判断では当確を打てず、最後までどちらが勝ってもおかしくない選挙でした。

NHKと朝日新聞の出口調査記事のまとめ

今回の選挙結果を、NHKと朝日新聞の出口調査の結果から少し分析してみたいと思います。私はどちらの陣営にも関わりがありませんでしたし、新潟の現地に取材にも行っていませんので、あくまで調査結果に依拠しての分析となります。以下の表は、
NHK「新潟県知事選 出口調査結果から」
朝日新聞「花角氏、再稼働反対票も取り込む 新潟知事選、出口分析」
から数字をピックアップし、まとめたものです。

両陣営とも、それぞれの支持層を固めた上で、無党派層を激しく奪い合ったことがわかります。

無党派層と再稼働「反対」層の票が勝敗を分けた

大きなポイントは、無党派層の投票傾向です。与野党対決型の選挙では、両陣営が支持層を固めても当選ラインには届きません。無党派層は与党系候補よりも野党系候補に投票する傾向が一般的には強く、今回も池田氏は、事前の電話世論調査から無党派層の支持率では花角氏をリードしていました。しかしながら、最終的には50%台後半〜60%程度の支持に留まり、花角氏が30%台後半の支持を得ました。花角氏のこの支持率は、通常の与党系の候補よりも高くなっています。池田氏が無党派層からあと2,3%でも支持を上乗せすることができていれば、結果は変わっていたでしょう。

さらに、再稼働に「反対」の立場の有権者のうち、30%台後半が花角氏に投票しています。池田陣営は、あれだけ原発再稼働反対を全面に出していたにもかかわらず、再稼働に「反対」の立場の有権者のうち50%台後半の支持しか得ることができませんでした。「原発再稼働反対!」と声高に主張しているだけでは、必ずしも票につながらなかったと言えます。米山氏が当選した2016年の知事選とは、有権者の心理にも少し変化があったようです。

景気・雇用対策や他の政策への関心も高かった

政策について、有権者はどのように考えていたのか。NHKと朝日新聞で設問が異なるため、表には掲載していないのですが、以下のような数字になっています。
<NHK「新しい知事に最も期待する政策」>
 ①景気・雇用対策 31%
 ②原発の安全対策 24%
 
 ③医療福祉の充実 22%
<朝日新聞「投票の際に最も重視した政策」>
 ①原発への対応 28%
 ②景気・雇用 25%

 ③地域の活性化 18%
 ④医療・福祉 14%
 ⑤子育て支援 11%
原発だけでなく、特に「景気・雇用」に対して有権者の関心が高かったことがうかがえます。朝日新聞の調査によれば、花角氏は重視した政策に「景気・雇用」を選んだ人の70%から支持を集めるなど、池田氏を大きくリードしました。

NHKの調査ではそもそも「景気・雇用対策」を期待すると答えた人が最も多くなっています。さらに「医療福祉の充実」と回答した人が22%と3番目に多く、これは「原発の安全対策」と回答した人に比べて僅か2%低いだけです。朝日新聞の調査では「地域の活性化」と回答した人が18%で、「医療・福祉」と回答した人が 14%もいます。この2つを合計すれば「原発への対応」と回答した人の割合を上回ります。つまり、原発再稼働は主要な争点ではあったが、ワン・イシューで勝てるほど関心が高い争点ではなかったと考えられます。

それでも、池田氏が再稼働に「反対」の立場の有権者のうち70%台の支持を得ていればまた結果は違っていたかもしれません。なぜ、あれだけ声高に原発の再稼働反対を訴えながら、50%台後半の支持に留まってしまったのか。これは私の仮説ですが、池田陣営が原発再稼働反対と安倍政権批判を全面に出し、景気・雇用を初めとする他の政策について強く訴えなかったことが原因ではないかと考えています。

「原発の再稼働にはどちらかと言えば反対だけど、知事として新潟の景気・雇用対策(医療や福祉の充実等)にも取り組んでほしい」という有権者からすれば、今回はどちらの候補がより魅力的に映ったでしょうか? 私は花角氏の方が魅力的に映ったのではないかと思います。花角氏は原発の再稼働に関して慎重に判断する姿勢を強調していましたし、景気・雇用対策をはじめ個々の政策についても副知事としての経験をいかしてうまくアピールされていた印象があります。原発の再稼働に「反対」の立場の有権者のうち、30%台後半が花角氏に投票したのは、こうした理由だったのではないかと分析しています。

勝因や敗因を分析する際に考えるべきこと

今回は出口調査の結果から上記のような分析をしましたが、選挙は、勝てば総てが勝因、負ければ総てが敗因になりがちです。池田陣営は敗れたとはいえ準備時間も非常に短く、知名度もない新人が50万票以上の票を獲得したという点において、選挙キャンペーンは一定の成功だったと言えます。その上で、5.2ポイントも投票率が上がったにもかかわらず、前回の米山候補の得票よりも約2万票を減らしてしまった原因を冷静に分析するべきでしょう。

また、出口調査結果に一切記述がないため今回は触れていませんが、安中聡氏が45,628票の票を獲得しています。前回2016年の知事選で、与野党推薦候補以外の2名の得票は合計しても19,790票であったことから考えると、安中氏の存在も勝敗を左右した可能性があります。(どの支持層がどの程度、安中氏に投票したのかがわかりませんのであくまで可能性です)

※追記:本記事執筆後、12日の朝日新聞の紙面版に出口調査における柏崎刈羽原発の再稼働への賛否と投票先のグラフが掲載されていることを教えていただきました。

朝日新聞の出口調査によれば、柏崎刈羽原発の再稼働に対して
賛成 30% ✕ 6% =1.8%
反対 65% ✕ 3% =1.95%
の人が安中氏に投票していたようです。反対票への食い込みが多いのではないかと予想していましたが、賛成票にもほぼ同程度の票数、食い込んでいたことがわかりました。

花角陣営の選挙参謀による勝因分析

最後に、花角陣営の参謀を務められた選挙プランナーの三浦博史さんが、ご自身のブログで勝因を分析されています。三浦さんは、日本で初めて「選挙プランナー」という肩書を名乗られた「元祖・選挙プランナー」にして、実績・勝率ともに日本一と言われる業界の第一人者です。三浦さんがいなければ、花角陣営の闘い方は全く別のものになっていたのではないかと思います。現場からの分析として参考になりますので、ご紹介しておきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?