研究所を卒業した、私からは以上です

一年通った研究所の卒業は、あっけなく、と言っていいのか、思いがけないときにやってきた。

夏のバケーション、私は研究所を離れて過ごした。こう暑いと研究も進まない気がしたから思い切って休暇をとったのだ。所長もおおむね賛成していたと思う。

バケーションが終わり、小麦色に焼けたたま、私は研究所を訪れた。覚悟はできていた。研究は、いよいよ最終段階に近づいていたのだ。
多額の費用がかかる大プロジェクト。成功に導くため、資料を整理し体調も万全で挑むことにしていた。
研究は、失敗するかもしれない。でもやると決めていた。バケーションは覚悟を決めるのにも最適だったのだ。

所長も私の覚悟を受け取るかのようにこれからの研究計画を打ち合わせし、その日は帰路についた。

その数日後、私は夢の抽出はすでに始まっているのでは、となぜか思った。計測してきた脳波がこれまでにない値だし、何かがこれまでと違う気がする。
不安だった。
抽出が始まっているなら、どうすればいいのか分からなかった。研究所に行くまで、あと数日あるし、電話も繋がらない。

じりじりと時を待ち、何回目かで研究所に連絡がつく。状況を説明しても研究員は、どういうことなのかと再度聞いてくるし、こちらも焦るのでなかなか伝わらない。やっと所長が電話口に出てきて、それは抽出されているんだろうから明後日くるように、と伝えられた。

結局、私の夢の抽出は、勝ってになされていた。自然に。いつのまにか。驚くべきことに。あんなに研究して、抽出は難しいことを裏付けるデータが集まっていたのに。
所長も私もどこかぽかんとしていた。

当然、大プロジェクトは中止であり、そのまま経過観察が行われた。夢の抽出はされはじめが最も肝心だとも言われる。
そのはじめの難所を超えたとき、所長が卒業を私に告げた。

シスターから、コングラチュレーションと書かれた紙を渡され、それにこれまでの研究レポートを書き提出するよう促される。研究所を出ることは、祝われることなんだな、と噛みしめながら、私はできるかぎり、思いが伝わるようにレポートを書いた。

何度も見てきた、研究所の壁紙を見つめて、これが最後なのかなと思った。あるいは、また次の夢を抽出したくなったら来るかもしれない。まぁ、研究結果と関係なく、今回夢は抽出されたのだけど。それでも研究所に通った日々は無駄だとは思わないし、おかげさまだと思うところはある。

所長がいつも淡々としているし、シスターは優しい。それが私の心をいつもなぐさめてくれた。感謝している。

そうして私は研究所を出た。坂を下る。夢が完全に抽出されたら、そのときまた連絡をしようと思う。

私のレポートはデータ化されて研究所の実践として発表されるだろう。ただそのデータはかなり珍しいものなので、私にはどのデータが私かを判断できる。その発表を見ることも楽しみだ。

研究所を卒業した私からは、以上です。

#小説 #手記 #下書

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