備忘録:The Great American Drug Deal

The Great American Drug Dealの備忘録。著者はボストンのVC、RAキャピタル創業者のPeter Kolchinsky。キーワードは、「Social Biotech Contract」と「Contractual genericization」。7-8割は知っている内容でしたが、最新の情報が含まれている点、300を超える引用文献が記載されている点など、現代の医薬品辞典としての使い方もありかと思います。https://amzn.to/34fkgEt

1章:Worthy cause
保険制度について:高額医薬品やアメリカの保険制度の問題点。アメリカでは健康保険に入っていない人が全人口の2割弱存在して、そういう人たちが病院に万が一かかった場合は医療費を払うことができなくて破産したりする。事実、アメリカでの自己破産は医療費が支払えないから、が理由の第1位。

2章:無名のヒーロー、ジェネリック医薬品。
リシノプリルを事例に、ブランド薬は特許期間中にしっかり稼いだ後はブランド薬とInterchangeable(置き換え可能な)ジェネリック医薬品が台頭する。日本と違って、ブランド名が処方箋に書いてあっても、保険会社の指示・薬剤師の権限でジェネリック医薬品を処方。版権の切れた本を安く売ってるようなイメージ。ブランド薬時代には自己負担額が高くて恩恵を受けられなかった人も、ジェネリック医薬品が発売されたら、治療の選択肢が増える。
医薬品の値段が高い、という話題は多いけど、最近は抗がん剤臨床試験の費用として20万ドル/人はざらになっているからコストも増しているんだよ、ということ、全ヘルスケアコスト(約110兆円)のうち医療サービスは70%以上(75兆円)、薬は3割以下(35兆円)であり薬価のみに言及するのはいかがなものか。手術の費用などは過去から一貫して右肩上がりである。

3章:ブランド薬
C型肝炎の治療薬について、ギリアドのゾバルディやハーボニーは年間8万4千ドル、という価格での発売だったが、C型肝炎の患者が末期まで移行するとそれ以上のコストがかかるので妥当な値付け。社会基盤としての医薬品業界であり、雇用の創出という意味合いもある。医薬品価格は、QALY(Quality Adjusted Life year)-based pricingでの計算が近年行われており、自動車事故での麻痺について言及。万が一、事故しても麻痺が治ると思うと、平穏が訪れることができる。製薬産業の利益は本当に高いのか?というのは筆者からの投げかけ。

4章:保険システム
実はアメリカでは61billionのdeductableやCopaymentの支払いが1年間に行われている。医師の外来診療は310bUSD(31兆円)、Out-of-pocket fee
自動車保険は、ニューハンプシャーを除き必須。マサチューセッツ州ではすべての住人が健康保険プランに入ることを義務づけている。無保険者は25bUSDを自腹で支払っているが、治療を施した病院は85bUSDを負担しており、Uncompensated careと呼ばれる(病院の赤字要因)。
Affordable Care Act(ACA:通称オバマケア)は、既往歴に応じて保険加入を拒否することを禁じた。高いプレミアムを課すことも禁じてみんなが入りやすくなった。雇用されるとタダで保険プランがついてくる。そうでない場合は高い給与を支払う必要があるが、保険は税控除できる。4人家族なら100,000ドルの年収で1万ドルの健康保険。年収が105,000ドルになると17,000ドルの健康保険となり、100,000ドルの方がよいというようなギャップがある。未保険患者の債権がディスカウントで売られており、50兆円の市場、2.4%GDP。マサチューセッツ州は2.8%の人口が無保険なだけである。MAはロムニーケアで、皆保険に近い状況にした。
ACAにて保険会社のMedical Loss Ratioについて決められた(MLR)なので、利益を増やすためにもパイ(売上)を増やそうとしている。80-85%を費用とし、15-20%を自身のオペレーションに、というのがMLRのこと。
過剰使用を避けるStep editやPrior Approval(事前承認)の仕組みもある。

Part 2:How to keep prices in check
6章:Why wait for Generics?
セレザイム、in-class monopoly, Fast-followerにて競合製品の登場がある。
1企業がコンビネーション医薬品を有することは強い。ギリアドのハーボニー。BMSのNS5A医薬品とポリメラーゼ阻害薬開発の失敗。1社でのパッケージで販売できればBiotech Social Contract への違反なしに進める。CopayなしでPreferred drug、Copayありでnon-preferred-drugの処方となる。

