私はカウンセラーではないって言いたかった

入社四年目で、役職がついた。そしていきなり部下が十人いる立場になった。
別に仕事が出来たわけじゃなくて、小さい会社で他に適任の人がいなかったからだった。

仕事として人に教えたり、まとめたりというのはまだ覚悟していたけど、
一番戸惑ったのは、それまで話したこともない人たちに、仕事以外のこともたくさん相談されるようになったことだった。

着任して早々、「隣の人のお菓子を食べる音がうるさい」「居眠りしてる人がいる」。
これはちょっとは仕事にも関係しているような気がしたし、告げ口かいな、って少し思ったけど一応注意しに行った。

次には、「義両親の介護が大変」「子供の受験を控えててストレス」「子供が保育園に慣れない」というお悩み相談。だから残業が難しい、なら分かるけど…。

何もない業務終わりの日に、入れ替わり立ち替わり机まで来て、ただそういう話をされることにものすごく戸惑ってしまった。
26歳で独身だった私に、義家族介護の問題なんて分かるわけがない。私はいつの間にカウンセラーに転職したんだっけ、と勘違いしそうなほどだった。

辛いしんどい、と言うけど、私だって異動してきて立場も変わって不安でいっぱいだった。なんで親くらいに年上の人生相談を、業務時間外に受けないといけないんだと疑問だった。
業務が終わったあとくらい、私は26歳に戻って先輩たちと新商品のお菓子の話でもしときたかった。

そんな疑問が積み重なるところに、その日も40代後半の人が一人やってきて話はじめた。

「今日、他部署の人が提出してきた書類が間違ってたから取りに来て下さいって言ったんです。でもこっちが取りに行くの?なんて嫌味を言われてしまって…」
「そういうことありますよね。でも向こうが取りに来るべきものなんで、少し強めに言って取りに来てもらったら大丈夫ですよ。それでダメなら私から言いますし」
この人はグチが多くて、でも絶対自分では相手に言えないから、少し私はうんざりしていた。

「うん、まぁ、それでね私!持って行ってあげたんですよ。そしたらその方も急に感じがよくなって!やっぱり笑顔が大事ですよね〜」
と言いながら、その人は褒め待ちの顔をしていた。
仕方なく、優しいですね…って言うと、やっと満足して帰って行った。でも私の方はどっと疲れた。

小学校のとき。私たちが「男子がいじめてくる〜」と言いつけると、先生が「それを先生に言ってどうしてほしいの?」と言っていたことを思い出した。
「先生に男子を怒ってほしいの?それともただ聞いてほしいの?それをはっきりしなさい」と。先生の言ってたことがはじめて分かった気がした。

上司だったら、部下の相談を聞くのは当たり前なのかもしれない。
でも、プライベートも細かいことも何でも聞かないといけないのかな。それだったら少し辛いとやっぱり思う。

プライベートが仕事にも影響するのはよく分かるけど、全員の気持ちを毎日聞くことはできない。それは上司の立場の人が疲れてしまう。

職場でも相談しあえば、親交を深めたり、それが業務に活かされたり、あの人は今大変だからという配慮につながることもある。

だけど、仕事と直接関係ないことを「聞いてほしい」「褒められたい」で上司に時間外に相談に行くのは、勝手にその人をカウンセラーにしてると思う。

部署に一人、本物のカウンセラーが常任していればいいのに。
その人が部署ミーティングなんかにも参加して、配属決定なんかにも意見を出すなんてどうかな。守秘義務があるから難しいのかな。

なんでもかんでも、下の人は上の人に相談していいっていい雰囲気が私にはしんどかった。そういう人は他にもいそうな気がする。

それとも、それも手当に含まれていて、上司として当たり前にすべきことだったのかな?

今もときどき考えている。

#エッセイ #仕事 #昇進

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