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Ante Babaja『Breza (The Birch Tree)』一方通行の愛と森の白樺

1967年のユーゴスラビア(クロアチア)映画。クロアチアで最も重要な映画の一つであると言われている。本作品はプーラ映画祭で最高賞のゴールデン・アリーナ賞を受賞している。

・監督経歴

監督Ante Babajaはクロアチア出身の映画監督・脚本家であり、本作品は『The King's New Clothes (Carevo novo ruho)』に続く監督二作目である。1927年に産まれ、ザグレブで高校を卒業してからザグレブ大学で法律と経済を学ぶ。1950年代はKrešimir "Krešo" Golik(クレショ・ゴリク?)の助監督として彼の作品をサポートしつつ、1955年に短編ドキュメンタリー『One Day in Rijeka (Jedan dan u Rijeci)『で監督デビューする。その後、長編処女作と本作品を監督するも、長編劇映画はあまり製作せず、三本に留まっている。2010年に亡くなる。

・長編劇映画

『The King's New Clothes (Carevo novo ruho)』(1961)
『The Birch Tree (Breza)』(1967)
『Gold, Frankincense and Myrrh (Mirisi, zlato i tamjan)』(1971)
『Lost Homeland (Izgubljeni zavičaj)』(1980)
『The Stone Gate (Kamenita vrata)』(1992)

・所感

1920年代のクロアチア北部の寒村を舞台に愛とその欠如を描く。どことなく雰囲気や話の流れが『やさしい女』に似ているのは気のせいだろうか。生後十日で息子を亡くし、病床に伏せるJanica。夫Markoはその足で酒場へ赴き、妻のことなど気にすること無く仲間と酒を飲みながら、地主の息子の結婚式に呼ばれ"妻が死んだら行けないかもしれないけど参加にしといて"と吐かすクズ野郎である。ついに看病虚しくJanicaは亡くなってしまうが、その場にもMarkoは呼ばれたにも関わらず行くのを渋って居合わせなかった。

本作品は当時のクロアチアの民間伝承や風土を描写している。例えば、病気になったらヒルに血を吸ってもらう(これはどこでもありそう)、結婚式では指名された一人が自作の旗を掲げて行列を先導して踊りまくる、葬式では故人を称える歌を歌うのだ。Markoが口髭用のマスクをして寝るのも風習の一つかもしれない。そして、1920年代クロアチアの宴会ゲームを見ることが出来るのだ。誰得だけど面白い。

葬式のために棺を乗せた馬車が進む中、MarkoはJanicaとの出会いを思い出す。Markoは金持ちの娘Baraが好きだったし、Janicaは羊飼い(?)のJozaに好かれていたのだ。残された男二人が沈痛な面持ちで幸福だった出会いの日を思い出す。レンジャーのMarkoは既にバツ2で15歳も年上だったが、世間知らずのJanicaはおっさんの魅力に抗えなかったのだ。そして、家族とJozaの反対を押し切って、JanicaとMarkoは結婚した。

黄土色と深緑の草原に彩られた回想パート、泥と灰色の空に彩られた現在パート。感傷の誤謬とも思える自然描写は非常に見事であり、美しい。"白樺のようだ"とも言及されたJanicaの美しさも本作品の重要な要素の一つであり、序盤からお腹を押さえてぶっ倒れるあたりから美人薄幸を地で行く王道スタイルを貫いている。

結婚した二人だったが、息子が生後十日で亡くなってしまったのは前述の通り。しかし、これに対してMarkoが興味を示さなかったのは想像に難くないが、棄てられたJozaですら"これが神の思し召しだ"と返してJanicaは完全に絶望してしまう。そして冒頭に戻る。

1920年代のクロアチア。第一次世界大戦の集結によってオーストリア=ハンガリー二重帝国から独立するが、独立当時は現在のセルビア・スロヴェニアとの連合王国だった。当時は王国成立直後で混乱していた時期でもあったのだろうか。映画では全く描かれないが、時代としては民族自決の機運が高まっていた時期ではないだろうか。変わって1967年のクロアチアはどうだろうか。ソ連の支配から逃げるためにパルチザンの指導者チトーがカリスマ性と抜群のバランス感覚でバラバラの国々をまとめていた時代。民族自決を謳った作品ではないが、風土や慣習をまとめる本作品のような作品はそういうのに使われがちだが、取り敢えず知ってる限りそんな資料はない。

葬式を終えたMarkoは続く結婚式に参加し、そこで性懲りも無く女たちをダンスしている。そして、夫達によって追い出される。酔っ払って森を彷徨うMarkoはポツンと生える白樺にJanicaを思い出し泣く。嘘やん、みたいなラスト。

ちなみに、Slavko Kolarの小説を元に製作されたが、悲喜劇である原作に対して喜劇部分がごっそり抜け落ち、悲劇しか残っていないとのこと。確かに、楽しいシーンは無かったね…

・余談

ポスターを載っけておこう。

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