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クリスマスに欲しいのは、あれもこれもあるけれど。

「今年も一度しか着られなかったかぁ」

クローゼットの中でも一番出し入れのしにくい辺りへ、お気に入りのワンピースを滑り込ませる。紅葉の迷彩服みたいな色合いに一目惚れしたはいいものの、その見頃の短さに似て、着られる期間も長くない。

もちろん、秋にパステルカラーのシフォンブラウスを着たっていいし、まだ肌寒い梅雨の日にボルドーのハイネックカットソーをコーディネートに取り入れたって死にはしない。けど、しない。

「旬の味覚」なんて言っても、今や一年中どこかでどうにかして育てられた新鮮な食材が手に入る。だから、舌よりも身に身にまとうもののほうが季節の移ろいを教えてくれるような気がしている。

だから、緑と赤を組み合わせたコーデも、この2日間だけなのだ。クリスマスが今年もやってきた。

◆ ◆ ◆

社会人になって、ようやく自分の自由なお金を手にしたとき、着るものに対する熱が驚くほど高まった。ひたすらネットで服やアクセサリーを眺めては、買ってしまう。プチプラのファストファッションからセレクトショップ、古着、国内ハイブランド……海外ECサイトからの個人輸入にも手を出しつつある。

そこには少なからず、おしゃれとは無縁で過ごした日々が関係している。

お世辞にも、経済的に裕福とは言えなかった我が家は、兄と私、弟の3人兄弟。祖母の散髪にかかれば、男3兄弟と間違われるほど、瓜二つ、いや3つだった(メイクを始めるまで男に間違われ続けたので、祖母のせいだけにはできないが)。

さらに、服などすぐに体に合わなくなる育ち盛りたちとなれば、当然なるべく「おさがりシステム」に投入しやすいユニセックスなアイテムを親は選ぶだろう。同年代で流行りのベティーズブルーやヒステリックグラマーなど買ってくれるわけもない。

とはいえ、「ファッションには一家言あり」という私の母は、たまに気を利かせて女児向けの服をプレゼントしてくれた。

母が嬉しそうに差し出すそれらは決まって、デパートのセールで賢く手に入れた、母の思う「良質な服」だった。襟元にバラの刺繍が施されていたり、袖口にフリルがあしらわれていたりする。

親の気持ちを無駄にはできないと、大喜びのていで受け取っては、祈るような思いで身に着けてみる。

鏡の中には、マッシュルームカットで鋭い一重がトレードマークの頭部と、まるでメルヘンの煮こごりのような女児向けの衣装。首から上と下とで、盛大な時空間の歪みが生じているようだった。

当時は、近所のスーパーマーケットの一角で売られている「ザ・今どきの子供服」すら羨ましく感じていたし、次第に、せめて周りから浮かないようにと、なるべく地味でツッコミどころのない服を選ぶように成長した。

だが先日、実家の整理をしていて見つけてしまった。

写真の中で、小学生時代の一張羅だったフリースの胸元に、大きく「CKNY」と刻まれているのを。お母さん、思いっきりパチモノじゃん…。

◆ ◆ ◆

あの日々を気持ちを浄化しようとして、クローゼットは完全にパンクしてしまった。

なんとかせねばと重い腰を上げた末、もっと早く買っておけばよかったなと気づいたのが「ハンガー」だ。

これまで「ハンガーを買う」という発想自体がなく、ショップやクリーニング店でいただいた大きさも厚みもマチマチのものを使っていたが、思い切って全部「MAWAハンガー」に変えてみた。

最小限のスペースで収納できるので、クローゼットに余裕が生まれ、着るものを選ぶストレスがだいぶ軽減された。服を買いすぎると必ず起こる「似たようなアイテム持ってたわ現象」も、減ったように思う。何より、統一感のあるクローゼットが、こんなにも気持ちのよいものだったとは。

などと実感してから数カ月。

いま私は、折り重なっているお気に入りたちと、まだ開封もできていない紙袋や箱を前に、3連休最終日の、クリスマスイブの過ごし方について決めあぐねている。

だから、サンタさん。ほしいお洋服もアクセサリーもたくさんあるけど、もしたった一つなら、今年はMAWAハンガーを私にください。

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