【観劇】ブロードウェイと銃弾【ミュージカル】

2月26日、東京・有楽町の日生劇場で『ブロードウェイと銃弾』を観劇しました。舞台セットから本場ブロードウェイを思わせるギラギラなネオンと開演前の賑やかなお客さんたちの様子に私の大好きな空気を感じました。(私はブロードウェイに行ったことないんですけどね!)シェイクスピアの厳かな雰囲気のミュージカルも大好物ですが、派手なセットにコメディとラブ&ピースなお話のミュージカルも大好きなので、今回は私にとって嬉しい作品。

このミュージカルの主人公の一人、城田優さん演じるチーチの放つ銃弾「Bullets over Broadway」の文字がスクリーンに映し出され始まる物語。めちゃくちゃかっこいい始まり方で幕が上がればアタガールズたちのダンスでステージが一気に華やぐ。そこに登場する本作のヒロイン(?)のオリーブがまあとんでもなく可愛くて!でも見るからに何かやらかす女の子。話し出せばキンキン声のアニメ声でやりたい放題だから他のキャストが台詞を言っていても目で追っているのはオリーブだったというくらい。

1920年代、禁酒法時代のニューヨークで劇作家のデビッド(浦井健治)は自身の戯曲をブロードウェイにかけることになり、舞台の成功に向けて張り切っている。しかし、プロデューサーのジュリアン(加治将樹)が見つけてきた出資者はギャングのボス・ニック(ブラザートム)。出資条件をニックの愛人であるオリーブ(平野綾)を舞台の主演にさせたり、監視役にニックの部下・チーチ(城田優)を送り込ませたり、他の出演者たちも一癖も二癖もあったりしてデビッドは振り回されてばかり。しまいには単なる監視役だったチーチまでもが舞台の演出に口出しするようになってきてデビッドは収拾つかない事態に困惑状態の中、稽古は続いていく。初めは自身の脚本を変えられてしまうことに不服だったデビッドだったが、次第にチーチの的確な意見を聞き入れ共に脚本を練り直していくようになる。そして舞台初日目前、成功を願って誰もが一夜を過ごしていくが、ただ一人チーチだけはどうしても納得できないことがあった。いつしか舞台を愛し情熱を注いでいった彼が起こした行動を引き金に波乱が巻き起こっていく。果たして舞台の行方は?デビッドとチーチ、本当に舞台を愛しているのは?

最後の4行が二幕の展開で大きな事件になっていくので大分ざっくりとしたネタバレなんですが・・・(笑)チーチは大根以下の演技しかできないオリーブが居ることで自分(とデビッド)の舞台が納得いく形にならないことが許せなかったんですね。逆にデビッドがそのことで釈然としていなかったチーチをなだめるほどに舞台への思いが強くなっていき、ついにチーチはオリーブを射殺してしまいます。しかしコメディですから、「絶対に穴を開けないわ!(だから代役なんて必要ない!)」と言い張ってたオリーブの生命力は競走馬並みで撃っても撃っても中々死なないコント芸のようなやりとりは会場に笑いを誘いました。

結局、チーチまでもがオリーブ殺しの犯人としてニック率いるギャングに舞台の本番中にステージの表裏での攻防戦の末、撃たれて死んでしまいます。舞台の初日が開かれるまでの一幕の展開は意外にも呆気ないものに感じられましたが、シリアスに持ち込みすぎずにあくまでもコメディとして締めくくるのが最もな終わり方だなと思いました。

リアルな銃撃戦が繰り広げていながら、それもお芝居の一つと見られ、舞台は大当たり。デビッドは最後に、「この舞台の脚本を書いたのは自分ではなくチーチなんだ」とみんなに打ち明けます。人の命を奪ってでも自分の作品を守る彼こそがアーティストだったと。デビッドはチーチにオリーブを殺したことを責め立てた日に気付いたんだと思います。

またオリーブを殺され一際悲しいであろうニックはというと、舞台が成功を収めたことで結果オーライのような、未練を持たない男のようです。Noばかりのマイナス思考ではなく常にYesで生きていけばきっと良いことに出会えると。良いこと言ってるな~。でもそのあとのバナナの合唱で、これは深く考える必要のないミュージカルだ、と妙に可笑しくなりました。


奇想天外な舞台の結末となった『ブロードウェイと銃弾』ですが、ザ・エンターテイメントと言うべき面白さの詰まった作品だなと思いました。特別なメッセージはなくて、劇作家のデビット(浦井健治)が手がける舞台を完成させるまでに織りなすドタバタ劇を観客は見守るだけなんだけど、観終わった後に「楽しかったー!」と友達と言い合いながら心地よい充実感を持って帰っていけて、劇中でも声に出して笑える瞬間がいくつもあって、ただただ幸せな気分になれる作品でした。♪ この世は僕のもの とか素敵な曲もある中で最後の ♪そう!バナナないよ! の楽曲で締めくくるばかばかしさというか・・・何だかよくわからなかったよね、と思う人もちょっとした嫌なことは忘れて楽しさだけが残っているのではないでしょうか。

デビットを軸に形になっていく舞台、と思いきやオリーブの付き人だったチーチが誰よりも舞台に情熱を注ぐ熱い人間になっていく様も見ててとても面白かったです。オリーブに自分(とデビット)の舞台をむちゃくちゃにされることが納得いかなくて真面目な一面が次第に壊れていくチーチが愛おしく思えてきたし、時折見せるオリーブのマネは観客も思わず拍手。舞台を台無しにしてしまうからって最終的にオリーブを射殺して、自分も最後はギャングの一味に撃たれて死んでしまうところはあっけない幕切れだったけれど、罪を犯した人間にハッピーエンドはないってことなのかなって思ったり。

みんなに振り回されっぱなしのデビットとか、強面だけどオリーブに甘いニックとか、個性が豊かすぎるキャストばかりで見てて飽きない舞台というのは確かです。個人的には前田美波里さんのパワフルな歌声とオーラが二階席からでも感じるほど圧倒的で、更にコメディ要素のあるお芝居でもしっかり面白くなっちゃってるところとか、可愛さ満点でとにかく凄い役にはまってるな~と終始思ったオリーブ役の平野綾さんが最高でした。パンフレットの演出の福田雄一さんのコメントで、原作の台詞を変えずにそのまま使用しているそうなので、演出を手掛けた福田さんとキャスト陣の技量が素晴らしいんだなと感じました。あとやっぱりもう一度言っちゃうと、オリーブのキャスティングのハマり具合グッジョブ。

初日からいろんな役者さんたちが観に来られるほど、ちょっとしたお祭りみたいな賑わいの「ブロードウェイと銃弾」。東京公演は終了して、3月5日からは大阪公演がはじまります。博多公演もあるので、観ようか迷っている方や気になっている方がいたら、是非とおすすめしたくなる作品です。

ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』
脚本:ウディ・アレン
オリジナル振付:スーザン・ストローマン
演出:福田雄一
出演:浦井健治 城田優 平野綾 保坂知寿 鈴木壮麻 愛加あゆ ブラザートム 前田美波里 ほか (敬称略)
公演日:東京公演 2月7日~2月28日 日生劇場
    大阪公演 3月5日~3月20日 梅田芸術劇場メインホール
               福岡公演 3月24日~4月1日 博多座
『ブロードウェイと銃弾』PV【舞台映像Ver.】


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