未来2019年7月号詠草「失った傘を求めて」
未来2019年7月号詠草「失った傘を求めて」
ひとりだけ行方知れずの道のよう降っても降っても傘に逢えない
気づかずに水遣りすぎたサボテンがベランダで吐いた滴、砂色
くりかえし踏まれ踏まれてアスファルトの痕を留めるレインコート
いつの間に埋め尽くされた曇天と空(くう)をつかみそこねた姿
透明なごめんなさいのスコールが窓を叩いて濡らそうとした
空もよう気にするひとも亡くなった部屋のつめたく錆びついた鍵
真夜中に「私」の雨の鋳型とるようにまとわりついてくるベッド
目に見えないものばかりを怖がっていつまでたってもさす傘がない
容赦なくこころもからだも抑えこむ齢(よわい)をつつむアンブレラを
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