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ギヨーム・ブラック『7月の物語』『宝島』至高のバカンス、過ぎ去りし美しき日々

二日連続でギヨーム・ブラックに会って、質問して、サインまで貰ったので、トークショーの内容や自分の感情を整理していこうと思う。

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★『宝島』(L'île au trésor) 2019/06/07

何を勘違いして本気を出したのか知らんが、まだ一本も見ていない作家に対して昼飯返上で11時半から並んでいた。勿論一番だった。ヴァカンス特集の前に別の企画があったらしく、唐田えりかみたいなキレイなお姉さんに案内されそうになって、慌てて否定してユーゴスラビア映画を観ていた。ポツポツと人が増え始めて、気付いたら地平線の彼方まで行列が伸びていた。しかし、そんな長く並んだのに『日曜日の人々』を観ないのはかなり特殊だったようで、チケット売りのお姉さんは慌てていた。その後、私はロビーでハンガリー映画を観ていた。ギヨーム・ブラックが超アウェイな感じでロビーに突っ立っていた。ただのおっさんだった。よく分からん日本人が"うっす!"みたいな感じで話しかけていた。どういう身分の人間なのか不思議に思いながら、ちょっと肌寒い梅雨の日に、第四ボタンくらいまで開けたシャツから覗く金銀の胸毛を盗み見ていた。くそうイケオジが過ぎるな。チケットは一瞬にして完売していた。

夏いっぱいかかって撮った160時間もある映像を取捨選択するのに半年かかったらしく、ブラックの中でも一番難産の作品だったらしい。一応ドキュメンタリーという体を取っているが、カメラというフィルターを通していることを一切気にしていないようだったのは非常に面白い。演技でもないんだが、完全な現実でも勿論なくて、不思議な感覚に至った。ブラックが言うには、"そもそも現実から離れて物語に入っていくような"エピソードを抽出し、全体の映像から"物語"を紡ぐセグメントを選べ直しているとのこと。例えば、所長と副所長の会話には三人目以降の参加者がいたが、これらの人物は"平坦"でフィクション的ではなかったらしいので、所長と副所長だけを切り取る角度で固定したとか。このシーンが出てきた瞬間に"ワイズマンじゃん!"ってなった。或いは、ペダルボートの従業員は色々いたが、中でも一際目立っていた青年ジェレミーくんのシーンだけを映画として採用したらしいとか。色々と教えてくれた。

ジェレミーくんにも言われたと言っていたが"過ぎていく日々の記録を残す"というテーマがあって、それが映画全体をノスタルジックなものにしている。その点、主人公はレジャー施設そのものであり、過ぎ去ってしまった日々という"宝"があった"宝島"という表現は天才的と言える。映画自体も若くして亡くなった弟さんに捧げられていて、亡くなったときの彼と同じくらいの年齢の少年が弟と過ごす何気ない時間の物語で映画は締めくくられる。ギヨーム・ブラックは観察者としても優秀だったようだ。

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★『7月の物語』(Contes de juillet) 2019/06/08

国立演劇学校のワークショップとして、裏方は三人くらい撮影期間は五日という制限の中作り上げたため、内容や演技経験のない俳優たちに釣り合うよう、画面のサイズは小さめにしたらしい。映画自体二つの短編をドッキングした形になっており、こじんまりした感じがとても可愛らしい。

♪第一部 日曜日の友だち♪

『宝島』の舞台となるレジャー施設で、その一年前に撮影されたってだけでエモエモなんだが!どうしてくれる!ギヨームも言ってたけど、全編ロメールっぽくて、特に発色が『クレールの膝』っぽいのが凄い好き。救命胴衣がとても邪魔なのはこの際置いとくにしても、ミレーナの色恋から離れてたどり着いた先がフェンシングやってる兄ちゃんで、そのまま持っていた傘がフルーレになるのは天才だと思った。実は『宝島』で"営業時間外に客をボートに乗せてた従業員がいる"って所長が怒ってるエピソードがあって、絶対ミレーナさんとジャンのことではないんだけど、こうやって映画どうしをリンクさせるのって超素敵だなって思いながら、ちょっと『宝島』思い出して泣いた。

ちなみに、リュシーのライフジャケットが全部で三回くらい変わるんだけど、それは意図した訳ではなく、師匠ロメールも気にしてなかったしいいよね!って思ったって言われた。指摘されてちょっと凹んでたのが可愛らしかった。ごめん、ギヨーム!そういうつもりで訊いたわけじゃないんだよ!削除されたシーンがあったのかなとか、実は前のライフジャケットが壊れちゃって…みたいな秘話があればと思ったんだけど、痛いとこを突いてしまったらしい。ごめん!私はああいうの大好きだから!

♪第二部 ハンネと革命記念日♪

理系の学生って日常の些細な現象を物理現象に例えがち超分かるー!!うちの研究室同期も私が対応に困るくらい物理現象に例えてくる。サロメ、周りは若干引いてるんやで、気付いてくれ。何やってるの→量子物理学→なにそれ→どっから説明しようか…のくだりも死ぬほどやったことあるー!!めっちゃ噛み砕いて説明した後の"ふーん"みたいなのもやられたことあるー!!理系あるある映画なのか?

しっかり者っぽい見た目からは想像できないくらいフラフラしたハンネさんが"出会い"という奇跡を紡いで"別れ"に持ち込む"祭りの後"映画。登場する男が皆ちょうどいいアホなのがとてもちょうどいい、という不思議な心地に陥る。寝姿に発情してマスをかくアンドレア、パレードからハンネさんを付け回した挙げ句殴られたのをいいことに二の腕やらに触りまくって勘違いしまくるロマン、"前から君たちと友達になりたかったんだ"と言いつつサロメの目線を尽く無視してハンネさんを見つめるシパン。理系学生としてサロメを応援していたが、ありゃないよねって感じに"素朴"な雰囲気を振りまくハンネさんやら酔っ払ってニヤニヤしてるハンネさんやらは確かに可愛かったとしか言えない。どんだけ誘惑すりゃ気がすむんだ!ってアンドレアに言われてて、気持ちは分からなくもなかったけど、シパン、あれはないぜ。

殴られたロマンを立ち上がらせたときに"地面の血にカメラが寄ったら天才なのに"って思った瞬間カメラが血に寄って、俺が悪かったってなった。最後は生き生きとした若者たちの惚れた腫れた話を一気に現実に引き戻す、リヨンでのテロ事件のニュース報道が後ろに流れる中、寮の人々に置いて行かれたハンネさんが映し出される印象的なシーンだ。事件自体は撮影中(2016年7月14日)に起こった事件であり、撮影中はいらないと思ったが、編集中に同時代の記録として必要だと思ったらしい。フィクションを現実に引き戻す作用があると言っていたように、少し打ちひしがれた感じはした。


トークショーはギヨームは昨日より自信なさげだったけど、質問出来てよかった。サインもらったとき、"リュシーのとこ、私はとても好きだよ"って言ったら"ありがとう"って言ってた。サイン入りパンフレット、大切にするよ!

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