6期鬼太郎この回が好きですリスト

 第6期「ゲゲゲの鬼太郎」が本日完結しました。原作ファンとして、また、妖怪ものを書いてる作家として、純粋に楽しませてもらいましたし、また「この手があったか」「こういう切り口ができるのか(やっていいのか)」などと唸らされることも多かった二年間でした。
 妖怪が好きで一話完結ものも好きな身としては大変満足させていただきまして、このワーッとなった興奮や感動や感謝を忘れないうちに、印象的だったエピソードについて記しておきたいと思いまして、本項を更新した次第です。
 レビューというより備忘用の感想であり、思いっきりネタバレしてますのでご注意ください(と言いつつ、配信サイトとかで見返す時の参考にしてもらえればファンとして嬉しいです)。

・第6話「厄運のすねこすり」
 山間部の限界集落に暮らす老人が可愛がっていた猫は、接触した相手の生気を奪う妖怪すねこすりだった。自身が妖怪だと知らなかったすねこすりは、自分を可愛がってくれた人間の生気を吸って殺してきたこと、今まさに「かあちゃん」を殺そうとしていることを鬼太郎に告げられる。
「不特定多数に接触する小動物」というすねこすりの設定を生かしつつ、限界集落や都会で暮らすフリーターなど今ならではのネタを盛り込んだエピソード。誰が悪いわけでもない(強いて言うなら少子化と過疎化)のにこのままでは不幸なことになるぞ、という構造とそこからの展開が上手くて、個人的に「このアニメ凄いな」と最初に思った回でした。ラスト、悪役を演じて山に消えたすねこすりが号泣するシーンにあえて鳴き声が被らない演出が好きです。

・第7話「幽霊電車」
 何人もの部下をパワハラで自殺や退社に追い込んで来たサラリーマンが新宿から乗ったのは地獄に向かう列車であった。
 アニメでは定番のエピソードを、見る側の予想を裏切る形でアレンジした一編。窓から飛び降りてもまだ電車の中にいた時の「えっ?」という困惑が気持ちよかったです。あと、僕はホラーの面白みは「不可解なことがどんどん起こって怖い→何が起きていたのか説明されて納得→その上でまだ怖い(オチ)」という構成にあると思っているのですが、その好例みたいな話でもありました。自分は安全な立場だと思っていた聞き手が最後にゾッとさせられるオチが上手い。

・第14話「まくら返しと幻の夢」
 現実に疲れた社会人たちを次々と夢の世界に誘う怪しい少女。夢の世界から帰ってこない父親を呼び戻すため、鬼太郎は枕返しの力を借りて夢の世界に挑む。
 夢の中で登場する五体満足目玉親父で話題になった回ですが、「鬼太郎は子供らしいことをしないまま現実に揉まれてきたので、子供っぽいイマジネーションがない(なので想像力がものをいう夢の世界では苦戦する)」という視点が斬新でした。なるほどなあ。

・第15話「ずんべら霊形手術」
 自身の容貌にコンプレックスを持つ少女きららはある夜顔を変えてくれる妖怪ずんべらと出会い、理想の顔を手に入れるのだが……。
「でもやっぱり生まれたままの顔がいいよね」というオチだと高を括っていたら全然そんなことはなくて驚いた回。かつて憧れていたイケメン俳優に告白・説得されてもなお元の顔を拒絶し、これまでの自分は死んでたんだ、顔を変えて初めて生を実感できたんだ、と叫ぶきららの迫力が凄く、鬼太郎6期といえばこの話だよなあ、という印象があります。

・第20話「妖花の記憶」
 まなの大叔母の家に夏ごとに咲く花の出どころを追い、鬼太郎やまなは南方の戦跡へと向かう。
 アニメ化定番エピソードですが、南の島の精霊の武器が「戦場の音」だったり、現代の若者であるところのまな(日本が攻められたとは知っていたけど余所の国に侵攻していた実感はなかった、という設定がリアルでした)が過去を学び直すラストだったり、水木先生の自伝やエッセイの要素も盛り込んだ上で「2019年から見る戦争」の話を大真面目にしっかりやった回だったなあと。いい意味で肩に力が入った厭戦テイストな話で、こういう風にちゃんと語ることも大事だよなあと思ったりしました。

・第23話「妖怪アパート秘話」
 人に騙されやすい不幸体質な若い女性大家と、彼女が管理するアパートに住む無害な妖怪たちのハートフルヒストリー。ライト文芸でそのまま使えそうな設定だなあと思いました。今でも思っています。「年を取る人間と不老の妖怪」という対比は本作では何度か反復されますが、その要素の使い方も好きです。

・第26話「蠱惑 麗しの画皮」
 シングルマザーの母親から純潔を保つよう躾けられた少女は、絵から抜け出た美男子・画皮に口説かれ、人を食う画皮に協力してしまう。
 クラスメートの男子に無理やりキスされたり母に恋人ができたりしてどんどん追い詰められていく展開がしんどく、子供・女性の生きづらさの話として印象的な回です。息の抜きどころのないピリピリした空気感と、本性を現した画皮の「ガヒー」って叫び声の脱力感とのコントラストも良かったですね。ガヒー。

