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ボリス・ルイツァレフ『アラジンと魔法のランプ』ソ連版ジーニーは真っ赤な老人だった

さて、青いウィル・スミスで人気の実写版『アラジン』だが、実写化はこれまでも何回か行われているようで、実際親友はフランスの実写版を発見していた。それについて、後にフランス人に訊いたところ、"あーなんか、そんなんあったわwww"と言っていた。そんな中、ソ連映画クラスタを目指している私がソ連版『アラジン』を発見するのには時間がかからなかったことは想像に難くないだろう。ソ連にだって陽気な映画はあるのだ。

物語は魔術師が予言で出てきたアラジン青年を探すシーンで幕を開ける。門番を眠らせたり、唐突に火を噴いてきて喧嘩売ってきた少年に対抗してツバを吐いて爆発させたりと技工を凝らした遊びを見せてくれるが、基本的に聞き込みで探す魔術師。彼が市場を歩いていると、突然軍隊が突進してきて、姫の歩くカーペットを敷き、"お風呂入りたくなーい!!"と文字通り手足をバタバタさせて駄々をこねる姫が登場。"じゃあ何がしたいのよ?!"と衛兵長がブチギレると土下座してる民衆を指して"彼の顔を上げさせて!"と答える。"首切ることになりますが?→"だから何?"と。典型的なワガママ娘だ。ジャスミンってこんな感じだったっけ?それに対して、顔を上げた青年も"地震が起きて他の全員死んで二人だけになりたい"とかスムーズに出てくるヤバイ男だった。そして、エアギターで歌う(しかもなぜか音楽がオーバーラップする)と、衛兵長も姫もガチ泣きしする。

なんの映画だよ。

衛兵長が泣きながら処刑を言い渡すと、魔術師が青年=アラジンを救出。そのまま彼はヌルっと帰宅して"ママー!!スルタンの娘の手に触ったよー!!"と踊りながら報告。そこに叔父を名乗って魔術師が乗り込んで来る。アラジンは彼について行き、言われたとおり迷宮都市に入って口の開いた壷(ランプじゃないよ)をあっさり手に入れる。それを魔術師に渡そうとしたら殺されかけ、気付いたら迷宮都市に戻っていた。壷から出てきた赤いジーニーに彼が叔父さんでないことを伝えられ、"殺すか?"と訊かれると"地球の四隅に分割して置いといて"と伝える。魔術師は四人に分裂してどこかへ消える。家に帰ったアラジンは家族に"こいつ、ジーニーっていうらしいぜ"を紹介する。家族は卒倒しかけるが、普通に受け入れる。

姫がなぜか大縄跳んでると、アラジンの要望を聴いたジーニーによって彼の家に飛ばされる。それでも特段驚かず、"あれは何?"とアラジンの叔母さんに聴きまくってエンジョイ。逆に叔母さんに"あんた16歳!?あたしゃ3歳の頃からヤギくらい知ってたわ!"とマウントまでとられてる。アラジンと姫は"ねえ、結婚してくれんの?"→"どうかしら"みたいな、いきなり踏み込み過ぎな会話を交わした後、一瞬にして衛兵隊に発見されてスルタンのもとへ。すると、ここでもめげない鉄のメンタルの持ち主アラジンは"やっと会えた!お義父さん!娘さんを僕にください!"と言うのだ。勿論一発退場。私もこのメンタルが欲しい。

周りの人間は"夢だった"と言い張ることで姫にアラジンを忘れさせ、彼から引き離そうとする。しかし、当のアラジンはジーニーの力によって脱走し、結局二人は再会する。すると、ジーニーの力を使った姫はその場に結婚式場を展開させ、招待客に夢を信じさせることで結婚しようとする。発想力が凄いな。しかし、アラジンはリアルでやりたかったらしくヘコんで出ていく。ここで魔術師が復活し、壷を奪って姫との結婚をセッティングし、アラジンにジーニーをけしかける。しかし、ジーニーはアラジンの友人であるとして命令を保留にする。すると、アラジンはぶっきらぼうにそのへんにあった新しい壷を突き出し、ジーニーはそこに入ってアラジンの味方に戻る。そんな雑な超展開あるかってくらい雑な超展開を迎え、魔術師を街から追い出してめでたく二人は結婚する。

未だかつてここまで超展開を繰り返しながら、クレーターの如きツッコミどころを用意した映画が他にあっただろうか。アラジンも姫も顔面が死人より真っ白で心配になってくるし、スルタンと愉快な仲間たちは妙な小笑いを取ってくるし、原作改変どころか娯楽になってるかすら怪しいが、皆大真面目にやってる(当たり前)とこに謎の好感が湧いてくる。話のネタにはもってこいな作品だ。

・作品データ

原題:Volshebnaya lampa Aladdina
上映時間:84分
監督:Boris Rytsarev
公開:1967年12月30日

・評価:70点

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