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「海鷂魚」海を飛ぶ闖入者

「鷂」の1文字が示す生き物
 突然ですが、この「海鷂魚」という漢字、あなたは読めるでしょうか。

あるいきものを示す漢字です

 「海」や「魚」という漢字から、淡水魚ではなく海水魚の種類ではないか、と推測することができます。ですが、真ん中の「鷂」という漢字は、日常でみかけることは少ないでしょう。
 じつはこの漢字、「はしたか」と読みます。「鳥」という漢字が用いられていることからもわかるように、鳥類の1種である「ハイタカ(Accipiter nisus)」を指す漢字です。

ハイタカの剥製
(大阪自然史博物館にて催された特別展の展示)

海を遊泳する猛禽類
 では、この「海鷂魚」とは、タカのような猛禽類の仲間なのでしょうか。じつはそれも誤りで、「海鷂魚」と書いて「エイ」と読みます。漢字3文字なのに、読み方は「エイ」の2文字なのも驚きです。海の生き物であるエイ(Batoidea)に、なぜハイタカの名前が用いられたのでしょう。その理由については、1896年から1914年の間に刊行された『古事類苑』に記されています。江戸時代の書物『庖厨備用倭名本草』で「形鷂ニ似テ肉翅アリ」と書かれたため、昔の人はエイがハイタカのようにみえたそうです。

遊泳するエイ
(四国水族館にて撮影)

兵庫運河や多摩川で目撃多数
 兵庫運河に訪れた際に、ナルトビエイ(Aetobatus flagellum)という種をみかけたことがあります。兵庫運河は高度経済成長期に、その周辺に工場が立ち並びはじめ、工場から出る排水や船からもれた油などによって水質悪化が生じ、運河の底はヘドロだらけだったそうです。1971年に設立された団体と神戸市により清掃活動が進められ、水質改善効果があるアサリ(Venerupis philippinarum)の育成をスタートしたことなどもあって、徐々に浄化が進んでいきました。
 そのアサリなどの貝類を求めて、このナルトビエイが兵庫運河にやってきたといわれています。ナルトビエイの長い尾の付け根には毒針があるため、地元の漁協では警戒が強められているそうです。
 目撃例が増加しているのは、このナルトビエイだけではありません。東京都の多摩川などではアカエイ(Hemitrygon akajei)の目撃が報告されています。アカエイのもつ針は返しがついているため簡単には取れず、一度刺さると痺れと痛みが伴うといいます。エイは扁平な体をしているため、砂浜に身を隠していることもあります。海に入る際に、思いがけずエイを踏みつけてしまうケースもあるそうなので、これから暖かくなって潮干狩りに出かける際には気をつけたいところです。

遊泳するナルトビエイ
(2023年8月兵庫運河にて撮影)

 ちなみに「ハイタカ」の名前の由来は「灰色のタカ」ではありません。諸説あって、「疾いタカ」という意味や「くちばし(はし)」が鋭いタカ、「波斯(はし)」すなわちペルシャのタカという意味などで「ハイタカ」とされており、その由来を「灰色のタカ」とする文献はないようです。生き物の名前の由来を辿って、昔の人がどういう目で自然を観察していたのかを想像するのも楽しいですね。

参考文献
・神宮司庁古事類苑出版事務所(編)『古事類苑 動物部8』神宮司庁 1896-1914年
・菅原浩 柿澤亮三『図説 鳥名の由来辞典』柏書房 2005年
・「運河に大量侵入してきた「エイ」に注意を 水質が改善された証だが…漁業者を悩ませる理由」神戸新聞2022年10月5日掲載
・兵庫運河の自然を再生するプロジェクト『兵庫運河 命きらめく わたしたちの里海』一般社団法人 みなと総合研究財団 2022年
・「市街地でエイの目撃相次ぐ…なぜ? “毒針”に注意 アサリ食害で駆除検討の場所も」日テレ 2012年9月14日配信
https://news.ntv.co.jp/category/society/dd8d86e587324907891e2ed9e83185ab

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