「STAiRs, be STAR! 怪談アイドルはじめます。」発売直前セルフインタビュー

※本項は、2019年5月15日にKADOKAWA・富士見L文庫より発売されるアイドルオカルトコメディ小説「STAiRs, be STAR! 怪談アイドルはじめます。」を紹介するために、作者の峰守ひろかずが自分で自分にインタビューする体で書いたものです)

―― 今日はよろしくお願いします。

峰守:こちらこそよろしく。

―― ではまず、本作のあらすじについて教えてください。

峰守:主人公は「STAiRs(ステアーズ)」という、四人組の男子アイドルグループだ。中小芸能事務所「浦見(うらみ)芸能社」に所属するグループである彼らは、言ってしまえばあまり売れていないし知名度も低い。おまけにメンバー同士の仲もそんなに良くない。どうも全員がよそよそしいと言うか、お互いに壁がある感じで、メンバーの一人である隆治(たかはる)はそれを何とかしたいなと思いつつも何もできていないんだ。

―― 辛いですね。

峰守:そうなんだよ。ところがそんなある日、初めてのPV撮影のために訪れた洋館で、奇妙で不思議なトラブルが起こり……具体的に何が起こるか話すと面白みが減ってしまうので省略するけど、ともかくトラブルが起こり、その一件を通じて隆治達は気付くんだ。俺達みんな霊感があるんじゃないか、幽霊とかお化けが見えてしまう体質なんじゃないか、だからよそよそいしいんじゃないか……ってね。
 お互い、霊が見える知り合いなんて今までいなかっただから、親近感を覚えるのも無理はない。かくしてSTAiRsのメンバー同士の距離感はちょっとだけ縮まったんだけど、霊感体質ばかりが四人も集まってしまったものだから、当然、霊や妖怪も彼らのもとへ寄ってくる。次々現れる新旧の怪異の相手をしつつ、仲間と打ち解けつつ、売れよう! という話なんだよ。

―― なるほど。STAiRsというグループ名にはどんな意味が?

峰守:stairs(階段)を上り切ってSTAR(スター)を目指そう、というような意味合いだよ。無論これは「階段」と「怪談」の駄洒落でもある!

―― 駄洒落好きですね。

峰守:まあね。

―― では次に、登場人物について教えてください。

峰守:紗与イチ先生の描いてくれた素敵なカバーを見ながら説明しよう。


峰守:まず、さっきも名前を出した新倉孝治。カバーの右下、一番手前にいるのが彼だ。奈良出身の22歳で、身長は173cm。中学時代にアイドルに憧れ、高三の夏に養成所に声を掛けられて本格的にアイドルを志し、色々あってSTAiRsの一員としてデビューしたが今一つパッとしないまま今に至る……という経歴の持ち主だ。気さくで明るい性格だけれど、ややネガティブで自虐的で卑屈でマイナス思考なところがある。

―― あまりアイドル向きではない性格のようですが。

峰守:悪い奴ではないんだよ。なんだかんだで面倒見は良い青年で、グループで移動する際の社用車の運転、メンバーのスケジュール管理、公式SNSやブログの更新などは彼が一手に引き受けている。

―― それはアイドルの仕事なんですか?

峰守:何せ彼らの所属事務所は小さいので、専属のマネージャーやプロデューサーは存在しないし、他のメンバーは消極的だからね。彼がやるしかないんだ。一人暮らしが長いので料理や家事も得意だよ。あと、十代の頃から火の玉に付きまとわれているんだけれど、身に覚えがないし、特に実害もないので放置している。

―― それって、放っておくと悪いことになるパターンなのでは。

峰守:見て見ぬふりをして問題を先送りする男なんだよ、彼は。霊や妖怪に対するスタンスは常にそんな感じで、見ないふり、気付かないふりでやり過ごしてきたのが隆治という人間なんだ。そんな彼が仲間や妖怪達との出会いを通じてどう変わるか、そこを楽しんでほしいね。これは彼の成長譚でもあるんだ。

―― では次に、カバーの右上のオレンジの髪のキャラは。

峰守:右上で胸と肩を出しているのは根岸雷汰(ねぎしらいた)。身長189cmという長身で、年齢は18歳。フィジカルに優れたダンサーで、身体能力はメンバーの中で最も高いけれど、見た目と言動が怖いのが玉に瑕……という少年で、性格も荒っぽい。霊や怪異に対しては、全力で走って逃げる、それでもダメなら肉弾戦、というのが彼のスタンスだ。雷汰についてはそれくらいかな。

―― 隆治に比べると説明があっさりしていませんか?

