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「害鳥と姫路城」美観を汚す鵜のうんち

姫路を代表する世界文化遺産
 日本初の世界文化遺産となった姫路城は、2023年にその登録から30周年を迎えました。白漆喰が施されている同城は、その姿から「白鷺城」とも称されており、姫路のシンボル的スポットとして知られています。
 城を間近でみるには入城料が必要ですが、城の周辺からみる城や櫓もまた美麗で、夏場に堀沿いを歩くとアオサギ(Ardea cinerea)などの鳥類も観察でき、散歩コースとしてもおすすめです。茂る緑の木々と青みある水の香りが立ち上る堀、歴史ある姫路城。その景観はまさに花鳥風月そのものです。

夏頃の姫路城。木々の緑とのコントラストが美しい

「ワの櫓」と鵜の黒翼
 姫路城の周りで私が好きなポイントは、西側の外堀沿いからみる、ワの櫓です。二重二階のこの櫓は、出陣する武者が集められたという西の丸というエリアに据えられた櫓のひとつです。堀沿いからみると、たまに堀近くの木の上で羽休めするカワウ(Phalacrocorax carbo)もみることができます。黒く光沢のあるカワウの黒い翼と白い櫓の対比は、自然美と建築美の調和のようで趣きが感じられます。

ワの櫓とカワウ

連日群れをなし、樹を枯らした害鳥
 さて、このカワウなのですが、古くからこの姫路城周辺で観察されており、少々困った存在として扱われてきたようです。明治から昭和にかけて作成された書類をまとめた『陸軍大日記』という史料があります。その史料に、1876年10月、陸軍の山県有朋から太政大臣宛に出された文章が残っています。文章には「歩兵営周囲之樹木ニ連日数百之鵜鳥群集シ夫カ為該城体裁ニモ関スル 巨木漸々衰枯スルニ寄リ且営内之為妨害不尠候 」とあり、連日数百羽もの鵜が群れをなして木々を枯らし、その体裁(城の景観と思われます)に関わる、と訴えられています。

 また別の文章では、鵜に対して銃撃の許可がほしい、姫路城内の鵜を撃ち除くための火薬などを支給してほしい、などの記載も残っているそうです。『陸軍大日記』には姫路城だけでなく、1877年前後で大阪城や松江城などでも鵜の被害が報告されているとのこと。
 カワウは高度成長期に環境汚染などの影響で個体数が減り、絶滅の危機に瀕した経緯があります。コロニーの保護が進められたため現在では急速に個体数が回復していますが、繁殖地で大量に糞をすることで樹木が枯死するほか、その悪臭や景観の悪化など被害も叫ばれています。

姫路城近くの木に羽休めするカワウ

 私がみた姫路城周辺は、まだ木々が生い茂り、その景観を保っていました。樹上に佇むカワウと櫓の景観を私は好みますが、そのカワウが景観を脅かす存在になっているというのは、なんともいえない皮肉に感じます。もしかすると次回また姫路城を訪れたとき、私が好きだったあの光景は、カワウの糞害で失われているかもしれません。

参考文献
・「ふん害で嫌われ、環境汚染で過去に絶滅危機も 人に翻弄されるカワウ
」朝日新聞 2023年11月28日配信
・姫路市立城郭研究室「城踏 2005年1月号 No.55」2005年

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