フジノルイ

京都在住。書評とエッセイの冊子『累劫(るいこう)』刊行中。

はがれる

先日、学生時代から八年間住んだ部屋から引っ越した。
 長年暮らした部屋を出ていくとなると、いろいろと思い出すことはある。毎日毎日帰ってきては変りばえのない部屋だなあと思っていても、少しずつ日々の澱は溜まっているものなのだ。
 それは単純な経年劣化だったり汚れだったりする。そういったものに感傷的になることはない。むしろ部屋を出ていく際の忌まわしい足枷のようなものだ。擦ろうが拭こうが全然取れない。それ

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ジャズの体験、『JTNC』あるいはささやかなジャズ・ガイド

ここ数年離れていたジャズを、最近また聴き始めている。
きっかけは批評家の柳樂光隆氏が発行しているムック『Jazz The New Chapter(JTNC)』の影響だ。
これは現代のジャズシーンを、何本ものインタビューを元に、そこから見えてくる「ジャズ」というものをいくつもの文脈から繙いていったものだ。この本が与えた影響はかなり大きいものだろう。
ジャズ雑誌といえばいまだに「ピアノベスト100」な

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権利と権力(七尾旅人とハインズから)

こないだふと七尾旅人のインスタグラムを見返していたら、二年前の投稿が目に入り、あったなあと思った。
 その投稿にはインスタにしては長い文章が書き連ねられている。内容はある特定のライブ客に対するお願いだ。曰く、いつも早くから席取りをして、いちばんいい場所から、リハの時点からじっと見てくる。大体どのライブにもいる。そういった振る舞いは演者にとってはあまり気持ちのいいものではない。
 何より、そういった

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sabaのライブ

sabaのライブ

約2年ぶりに東京へ行ってきた。目的はライブ。sabaというシカゴのラッパーの初来日である。
シカゴのラップ勢力というと、ひとつは殺人件数米トップという不名誉な記録を残したシカゴの現状を表したような、鈍重で緊張感のあるビートに載せるドリル・ミュージック。10年代前半から台頭cheef keefを初めとする一派。そしてその重苦しいイメージから脱却し現状を変えるための運動も精力的

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東京のスキマ

東京のスキマ

2年ぶりに東京へ行った。彼女も一緒だった。僕の当初の予定は渋谷で行なわれるライブだったが、東京都美術館で開催されているムンク展に彼女が興味あるとのことだったので、せっかくだからとふたりでの旅行となった。

小さいのに大きい東京は、電車ですぐどんなところでも行ける。華やかな街も、オシャレな街も、生活の街も。
旅行といっても、僕たちは観光地を巡っていたわけではない。渋谷や上野公

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忘れないから書く(追悼文)

9月のはじめ、恋人から借りて久しぶりに『ちびまる子ちゃん』を読んだ。5巻。家族でフランス料理に行く回や、花輪くんがのど自慢に出て、みんなでそれを応援しにいく回などが収録されている。好きな巻だ。
主要キャラよりやたら描き込まれているおっさんとかブサイクとか、家庭での妙な言い回しやしきたりだとか、「あるなぁ」と思わせられる描写に、昔と変わらない笑いがこみ上げてきた。
しかし、昔とは違う悲哀もたしかにそ

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