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マトモス「The West」(1999)

マトモス(Matmos)は、アメリカ合衆国の電子音楽デュオ。

電子音楽を作曲していたM.C.シュミットと、ハードコア・バンドやヒップホップ・ユニットなどのメンバーとして活動していたドリュー・ダニエルによるデュオ。
シュミットはサンフランシスコ・アート・インスティチュートの元講師、ダニエルはジョンズ・ホプキンス大学の英文学助教という、文字通りのアート・ブラッツ。

様々な音をサンプリングして楽曲にしており、例えばアルバム『ア・チャンス・トゥ・カット・イズ・ア・チャンス・トゥ・キュア』では、整形手術の治療の際に発生する音をサンプリングして楽曲を作曲して注目を集めた。

1998年にはビョークのシングル「Alarm Call」のリミキサーに抜擢され、その後もビョークのアルバム『ヴェスパタイン』『メダラ』の制作に参加し、ツアーにも同行した。

また、二人はゲイ・カップルであり、ゲイ雑誌である『BUTT』のインタビューも受けた。

こう書くと異色、キワモノ感の印象を受けるが、この「ザ・ウェスト」はダウン・ビート/トリップ・ホップ/グリッチ的な作風のある意味極めてオーソドックスな作り。

ベックの「メロー・ゴールド」や「ミューテーション」からボーカル/ラップを抜いたような音で、ブレイク・ビーツ色の強かったケミカル・ブラザーズのファースト「Exit Planet Dust」的な曲も伺える。

「ザ・ウェスト」の魅力は、全体的に見て実験的というより、ヴィンテージ/ノスタルジックな印象。ボトルネック・ギターの音色が強調された曲などブルース/カントリー/ジャグ・バンド的な雰囲気も漂う。

『ア・チャンス・トゥ・カット・イズ・ア・チャンス・トゥ・キュア』は非常にコンセプチュアルな作品だった一方、この「ザ・ウェスト」は、マトモスの実際的な音楽制作能力の高さを示した。

ある意味マチスやピカソのように一見下手な絵を描くアーティストに真剣に写生させたらとても上手だった、というような作品。

「ア・チャンス~」とこの「ザ・ウェスト」、二つの作品によって、マトモスがその辺りのヘッズ(ビートメイカー)とは、全く個性の異なる、破格のアーティストだということが露わになった。

そして、この「ザ・ウェスト」の路線を継承・発展させて名作「The Civil War」に繋がっていく。

彼らのキャリアとしては、地味な作品、位置づけながら、彼らの音楽の魅力の原型であり、才能の爆発の兆し、もう核心を「掴んでいる」感じが伝わる一枚。

頂けるなら音楽ストリーミングサービスの費用に充てたいと思います。