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ウルトラヴォックス"HA! HA! HA!"(1977)

当初ウルトラヴォクスは、80’s初頭のハードロック、スタジアム・ロックの印象が強くあったので、このアルバムも全く期待せずに手にした。再発物はいいものに当たる確率が高いので、これも再発なので一応聴いてみるかと買った。

ニュー・ウェーブというと、ジョイ・ディヴィジョン辺りの暗いのをまず想起するが、これにそんな悲壮感はなく、ローファイとハイファイがちょうどいい具合にミックスされて聴きやすい盤だった。ポストパンクというと、サーテイン・レイシオとかポップ・グループ辺りだが、人を選ぶような前衛性はない。

みるとミックス・エンジニアがスティーブ・リリーホワイト。どっかで聴いた名前だなぁと思って調べてみると、Phishの名盤Billie Breathのプロデューサーだった。

後で知ったが、スティーブ・リリーホワイトはグラミー賞5回受賞、ブライアン・イーノの弟子でダニエル・ラノアなんかと一緒に曲を作るような仲だったようだ。つまりこれは後年、大プロデューサーになる人の初期作なのだった。ちなみに日本のバンド、ルナ・シーもプロデュースを依頼したという。

ブライアン・イーノとスティーブが共同リリースしたのがウルトラヴォックスのファースト「Ultravox!」だが、私はこっちのセカンドの方が好み。

ファースト「Ultravox!」には、ブルース・ハープに派手なギターソロがちりばめられ、ドクター・フィールグッド的なパブ・ロック風味がある。

他方で、"HA! HA! HA!"は、ディーボのようなアンサンブルとリズム重視の、あるいはデヴィッド・ボーイ的なSFチックな世界観が結構新しい感じがした。

まず再発盤にのみ収められた"Qirks"という小品が、ディーボかグリーン・デイみたいでカッコいいなと自分の入り口になったので、再発盤じゃないとこのアルバムの魅力に気づかなかったかもしれない。

ノイなどのクラウト・ロックに影響も受けていたらしいが、今聴くと割とオーソドクスなロックであり、これが当時は「アート・ロック」と括られていたことは意外。

特にファースト「Ultravox!」は、私にはアートロックとは到底思えない。「アート」という曖昧模糊な概念の、時代による地滑り方というのはなかなか読み切れないものがある。

考えてみればブライアン・イーノもU2「ヨシュア・ツリー」で爆発的なヒットを生み出さなかったら、ロキシー・ミュージックのキモメンで終わってたのだ。逆に成功しすぎてゲシュタルト(地と図)が入れ替わってしまったのだろう。つまりブライアン・イーノなんていうオタクがメインストリームになっちゃったから、「アート」はもう一層アンダーグラウンドで構える必要が出てきた、というところではないか。

ともあれ、クラッシュとディーボを繋ぐミッシングリンク的な、さり気に名盤です。





頂けるなら音楽ストリーミングサービスの費用に充てたいと思います。