7章PBM(Pharmacy Benefit Manager)
リストプライス上では、479billionUSD(約50兆円)、実勢価格では、344bUSD(37兆円)。このことから28%のディスカウントがあると思われる。車のディーラーにおいてPBMを自動車Agentに例えて書かれている。リベートが入るので、実際のcopayはリストプライス20%=実勢価格ではそれ以上となる。(スクリプトエクスプレスのリーク文書:引用110参照)アメリカの医療管理コストはヘルスケアコストの8%に達する。一方、ほかの先進国は3%程度。

8章:バイオシミラー
CMSはバイオシミラーの成長にインセンティブを与える。メディケアパートBからパートDへの移行。ただ、ジェネリック医薬品と異なり、開発経費が掛かるので5-15%だけ安い価格が設定されることが多い。CMSによると、121の医薬品が65%の売上を占め、その金額は101bUSDである。148bUSD。55%はGxへ移行準備ができているもの。また、11%がアドエアディスカスのようにジェネリック医薬品への移行が難しいものもある。30%はシンプルバイオロジクス。4%が代替不可能なもの。IVIgなど、(Novo SevenやIVIgについて事例)
新生児向けの遺伝子治療はNatural Monopolyとなる。親は子供にリスクを負わせないし医師も取りたくないので新しい臨床試験が走らない。
仮に6000個の希少疾患のうちの10%(600個)を治療する場合であっても、遺伝子希少疾患で治療と考える場合に、200bUSD/年が予想され、計算上、現在の医薬品市場の6割の売上となる。
特許が切れても遺伝子治療などはジェネリック医薬品とならないので、Peter自身は特許が切れたら製造価格まで下げる、というプランを提唱。議会がPrice Controlを行い、ワクチンのようなバイオディフェンスで政府が買い取ることを想定。(個人的には受け入れられないと思うが、今後も遺伝子治療やジェネリック医薬品への置換ができない製品が増える場合はそういった手段もありうるかもしれない)
Contractual genericizationと呼び、契約的に一般化させられる。技術移転が強制的に行われたりする。製造所が1か所しかない場合は、何らかの原因で供給不足になる可能性もあり安定供給の面では重要。→Congressional Budget Office modelと呼ぶ。

9章:Price jacking
とある製薬会社が企業の買収などで競争を排除し値段を吊り上げるジェネリック医薬品の事例。ただしジェネリック医薬品の事例は薬剤費用の総支出の1%にも満たない。Daraprimというトキソプラズマ用医薬品をGSKが1ドル/錠売り続けていたが、CorePharmaへ販売権を移管し、13.5ドル/錠へ値段を変更。Core PharmaをTuring Pharmaが買収し、Daraprimを750USD/錠で売り始めた。Jazz PharmaのXyremは安全性を理由に流通方法を特許化し、Daraprimは副作用はほとんどないがREMS管理とした。BE試験を行う場合は5千錠の先発品を購入する必要があるがREMS管理の医薬品は管理下にあるため調達ができない。2016年にFDAはそういったLoophallを閉じたがいずれにしても100製品程度はそういった製品が存在。一般的にはジェネリック医薬品の登場は万人に恩恵がいきわたることとなり、今は2万5千ドル/年のHIV薬も特許が切れれば、500ドル/年程度になる。いまだに存在するCompounding pharmacyはpre-FDA時代から原料を購入することができるが、薬価低減解決方法にはならない。むしろ品質問題が重篤で、ステロイド注射で76名が死亡した事例がある。Loopholeを閉じることが重要。

10章:アメリカとほかの国との医薬品価格の違い
なぜアメリカの医薬品は高いのか。システムWaste。760-934bUSDはシステムwaste。ギリアドのC肝治療薬は、アメリカ以外で34%の売り上げ。2014-2018年合計では5.9兆円の売り上げ。SolilisのNZの事例について。高いから値下げ要求を行ったが、Alexion社は拒否し、結果、NZで臨床試験が活発化した。
Single Payer Leverage:Compulsory Licensinngにてタイの事例とロシアのレブリミドとスーテントについて、まれな事例だが紹介あり。
参照価格制度(written by Anthony Bower):リストプライスについては高くして、リベートを払うことで紛らわせる?本当に薬価の仕組みについて知っているのか?Madicaid best price modelではすでに取り入れている。
Social Biotech Contract:製薬業界は4.7百万人(直接・間接)の雇用(世界だと15百万人)ブランド薬の総額を10兆円へ減らす法律ができた場合(現在の市場の37%現象)→新薬創出が8-15個(10年)減る。筆者としてはそんなに生ぬるいインパクトではないはずであり、結局は利益を稼げる新薬にお金が集まっているので、年金基金や大学基金など、VCからお金を引き上げることになり、新薬開発はストップすることになる。