峰守:隆治以外の三人の人生や考え方は、物語の中で少しづつ明かされていくものだから、詳しい話は避けたいんだ。彼らはどうしてそんな性格になったのか、これまで何をしていたのか、なぜアイドルになったのか……。隆治の視点を通してそれらを知ることで、親しみを感じてもらえればと思っているよ。

―― なるほど。では次は……。

峰守:カバーの左下、黒髪の少年がいるよね。彼は小松谷千博(こまつやちひろ)。身長163センチの16歳だ。最年少のメンバーだけれど、幼い頃から劇団で子役を勤めてきたキャリアの持ち主で、芸歴に関してはSTAiRsの中で最も長い。クールでとっつきづらい性格だが、舞台上では人好きのする明るい少年を完璧に演じている。ステージを段取り通りに進めることを何より重視するプロフェッショナルだよ。
 怪異に対しては、とにかく知識を蓄えて対策を覚える、という方法で対応してきた少年で、特に戦後から現代にかけての怪異や都市伝説についての知識量は凄まじい。本人は否定しているけれど、やや怪異オタクなところもあるね。

―― 最後は、左上の長髪の青年ですね。

峰守:彼は常光寺(じょうこうじ)つぐみ。身長174センチで25歳。最年長のメンバーで、歌が上手い。争いを好まない穏やかな性格で、それでいて言うべきことはちゃんと言ってくれる。やたら遅刻すること、すぐ居眠りすることを除けば実に頼れる青年で、隆治が最も頼りにしているメンバーでもある。四人の中で最も霊感が強いのも彼だよ。

―― 最も霊感が強いというのは、具体的には?

峰守:他のメンバーは霊や妖怪が「感じられる」「見える」レベルなんだけど、つぐみは霊と普通に話せるんだよ。しかも近世以前の古い妖怪や伝説、それに伝統的な呪術や信仰にもなぜかやたらに詳しいから、怪談がかったトラブルの際にはとても頼もしい存在なんだ。
 ただ、つぐみは怪異サイドに感情移入しやすくて、妖怪や霊の事情を人間の事情よりも優先しがちなので、そこについては隆治たちはちょっと困ったりもするんだけどね。
 ……と、こんな四人が、アイドル活動の過程で、色々なトラブルに巻き込まれたり立ち向かったりしていくわけなんだよ。

―― どういうトラブルが起こるんでしょうか。

峰守:PV撮影に行ったら心霊スポットだったとか、ステージに立ったらいきなり何かに足を掴まれるとか、ビルの上に立っている真っ赤な女を見てしまうとか……。怪談や都市伝説のお約束的なシチュエーションを踏まえたものになっているよ。それらに対処しながらアイドルをやらなければいけないんだから大変だ。頑張ってほしいね。

―― そうですね。そもそも、どうして主人公たちがアイドルグループなんですか?

峰守:あとがきにも少し書いたんだけど、まず、ストレートな怪異に遭遇する話をやりたいという思いがあったんだ。
 妖怪や怪異をフィクションで扱うやり方にはいくつかのパターンがあるよね。例えば、妖怪そのものは出てこない世界で、その妖怪がどういうものか調べる話。自分の作品で言うと、メディアワークス文庫で出ている「絶対城先輩の妖怪学講座」シリーズや「妖怪解析官・神代宇路子の追跡 人魚は嘘を云うものだ」などだね。また、人の姿を取った妖怪が人間に交じって暮らしている世界が舞台の話もある。メゾン文庫の「新宿もののけ図書館利用案内」がこのパターンだ。

―― 宣伝ですか。

峰守:そうだよ。いずれも好評発売中なのでよろしくお願いいたします!!


峰守:さて、そういうパターンの話も楽しいけど、今回は、伝承や伝説に語られる通りのモノがそのまま出てくる話をやりたかったんだ。しかも現代的な妖怪を出したかった。その上で、じゃあどういう人達が怪異に遭遇するのが面白いのか考えたんだ。例えば、心霊スポットに行って心霊動画を実況する撮影隊なんかも考えてみたけれど、どうもありきたりになってしまう。そんな時、アイドルというのはどうだろうと思いついたんだよ!
 アイドルのようなパフォーマーは、歌やダンスやステージを「流れ」で見せる仕事だから、「お化けがいるので一旦止めます」とか「今日は撤収して続きはまた明日」なんてことは基本的にはできない。彼らは、自分たちにしか見えていない霊や妖怪に対応しつつ、しかもトラブルが起きていることを感づかせないようにしつつ、ステージを進めなければいけないんだ。コメディのシチュエーションとしては完璧だろう?
 さらに彼らがグループだったら、年齢も人生経験も価値観も違うメンバーが集まっていても不自然ではないから、個性的な面々がぶつかり合う群像コメディの要素も足せる。これは面白くなると思ったんだよ! 実際、書いてみたらとても楽しかった。男子ばかりのチームというのは私としても新鮮だったなあ。

