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アナベル・アタナシオ『Mickey and the Bear』さよなら、迷惑な父さん

ドラマ『BULL / ブル 法廷を操る男』のケイブル役でも知られている女優アナベル・アタナシオの長編デビュー作。両親ともにドラマの脚本家とプロデューサーであり、文字通りの芸能一家といった感じか。現在、RottenTomatoesでも100%フレッシュが続いており、概ね好意的な評価が下されているようだ。

物語は、モンタナの田舎街で暮らすミッキーという少女が中心になっている。父ハンクは昼間から酒飲むかゲームに明け暮れており、オピオイドに頼り切っているが暴力的ではないし父娘の関係も悪くはない。しかし、18歳の誕生日は忘れているし、機嫌が悪いと面倒くさい。恋人アーロンとはマンネリ気味で、なんとなくの関係が続いている。現状に満足している訳ではないが、強烈な不満もないので強く抜け出そうとも思わない。そんな状況である。

最近多くなったね、理解し合えない父親と娘の断絶の話。あまりにも増えすぎた結果、単純な暴力親以外にもレパートリーが増え始め、本作品では最近のアダルトチルドレンに即した"支配欲だけは異常に強い"父親が登場する。父親もモンスターじゃないと言った上で、家族だからという以上に優しい面も多く離れがたいという感情を我々にも植え付ける。

要するにアメとムチだ。

ハンクの中に全くと言っていいほど魅力がないのを、出来事と感情のアメとムチでその中間状態に安定化する。そして、そこから抜け出すことでのカタルシス、ミッキーに同化したことで得られる解放感と未来への不安で締めくくられる物語。何度観たことか。これで逃げ出さずに新しい解決策を見つけ出したら逆に印象深くなったと思うが、ここまで量産型だと解放感も感じなくなる。

加えて、彼女を救うはずだった恋人アーロンや新しく恋した転校生ワイアット、出会った精神科医レスリーなどの動かし方もあまり上手くない。アーロンはワイアットの登場によってミッキーの中から消滅してしまい、結果的に映画からも退場。ワイアットもハンクに殴られたという弱すぎる理由で一瞬にして退場。レスリーもミッキーを後押しする役目は担っていたが、あまりにも登場が唐突すぎるし、あの二人の関係くらいはもう少し丁寧に描いても良かったんじゃないか。物語に関して、特筆すべき点が見当たらない。

唯一良い点をあげるなら映像だろう。特に良いのは、誕生日にバーで食事をするミッキーにネオンランプが降りかかる幻想的なシーン。それに続く父親とのダンスでは周りの人間が消えてしまった夢の中の世界を描くことで、ある種社会から隔絶されたこの父娘の関係性を浮き彫りにする。或いは、くすんだ鏡越しに映されたハンクが悪夢にうなされて飛び起きるシーンも良い。先行き不透明な二人の関係を暗示しているようで心に残っている。全体的にミッキーのバストショットが全部キマっていた気がするんだが、それは単純にカミラ・モローネが好みってだけな気もする。

まぁ…悪くはなり得ない作品だし、一定数刺さる人間は居ると思うので、初監督作品としては安牌を切ったことで、安定の滑り出しになったんじゃないか。アナベル・アタナシオの今後に期待しよう。

・作品データ

原題:Mickey and the Bear
上映時間:88分
監督:Annabelle Attanasio
公開:2019年3月9日(アメリカ)

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