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瀬戸内ドライブ 1

SNSに、彼の投稿が久しぶりにあがった。

海の写真。

後ろにダイアモンドヘッドがあるから、海外なんて行ったことがない私でも、そこがハワイだとさすがに分かる。

キャプションには「到着!」とだけ書かれている。コメントをチェックすると、おそらくは彼の学生時代の後輩から「おめでとうございます」と書かれていた。

それだけで、もう私は全てを察した。めったに投稿しない彼が、わざわざ切り取って、発信したかった瞬間。
ハワイで「おめでとうございます」と来れば、それは新婚旅行だろう。はっきりそう書かないのが彼らしかった。

これまでは、いつかチャンスがあるかもしれない、実は彼は私のことを思っているかもしれない、なんて想像だってできていた。

同じ時間を過ごして、同じものを食べて、同じ場所へ行ったときのことを、静かに思い返しては淡い期待をして眠りについた日は何度もある。だけどそれすらもう出来ない。彼は私のことなんて好きじゃなかった。もう手が届くことはないんだ。
 
そのままスマートフォンを投げ捨ててベッドに突っ伏していると、電話が鳴った。

もぞもぞ手繰り寄せて液晶を確認すると、悟、と出ていた。小学校と中学校が一緒だった悟。卒業してから疎遠だったのに、久しぶりに出席した同窓会がきっかけで最近連絡を取り合うようになっていた。


「何か用」
突っ伏したままで電話に出た。
「その言い方なんじゃ。せっかく誘おうと思っとるのに」
「誘うって何に」

正直、今はどこにも出かけたくないし、かまってほしくもない。一人にしてもらいたかった。また、飲みに行こうとでも言われるのかなと思った。再会以来、たまに悟はこうして電話しては飲もうと誘ってくる。この前、といっても数か月前だけど、焼き鳥に行ったばかりだ。

そうだ、あの焼き鳥の日、久しぶりに彼からメールの返信があったんだった。思考はまた彼のことに戻って行く。あのメールが来ていたときが、今ではもう取り返せない瞬間に思える。
あの日は、目の前のおいしい焼き鳥に夢中で、珍しく帰るまでメールに気が付かなかった。あのときすぐに私からも返信していれば、未来は変わっていたのだろうか。

いや、そんなわけない。私は自分で打ち消す。あのときすぐ返信しようと関係ない。私が送ったくだらない質問に、ただ一言返信が来ていただけだったんだから。たった数か月前だから、あのときすでに結婚は決まっていたのかもしれない。結婚することを彼は一言も報告してこなかった。

「――に行こう」
考え事をしていたら、悟の言葉を聞き逃してしまった。
「え? どこだって?」
「じゃけぇ、海。海に行こうやって」
私は思わず目を閉じた。さっき彼のSNSで見たばかりの、青く澄んだ、暑そうなハワイの海が目の裏に浮かぶ。
「海ね。いいよ、行こう」
そう答えていた。

「瀬戸内ドライブ」2へ続く

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