―― なるほど。だからアイドルなんですね。

峰守:そうそう、もう一ついいかな。アイドルと怪異を合わせたのは、この二つはある意味仲間なんじゃないかと思ったからでもあるんだよ。

―― どういうことでしょう。

峰守:民俗学には「ハレ」と「ケ」という考え方がある。ハレは非日常、ケは日常を指す言葉なんだけど、アイドルも妖怪もハレなんじゃないかと私は思っているんだよ。アイドルの営むライブは、ファンにしてみれば一種の祭りであり祭礼みたいなものだろう? つまり彼らは「良い非日常」をもたらす存在なんだね。対する妖怪は、不穏で危険な、いわば「悪い非日常」を連れてくるものだ。
 属性は全く逆だけれど、日常的ではないもの、普通ではないものという意味ではこの二つの要素は同種でもあるわけで、決してちぐはぐな組み合わせではないんだよ。

―― やや強引な気もしますが掘り下げても仕方ないので納得したことにしておきます。

峰守:棘があるね。

―― 先ほど、「現代的な妖怪を出したかった」という話が出ましたが、出てくるのは現代的なものなんですか?

峰守:そうさ。古式ゆかしい、いわゆる妖怪ももちろん出るけれど、戦後、あるいは二十一世紀になってから語られるようになった都市伝説の方が多いんだ。現代が舞台なんだから現代の怪異が出ないとね。

―― たとえばどんなものでしょう。

峰守:「きさらぎ駅」を知っているかな。存在しないはずの怪しい駅に降りてしまったという、「異界駅」とカテゴライズされる怪談の代表格だ。他には「カシマさん」や「ひきこさん」、「怪人アンサー」、「アクロバティックサラサラ」なんかに登場願っているよ。ほら、今世紀に入ってから、こういうキャッチ―な、言い換えれば「キャラが立った」怪談をネットで多く見かけるようになったろう?

―― なったろうと言われても知りませんが。

峰守:そう!

―― 何が「そう!」なんですか。DXリュウソウケンですか。

峰守:そう! そう! その感じ!  おいしいぞ!!!
 ……一部にしか通じないネタを多用すると引かれるから続けないけど、要するに、現代の怪談の特徴は「知ってる人は知ってるけど、知らない人は全然知らない」という点だ、ということを言いたかったんだ。ちょっと前の怪談、たとえば「学校の七不思議」なんかがそれなりに知名度が高かったのとは対照的だ。
 まあ実際に調査したわけじゃないので体感なんだけど、ともかく、今世紀になってからその手の怪談が現れて、近年になるとそれを研究したり本にまとめたりする人も現れた。とてもありがたい話だよね。で、資料としてまとめられるとフィクションに使ってみたくなるのが作家の性だ。

―― 一般論みたいに言うのは危険では。

峰守:まあそうだね。峰守ひろかずの性だ。というわけで今回は新しめの怪談に色々登場願うことになったわけだ。
 もちろん、ちょっと昔の怪談や近世以前の妖怪も出てくるし、実際に姿を現すもの以外にも、会話の中で多くの怪異に触れている。つぐみは古い話に、千博は新しい話に詳しいから、これはあれじゃないか、似たような話にはこんなのがあるよ、といった具合に、いろんな話が出てくるんだ。知っている人は「ああ、あれか」、知らない人は「そういう話があるんだな」と思ってもらえると嬉しいよ。

―― なるほど。今日はありがとうございました。では最後に……。

峰守:締めの前に、もう一ついいかな。

―― 何でしょう。

峰守:この作品は、最初から最後までアイドルオカルトコメディであり、終盤で急に巨大UMAが出たり怪獣が光線を吐いたりはしません。ご安心ください。以上です。

―― では今度こそ。最後に、本作に興味を持っている方へのメッセージをお願いします。

峰守:これは、霊や妖怪が見えてしまうアイドルたちが、古今東西の怪異に脅かされるオカルトコメディだ。でも同時に、これはとても普遍的なことについての物語でもあるんだ。信頼と協調ということについてのね。
 それぞれ独自の個性を持った若者たちが、時にぶつかり合い、時に協力しながら、少しづつ信頼関係を築き、自分たちの夢に向かって一歩ずつ進んでいく。その過程を見守ってほしいし、願わくば彼らの誰かを――欲を言えば全員を――好きになってくれると嬉しいよ。

―― 「でも同時に、これはとても普遍的なことについての物語でもあるんだ」好きですね。

峰守:海外の映像作品関連のインタビューでやたら出てくる気がするんだよね、このパターン。「これは巨大なサメとゴリラが戦う話だけどそれはそれとして普遍的なテーマがあるんだ、友情と愛だ」みたいな。

―― 今日はありがとうございました。