見出し画像

日本の執事服と海外のニンジャは似ている気がする話

服のことを少しだけ理解して、服を着ることが前よりちょっぴり楽しくなったので、書いておきます。
語り口調がやや固いです。

----------

VRChatで、男性アバターに執事服を着てほしいと思った。
執事と言えば燕尾服だろうと安易に思って、燕尾服のモデリングに手を出してしまった。

画像1

しかし問題があった。
私にはタキシード燕尾服の違いが分からなかったのだ。
何ならタキシード=燕尾服だと勘違いしていた。
即ちモデリングするにあたって資料を漁り、その勘違いを正し、理解せねばならなかった。
調べれば調べるほどそれはそれは沼だった。
服の歴史は奥が深い。
知らないことが山ほどある。
これまで服に無頓着だった自分を恥じた。

タキシードと燕尾服は見た目が全く違う。
燕尾服のジャケットは前裾が短く背面は長いのに対し、タキシードのジャケットの裾の形は現代のスーツに近い。
燕尾服の正装はホワイトタイ(白の蝶ネクタイ)であるのに対して、タキシードの正装はブラックタイ(黒の蝶ネクタイ)で、
燕尾服はウエストコート(ベスト)を付けるが、タキシードはカマーバンドを付ける。

こんなに違うのに混同されることが多いのは、多くの人が「黒のジャケットに蝶ネクタイ(白黒問わず)の正装をまとめてタキシードと呼ぶのだろう」というフワッとした認識だからではないだろうか。というか、私がまさにそうだった。

しかし、調べないと違いが分からないくらい、そもそも多くの日本人には燕尾服もタキシードも定着していないのではないだろうか?

女である私にとって、男性が夜会で着用する礼装なんてものはとてつもなく現実離れした存在で、フィクションの世界ならともかく、現実でタキシードや燕尾服に関わったことはほとんど無い。
結婚式会場で働いてた時に黒服達(上司)が着ていたが、そこまで気に留めていなかった。
私がセレブだったり社交ダンスをしていたり復職を学んだことがあったり服好きだったならきっと違ったのだろう。

「夜会の礼装って言うか、夜会って何? 何で昼と夜で着替えるの?」

ただ、そんな疑問が浮かぶ私でも、不思議なことに「タキシード」という名前は知っているのだ。
では、自分が「タキシード」に出会ったキッカケは何だったのか、次項から述べていこう。

燕尾服とタキシードの出会い

私が燕尾服とタキシードに出会ったのは同時だった。
何故同時なのかと言うと、初めて目にしたのがアニメ「美少女戦士セーラームーン」の登場人物「タキシード仮面」の姿だったからだ。
彼はタキシード仮面と自ら名乗りながら、ホワイトタイに白のウエストコートに前裾の短い黒ジャケットという、燕尾服にしか見えない服を身に纏っていたのである。
正確にはアニメでは燕尾部分がちょん切られたメスジャケットのような服装だったのだが、「あのタキシードでも燕尾服でもない服装は現実世界では一体何になるのか」という論争は、未だに絶えないようである。

だがしかし、昨今リメイクされた美少女戦士セーラームーンCrystal並びに劇場版美少女戦士セーラームーンEternalにおいてのタキシード仮面の服装は、しっかりと燕尾服のデザインになっていたので、もう何が何だか分からない。
「あの世界では燕尾服のことをタキシードと呼ぶ」
ということにしておいて、これ以上は追求しない方が良さそうである。フィクションだし。
あと「燕尾服仮面」とか「テールコート仮面」だとしっくりこないし。

