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ハンガリー映画史

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ハンガリー映画史の記事をまとめています。コンセプトは"ハンガリー映画の20世紀"です。 毎週金曜日23時頃に更新します。
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【お知らせ】 本日発売のキネマ旬報12月下旬号にハンガリー映画史とブダペスト12について寄稿しました!Knights of Odessa、遂にキネ旬デビュー!noteより固有名詞少なめ、社会情勢解説多めの読みやすい仕様になってます!ぜひ読んでね!

ハンガリー映画史① 黎明期(1896~1910)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 ハンガリーと世界映画史の関わりは一見謎に包まれている。ハンガリー映画で有名な作品は何かと言われると、ファーブリ・ゾルタンやヤンチョー・ミクロシュなどが挙げられるが、日本ではイマイチ知られていない。しかし、20世紀フォックスの創設者ウィリアム・フォックスも、パラマウン

ハンガリー映画史② 繁栄の時代(1910~1919)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回はニュースリール時代からハリウッドに肩を並べるほどに成長したサイレント時代について紹介していこうと思う。 ・長編映画の時代へ1912年10月14日に上映された『Ma és holnap (Today and Tomorrow)』はケルテース・ミハーイが撮ったハ

ハンガリー映画史③ 戦間前期 来なかった黄金時代(1919~1925)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は繁栄しまくった無声映画時代から一転、戦争に負けてしまったせいでハンガリー映画が辿ってしまった才能流出時代のお話。 ・敗戦と没落新たな手法やスタイルの試験・構築をほとんど行わなかったにも関わらず、1910年代の映画製作事業の発展は目覚ましいものだった。質より量

ハンガリー映画史④ 戦間中期 復活の兆し(1925~1932)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は敗戦によって凋落したハンガリー映画が徐々に復活していく時代を追っていこう。 ・遂に政府介入1925年になって、政府が解決に乗り出した。国営の映画製作会社を復活させ、映画製作基金(The Film-Industry Fund)と代理店(The Hungaria

ハンガリー映画史⑤ 戦間後期 コメディ黄金時代(1932~1939)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は1930年代のハンガリーに再び訪れた映画フィーバーによってコメディばかり作られるようになってしまった、コメディ黄金時代を追っていこう。 ・時代の潮流『Hyppolit, a lakáj (Hyppolit, the Butler)』の成功によって映画製作に新

ハンガリー映画史⑥ 第二次大戦期 メロドラマの時代(1939~1945)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は第二次大戦中、枢軸国側につくことになってしまったハンガリーの映画界が辿る皮肉な繁栄とその末路をご紹介。 ・ユダヤ人法による迫害映画史の外からの圧力によって、30年代中期の精力的な進歩も減速していく。1939年1月1日より施行されたいわゆる"ユダヤ人法"によっ

ハンガリー映画史⑦ 第二共和国時代の短い期間(1945~1948)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は第二次大戦が終結し、連立統治時代に突入したハンガリー映画業界をご紹介。Szőts Istvánとゲツァ・フォン・ラドヴァニを失った時代でもあったのだ…大ヒットした『ヨーロッパの何処かで』もこの頃公開された。 ・終戦直後のブダペストブダペストで市街戦が勃発して

ハンガリー映画史⑧ ステレオタイプと復古戦前の時代(1948~1953)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は共産主義政権の誕生から国有化されたハンガリー映画が、戦前の映画を思い出して復古に溺れる短い時代をご紹介。 ・映画産業、国有化される1948年の秋、他の産業と同様に、映画産業も国有化された。また1946年には、俳優学校もGertler Viktorの私設学校も

ハンガリー映画史⑨ 社会批判と詩的リアリズムの時代(1953~1956)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回はナジ・イムレ政権発足からハンガリー動乱までの短い間に現れた新世代たちを中心にご紹介。"ブダペスト12"にも選出された映画史に残る傑作『Merry Go Round』と『Professor Hannibal』もこの時代に登場! ・弾圧の緩和1953年にナジ・イ

ハンガリー映画史⑩ 人民共和国時代初期 静かなる移行期(1956~1963)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は、ハンガリー革命が粉砕された後の短い期間に、後の黄金時代の礎を築いた過程をご紹介。ラノーディ・ラースロー、ファーブリ・ゾルタンが無双するぞ!! ・ハンガリー革命の粉砕他の職業とは異なり、1956年のハンガリー動乱による映画製作者への"報復"は驚くほど少なかっ

ハンガリー映画史⑪-A ハンガリー映画黄金時代 社会批判、リアリズム、歴史の分析(1963~1970)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は、長い戦後の混迷期を経て、遂に到来したハンガリー映画の黄金時代についてご紹介。分量が多すぎるので、分割してお届けします!(一つの記事にまとめると単に読みにくくなるので) ・黄金時代の到来50年代の終わりから、カーダール・ヤーノシュによる"統合"の時代が始まっ

ハンガリー映画史⑪-B ハンガリー映画黄金時代 ハンガリアン・ニューウェーブ!!(1963~1970)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は、長い戦後の混迷期を経て、遂に到来したハンガリー映画の黄金時代についてご紹介。分量が多すぎるので、分割してお届けします!(一つの記事にまとめると単に読みにくくなるので) ・BBSの監督たちこの"変化の時代"の世代はBalázs Béla Studio (BB

ハンガリー映画史⑪-C ハンガリー映画黄金時代 日常の映画と商業映画(1963~1970)

ハンガリー映画といえばネメシュ・ラースロー『サンセット』が公開され、エニェディ・イルディコ『私の20世紀』やタル・ベーラ『サタンタンゴ』がリバイバル上映される今年は正にハンガリー映画イヤーと言えるかもしれない。 今回は、長い戦後の混迷期を経て、遂に到来したハンガリー映画の黄金時代についてご紹介。分量が多すぎるので、分割してお届けします!(一つの記事にまとめると単に読みにくくなるので) ・ダイアログと映像のスタイルこの時代の作品、特にニューウェーブに属するような作品は"自然