・第33話「狐の嫁入りと白山坊」
 福を授かる代償として娘を妖狐の嫁にすると約束していた男は狐を追い払ってもらうために鬼太郎を呼ぶが、鬼太郎は「約束があるなら仕方ない」と依頼を断ってしまう。
 一応人間ぽい体形とはいえ顔がキツネのまんまの白山坊(本性はもちろんでっかい狐)が最終的に人間のゲストヒロイン・やよいと相思相愛になって結婚してしまうオチに驚かされた回。現代日本が舞台でも人間になれない人外と人の恋が成就していいんだ、という気付きがありました。やっていいんだ、それ! 絶対に白山坊が死ぬか約束破棄で終わると思ってた。親の約束に縛られるやよいと、家族と祖国に喧嘩を売って逃亡中のアニエスとの対比も綺麗で、西洋妖怪編の中でも好きなエピソードです。

・第39話「雪女純白恋愛白書」
 冬だけ現れる雪女の娘と、そんな雪女に恋した暑苦しい青年の恋の話。
 妖怪にほれ込んで口説き倒す人間という設定はまずもって好きなんですが(そういう作品でデビューしたのです)、相思相愛になりました、めでたしめでたし、で終わらず(そこで終わっても充分好きでしたが)、娘の交際に反対していた雪女の母親が自分も何人かの人間と結婚し、パートナ-が老いて死ぬのを何度も見送ってきたんだな……というのを示唆して終わる幕切れが綺麗でした。生きる時間も世界も違っても関係性を築くことはできるよね、という話はやっぱり好きです。

・第41話「怪事!化け草履の乱」
 老いて死を待つばかりになった靴屋の老人と、その店にずっと飾られていた草履の話。言ってしまえばものすごくベタな美談なんですが、こういうストレートないい話も好きなんです。人は容赦なく老いるし死ぬよ、というのは6期鬼太郎を貫くテーゼ(というか前提条件)だったなあと。

・第54話「泥田坊と命と大地」
 メガソーラー建設予定地に現れて工事を妨害する泥田坊。そこでは三十年前のゴルフ場建設の時にも泥田坊が出ており、今の工事責任者はかつて泥田坊に殺された土建業者の息子だった。
「厄運のすねこすり」に続くゴールデンウイーク放送回であり、地方の今のお話。「田を返せ」の一言だけを繰り返して暴れる泥田坊、亡父から受け継いだプライドを持ってメガソーラー建設に挑む社長、泥田坊を倒そうと思ったら倒せるけど倒したくない鬼太郎……という三すくみ構造(三人とも隻眼!)が綺麗に決まった大名作です。哀れではあるんだけど脅威でもある泥田坊の描き方、誰も悪くはないけど絶対に折り合いがつかない構造、「ゴルフ場建設に怒る妖怪」という三期を思わせる設定などなども印象的で、6期で一本選べと言われたらこれを選びます。
 あと、もとは風刺画だった(と言い切っちゃっていいですよねもう)泥田坊が、何度かのアニメ化を経て「自然破壊に怒って現れる妖怪の象徴」みたいなポジションに収まったのだなあ、ということも実感でき、しみじみしたりしました。

・第62話「地獄の四将 黒坊主の罠」
 水を汚す黒坊主と組んで政府を強請るねずみ男。妖怪を憎む少年・石動零は、鬼太郎にねずみ男を庇う意味を問いかける。
 吉野脚本回は、こういう「言われてみればどうなんだろう」ってところへの切り口が多く、古参ファンとしては新鮮でした。なんだかんだで人情家だった前期までのねずみ男に比べると今期のねずみ男はかなりドライで悪辣なわけで、確かに殺せるなら殺しといたほうがいいようにも思えるんですが、そこへの切り返しが、ああいうのも世界にはいたっていいと思うし、謝ったら許してやりたいし、許せる自分でいたいんだ、というもので、ここで「こうあるべきだ」じゃなくて「こういう自分でいたいから」というスタンスの話を持ってくるのがね、迷いながらも理想を追うヒーロー像が出ててね、好きです。個人的に「大逆の四将」編は鬼太郎のスタンスを再確認させる話だったと思ってます。
 政府脅迫シーンの「なんとかミクスで儲かってるんでしょ?」「あれは統計を改ざんしただけで……」みたいなドストレートな現政権風刺も好き。

・第64話「水虎が映す心の闇」
 一企業の経営者一家が仕切る街に引っ越してきてしまった平凡な一家。疲弊した主婦の翔子は自殺するために向かった山で恨みを晴らしてくれるという妖怪と出会う。
 フラストレーションを溜めに溜めた上で派手な復讐が始まる……という、地味な主婦が主人公の「キャリー」なんですが、水虎が翔子の家族も襲い始めるあたりが意地が悪くて怖くて良かった回でした。水虎に裏切られたので自力で水虎を倒そうとする翔子さんのアグレッシブさも印象的。