そんな訳で私は幼少期からタキシード仮面の着ているあの服装こそタキシードだと信じてやまなかった。そうして勘違いしたまま、訂正されることなく大人になってしまった。

燕尾服と滅多に関わらない日本人、そんな情報を子どもの頃に覚えたまま大人になった人は多いのではないだろうか。

執事服=燕尾服/ニンジャ=ヌンチャクという思い込み

さて、燕尾服とタキシードの違いはわかった。
問題は執事服である。
執事関連の話は、大変ありがたいことに早瀬千夏さんという方が纏めて無料で公開して下さっている「英国執事とメイドの素顔(https://sitsuji.ashrose.net/)」というブログサイトがある。
そのサイトの執事の服装 」という記事を拝見すると、執事が燕尾服を着ていた時代は確かにあったようだ。
その当時を描いた映画なら執事の服装も分かりそうなものだが、生憎自分が今パッと思い出せるのはガイ・リッチー監督の映画「シャーロック・ホームズ  シャドウ ゲーム」で、マイクロフトの執事が昼間にも関わらずホワイトタイの燕尾服を着用していたことくらいである。(ヨボヨボのおじいちゃんで印象的だった)
ただ、それはあくまでも燕尾服が主流な時代の服装であり、現代においても「執事服=燕尾服」というイメージがあるのはどうやら日本だけのようだ。
この起源が知りたくて辿り着いたのが久我真樹氏の「日本の執事イメージ史」だった。
燕尾服についてハッキリと書かれているわけではないのだが、ここ最近購入した本の中でもダントツで面白かったオススメの本である。(ここから更に突っ込んで「『執事と言えばセバスチャン』考察」というnote記事も公開されている)

画像2

(以下のリンク先で試し読みできる)


恐らく日本で「執事服=燕尾服」というイメージが確固なものとなったのは、漫画「黒執事」と「執事喫茶スワロウテイル」の影響が非常に大きいと思われる。
これは憶測だが、それまではスーツやジャケットといった執事の曖昧だった服装が、「燕尾服」という分かりやすい記号を与えられた途端、イメージが鮮明に結び付き、まるで執事が燕尾服を着ることが昔からの習わしであるかのような錯覚に陥ったのではないだろうか。
特に私は制服が燕尾服である執事喫茶スワロウテイルに行ったことがあるので余計にそう思い込んでしまっていた可能性が高い。

この「執事の条件=燕尾服を着ている」という思い込みは、海外における「ニンジャの条件=黒装束でヌンチャクを華麗に操れる」と似ている気がする。

参考:なぜ『ヌンチャク=ニンジャ』なの?海外で、般若のマスクで白熱パフォーマンスをする男

参考:燕尾服を着ない意外な理由とは? 謎多き職業「執事」について本物の執事にいろいろ聞いてみた – ロケットニュース24

最早ここまで来ると独自の文化として成り立ってしまう。
これはこれでなかなか面白い。

分かった上で「執事服」を考える

「執事は燕尾服を着る」ということが現代の日本独自の文化としてフィクションや執事喫茶に根付いていることは分かった。
では今度はそれを踏まえて改めて燕尾服ベースの執事服を考えようと思い、モデリングした燕尾服の「Butler(執事)」タイプは以下のように正装との違いを出すことにした。

・服・靴
 正装:光沢がある
 執事:光沢が無い

・ジャケットの裏地
 正装:赤
 執事:黒

・ジャケットのボタン
 正装:ジャケットに合わせた光沢のある黒ボタン
 執事:金ボタン

・ブートニア(胸元の飾り花)
 正装:付ける
 執事:付けない

・タイ
 正装:ホワイトタイ(白い蝶ネクタイ)
 執事:クロスタイ

・ウエストコート
 正装:白
 執事:グレー
 (全然関係ないんですけどウエストコートの背面は現代の覆ってるタイプじゃなくてバックレスタイプの方がセクシーで好きです)

・ジャケットを脱いだバージョン
 正装:あり
 執事:無し

このように敢えて正装から外した着こなしをすることで、誰が見ても「使用人」と分かるようにする、ということにしておいた。
また、燕尾服は「Evening Tailcoat」という名前の通り、夜会用の礼装なので、「昼間から燕尾服を着る」ということ自体がズレた行為であり、それだけで使用人であることが分かるという。

夜の正装じゃなくても燕尾服を着てくれると嬉しい

正装と言いつつ、販売した燕尾服のブートニアは敢えて自分の好きな青い薔薇の造花にしてあるので、実はアレをそのまま正真正銘の正装だと思われても少し困る。
ブートニアはその時々のTPOに合わせて付けるものなので、好きに変更してくれたらなと思う。
色改変も好きにしてくれたらなと思う。物理空間では恐らく存在しないであろう白黒逆転させたテクスチャとマテリアルを同梱してあるのはそういう訳なのだ。
夜会じゃなくたって、気に入ったならいつでも着てほしいと思ってしまう。
本来の正装のスタイルさえ分かっていれば、着物を普段着で着る人達のように着崩したって良いのではないだろうか。どうなんだろうか。

服のTPOはとてもとても大事だが、あまりにもルールで縛り過ぎると誰も着なくなってしまう。
特に腰の位置が高い燕尾服なんて、スラックスの股上の長さが短く(ベルト通しの位置が低く)なってしまった現代ではなかなかお目にかかれない。
物理空間で着る機会の少ない分、どうか存分に着てほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?