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【映画】去年の冬、きみと別れ

あなたもきっとダマされてしまうだろうけど、そうであったほうが面白い。

ダマされたいう感覚は、仕掛けを知らないからこそ味わえるものですから、何も知らない状態で、小説を読んだ方は先入観なくに今のうちに観てほしいです。とてつもなく面白かった。

いつから私は罠にはまってしまったんだろう?記憶を呼び戻し、もしかして・・・そう思ったときにはすでに彼の手の内でした。

※ネタバレあり※

最愛の女性との結婚を控えた記者=耶雲(岩田剛典)が狙ったスクープは、一年前の猟奇殺人事件の容疑者=天才カメラマンの木原坂(斎藤工)。真相に近付く耶雲だったが、木原坂の危険な罠は婚約者=百合子(山本美月)にまで及んでしまう。愛する人をこの手に取り戻すため、木原坂の罠にハマっていく耶雲の運命は——? (公式サイトより)

思えば、今思えば冒頭から事件の鍵は落とされていたわけだけど、冒頭のシーンが後々種明かしのように再び登場してくるまで、すっかり忘れていたものだから、そりゃあダマされるに決まってるし、楽しめるに決まってるんですよね。二章からの始まりに、(ずっとスクリーンを見ていたのにも関わらず)一章の文字見逃した——?と思ってしまう浅はかな自分が実に滑稽でしたわ。

前半と後半で物語を狂わす中心人物がガラリと変わっているのが面白く、狂気的で確信犯だと思っていた木原坂も、姉の朱里も実はダマされる側の人間で、編集者の小林までもが事件に絡む重要人物だとわかっていったときのヒートアップした劇中の展開が「耶雲劇場」と名付けてしまいたいほどに鮮やかで驚異的でした。

事件の真相がわかるにつれて、怪物だと思っていた木原坂が耶雲に喰われどんどん小物と化する様は圧巻。

でも、不思議と木原坂側にも耶雲側にも犯罪者に対しての嫌悪感や憎悪の念を抱けなかった。

狂ってしまった元凶が「純愛」なんですから。

それは木原坂の曲がった愛情、朱里の狂った兄弟愛、小林の逃げられない朱里への愛、亜希子への耶雲の愛。どれもが強すぎるあまりに起こしてしまったことで、誰もがある意味気持ちに真っ直ぐというか、惑いがないというか・・・歪んでいるのに真っ直ぐっておかしな感想しか言えないけど、道徳に則っていないから歪に見えて哀しさが増す。

こんなにも人を愛せることってあるのかな・・・?

この世界の人たちは自分よりも他人への執着が凄まじくて、他人に自分の愛をこんなにも差し出せるんだなと。

だから私もそれなりに恋をして他人への愛情も知ってるなんて思っていたけど22年間での人生経験では知り得ない境地に達している耶雲や木原坂たちがとても奇妙に映ったりもしました。

そして「去年の冬、きみと別れ」のタイトル。

タイトルの意味を深く考えることってあまりなかったけど、これがとても良いタイトルで、映画を観たあとだと余計に切なくて哀しかったです。


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俳優さんたちも素晴らしかった。表情の見せ方が上手い。岩田さんにダマされたといってもいいし、土村芳さんに救われたといってもいい。

北村さんの敏腕編集者としての出来る男の姿から、一人の女性に翻弄される弱さを見せた男の姿も絶妙でした。出来る男すぎても弱さを見せたときの落差に違和感を覚えてしまうし、弱さが全面に出ていても安っぽく見えてしまうから、ほんのりどちらも共存させながら加減を変えて見せる感じがとても良かった。そしてかっこいい。朱里とホテルで会うシーン、服を脱がしていくところが繊細ながら何処か危なげでセクシー。言うなればエロいです。
あと、ドラッグを飲んで快楽を見せる表情が上手い。本当ドラッグ、ダメ、ゼッタイ

耶雲と亜希子が出会うシーンは本編きっての楽園で、点訳された本を指でたどりながら読んで、時折笑顔を見せたり涙ぐみながら読んで、最後の読み終えた充実感ともいえる幸せな表情を見せたりする土村さんが最高の愛され美女を演じていらして、多くない登場シーンでも確かな存在感を見せていました。
耶雲とデートをする姿は幸せな恋人同士そのものだったし、目が見えなくて度々人とぶつかってしまっても前を向いて気丈に振る舞い、耶雲に対しても無垢な心で純粋な気持ちで向き合っていく姿は天使さま。本当に美しく可愛らしかった。

斎藤工さんはやっぱり刑務所で本を読むところでしょうか。あのときの木原坂は一言も発していないんだけど、本を読むにつれて変わっていく彼の心中を表情だけで視聴者に伝えていくのが抜群でした。焼死した姉にカメラを向けていたと後で知った木原坂の放心しきった顔が痛々しくてたまりません。

最後に岩田さん。心優しかった人が徐々に恋人への愛ゆえに壊れていく。恋人と幸せなひと時を過ごしている耶雲も、復讐のために狂いきった耶雲も、恋人への別れに海で悲痛な叫び声をあげる耶雲も、すべてを表現していました。そして完全にダマされました。

どの役者さんも素晴らしく役柄を演じていて、どの引き出しからそれ演ってるの?と思うほど。役者は作品の宝よね。良い芝居観ると思う。

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こんな仕掛けだらけでも最後にしっかりと鍵を拾って真実を開けていく作品を生み出した作者さんもとんでもないです。小説も読みたくなりました。

映画は他の情報が入らず集中できる空間で観た方が絶対に良いから、是非映画館で観て欲しいです。といってもネタバレありのこの記事をここまで読んでくださった方は観てますよね。

閲読ありがとうございました!

去年の冬、きみと別れ
出演:岩田剛典、山本美月、斎藤工、浅見れいな、土村芳、北村一輝 ほか
原作:中村文則『去年の冬、きみと別れ』(幻冬舎文庫) ©中村文則/幻冬舎
監督:瀧本智行 脚本:大石哲也 音楽:上野耕路
配給:ワーナー・ブラザース映画
上映時間:118分

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