11章:DTC広告について
ブランド名で患者が要望することが適切かどうか。抗うつ剤Paxilの事例は28%がPaxil指名で医師も処方したが、そうでない場合はSOCかカウンセリングのみだった。
DTC広告は医薬品市場全体の3%の支出(6.1bUSD)である。DTCが使用促進を通じて新薬の使用率を向上させ、結果的に医薬品価格を下げることに成功している。まずは治療薬を周知することから始まる。DTC広告は、USとNZのみ法律的に実施可能。Awarenessを上げる、ということは推奨されること?EpiPenは独メルクのディールに含まれていた薬剤で、1000億円近い売り上げまで到達した。ジェネリック医薬品のままでは、レストラン、飛行機、学校で備蓄するような法律はできなかったはずであり、マイランの功績。Peterの子供もアレルギーを持っており、心の平和は何よりも重症である一方、copayを払えない親もいる。そういったことをなくしていきたいと思っている。(PeterのPersonal Note)

13章:インセンティブ イノベーション増加
長期の特許保護よりも短い独占性の延長 
505(b)(2)のようなメリットが予測され、早く開発でき、開発費が安い場合、どうか。最終的にはジェネリックが出てきてしまうが。エナンチオマーとしてはネキシウムやエスケタミンの事例を紹介。リリカは普通錠の特許は切れてもファイザーはCR(徐放製剤)を継続販売している事例。
オーファンドラッグアクトは1983年に制定され、7年の独占期間を付与することとした。エスケタミンはS体にして経鼻投与へと変更して成功している。本書では、特許期間が切れた後にブランド薬の薬価を製造原価+粗利50%まで安くするという挑戦的な提言も含まれる。

14章:productizing homebrews: stealing or a service to society
医師が自分の判断で注射薬を作ることなどがあり、分娩時のプロゲステロン剤の調剤も上げらえる。FDAとしては品質を優先する。KV pharmaのMakena。1500ドル/バイアル、合計30,000ドル。KVPharmaはAMAGへ買収され、Makenaは550ドルへとなった。このときにはcompounding pharmacyがやり玉にあがり、低品質医薬品の製造は止めるべき、という風潮であった。この話には続きがあり、Makenaの臨床試験は最終的にはプラセボと優位さがなかった、という結果となった。
Homebrew医療については、幹細胞移植が4千億円の市場があり22000人に実施された。1名あたり約2千万円。医療の質が保証されていない。糞便移植などを事例に、今後は主流になってくる可能性もある。ただし、現在はHomebrewで製造されているものも、FDAが査察するような工場で製造されるようになると、Contractual genericizationへ移行する。そういった手法に対して、政府がお金を出すプランがある。FDAは過去の安全性や薬効データを集めて新しい適応を付与することが考えられ、CROなどに不足データを依頼して臨床試験データなど追加する。Marathon社のDeflazacortについて事例として。

15章:ベネフィットリスクバランス
オピオイドクライシスの原因となったパーデューファーマについて、経営層が過度な営業圧力をかけていたことも問題視。オピオイドの場合は目的外使用の過量投与により悲惨な事態になった。
オフラベルユースについて:医師は自身の経験に基づいて、適応外処方を行う。あるいは自身で臨床試験を行い、その効能を証明し、FDA承認されることもある。プラゾシンのPTSDについて言及。高額でない医薬品の場合は、目的にあったものなのかどうか保険会社も詳しく見ることはない。
REMS:Risk Evaluation and Mitigation Strategies
2007年、議会がREMSに関する正式なコンセプトを作成した。現在は対象の薬はどこで誰に処方されたかが追跡できるようになっている。オキシコンチンはもともとMSコンチンの徐放性材版として安全性を売りにしてFDAから承認を受けたが、パーデュー社がオフラベルでひどくない痛みにも処方するように医師へプロモーションを行った。結果積算として、35bUSD(約4兆円弱)の売上を記録。オピオイドクライシスの影響で手術後のひどい痛みに対してもオピオイドではなくアセトアミノフェンなどが処方されるようになっている。また、オキシコンチンの後継品など、乱用されない製剤設計をしないとFDAは承認しなくなっている。


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