・第72話「妖怪いやみの色ボケ大作戦」
 いやみによって色ボケにされてしまった鬼太郎たち。猫娘は一人で事件の打開に挑む。
 正直あの「いやみ」が原作でこんなリリカルで繊細な話になるとは予想できませんでした。猫娘の鬼太郎への恋心の心情描写がとにかくフワフワしており上品で良かった。決心シーンの「幼く無邪気な自分たちが揃えてくれたハイヒールを履く」という見せ方がいいですね。

・第75話「九尾の狐」
 最後に残った四将であり石動零の仇である九尾の狐は、某国を煽って日本との間に戦争を起こそうとする。
 吸収した妖怪のスキルをフル活用してくる零とのバトルやそれまでのキャラの再登場なども熱いですが、零と相対した鬼太郎の語りが印象に残っています。お前と話していて分かった、僕はまだ(人と妖怪は共存できるという)夢を見たいんだ、みたいなやつ。今期の鬼太郎は「五十年くらいバランサーという名の同族殺しを続けてきて、その結果限界ギリギリまで擦り切れてしまった理想論者」と僕は捉えているんですが(その限界が来て絶望しちゃったのが最終章ってことですよね)、そのスタンスを見せた回だったなあと。日常に迫る危機の描写としてJアラートを使った演出も記憶に残っています。

・第81話「熱血漫画家 妖怪ひでり神」
 漫画家に憧れる妖怪ひでり神は偏屈でスパルタな編集者とともにヒット作を生み出すのだが……。めちゃくちゃベタな話なんですが、こういうのに弱いんです(二回目)。違法アップロードサイトやWEB媒体といった今ならではの話題もさらっと盛り込んでるあたりも上手いですよね。

・第83話「憎悪の連鎖 妖怪ほうこう」
 とあるアーティストがSNSにアップした古木にファンが集まり、それを迷惑がった地元住民は木を切り、木に宿っていた妖怪が怒り狂う……という、6期でおなじみの「誰が悪いわけでもないのにどんどん事態が悪い方に転がっていき、もう誰かを倒さないと(殺さないと)収まらない」パターンの代表例にして行き着く先みたいなお話。木の写真をアップしたアーティストに全く悪意がないあたりがもう辛いし、燃える町をバックにそのアーティストが泣き崩れて終わるのも辛い。

・第87話「貧乏神と座敷童子」
 寂れた喫茶店の娘である綾は貧乏神を追い出して座敷童子を呼び込んだ。店は繁盛し両親も喜ぶが……。
 倫理観のぶっ壊れた連中だらけの世界とは言え、レギュラーキャラの友人やその家族はまともだろう、という予想を逆手に取ってきた回。レギュラー未成年者の親族が元悪人だったという真相は予想外だったので驚きました。落としどころはオーソドックスですが、ちゃんとほっこりと終わるし、ヤクザにきっちり罰が当たるあたりのバランスも良く、こういう話を書きたいなと思わされたエピソードでした。ヤクザのライターが異様にでかかったのが印象的。

・第93話「まぼろしの汽車」
 蔓延した吸血鬼によって世界は滅んだ。目玉親父の最後の力で過去に送られた猫娘は歴史を変えようとする。
 30分弱でループものをしっかりやりきる構成も凄かったですが、猫娘と鬼太郎の関係性の終着点の話として綺麗で切ない回でした。恋心を抱いたキャラがそのまま放置されると寂しくなる性分なので、相思相愛になれる可能性は充分にある(けど今のところはそのルートには行かないし行けないよ)という落としどころは良いバランスだったなあと思います。
 あと、私、シュッとしてスレンダーで良識があって頼れるヒロインというのがかなり好きなんですが、二年間見せてもらえたのはたいそうありがたかったです。

・第97話「見えてる世界が全てじゃない」
 人に嫌悪され撃たれて絶望した鬼太郎は彼岸に消え、人と妖怪の戦争は終わらないかに見えた……という最終回。
 意地と誇りなんかを掲げて戦うことの馬鹿らしさを叫ぶねずみ男は、「戦争なんて腹が減るだけだ」をここで持ってくるのか、という驚きと合わせてたいそうカッコよかったです。全体的にシニカルな作風の6期でしたが、戦争についてのスタンスは一貫してきっぱりしており、そういうのいいよねと。
 ずーっと労われなかったヒーローであり同族殺しを担わざるを得ない子供であった鬼太郎が、最後の最後に(見た目的には年上の)人間であるところのまなに「辛かったよね」と抱きかかえられる展開は、なるほどこれがやりたかったのかと腑に落ちました。
 あと、まなの記憶は消えて大人になって、鬼太郎はそんな彼女を守っているよ……なビターエンドと見せかけて、記憶は戻ったし今も仲良くやってます! 今年も温泉に行ったよ! という1000パーセントのハッピーエンドに転がる展開はもう大好物でした。人と妖怪の成長速度の違いは何度も強調されてきた要素なので最後にも来るかなーと思ってましたが、こういう使い方はいいなあ。

 以上! あの話が抜けてるとかそれは違うだろうとか思われる方もいらっしゃるかもですが(正直語りたいエピソードやキャラはもっとあります)その辺はご容赦ください。オエオエオー。