私が留学していた時、友人と旅行することになった。
彼女は「一番行きたいのはアウシュビッツ」と言う。

小学生の頃から歴史が苦手。大学受験だって、日本史は私にとってただのキツい暗記科目だったから「歴史の流れを掴みましょう」なんて言われてもちんぷんかんぷんだった。恥ずかしく恐ろしいことに、当時の私はホロコーストについて何も知らなかった。そんな私がアウシュビッツへ訪れた話。

ベルリン

友人との旅行はベルリンから始まった。

色々まわったけれど「ホロコースト記念碑」には圧倒された。(写真はベルリンの壁)
地下に博物館があるのを見つけたので、寒い中少し並んで入ることにした。そこで見たこの文が忘れられない。

“It happened, therefore it can happen again” 
〜１度起こったのだからもう１度起こる可能性がある〜
(いつでも繰り返そうと思えば繰り返せると言っても過言ではない)

「歴史は繰り返されるから学ばなければならない」とは聞いていたけど、いまいちピンときてなかった。でもこの言葉で、「繰り返される」という意味がやっと分かった。

博物館では、被害を受けた「個人」がどのような人生を送っていたのかが記されている。「ユダヤ人」ではなく「個人」だ。
大学受験では歴史上の出来事を覚えるのに精一杯で、当時の人々が実際に生きていたのだということを忘れていた。

アウシュビッツ / ビルケナウ

「個人」の人生を知り、想像することが歴史を学ぶことだと気づいた私は、いよいよアウシュビッツへ向かう。
行きのワゴン車では、酔いそうなのを我慢しながら、ホロコーストなどについてスマホで最終確認。車内のシンとした雰囲気がまた、私の心を不安でいっぱいにした。
到着すると、ちらほらと日本語が聞こえた。留学８ヶ月目だった私にとって、違和感だった。

現地のガイドは、中谷さんという方にお願いした。(心からオススメ)
中谷さんは、アウシュビッツでの歴史と現在を繋げて問題提起してくださった。

例えば同性愛。「同性愛者は生産性がない」発言が少し前に話題になった。
この発言に怒っている人たちに対して、私は頭ごなしに否定するのではなく、相手の主張を聞くべきだと思っていた。
しかし、「ホロコーストは言葉から始まった」という言葉を聞いて、考えが変わった。「ユダヤ人は邪魔だ」「害虫でていけ」という言葉が発されて20年後に害虫駆除の薬で虐殺するようになったそう。
つまり、誰かの何気ない言葉が大衆を動かし、命を奪った歴史があるのだ。

影響力のある政治家のこの発言は、何年後かの大衆の動きの源となり得るのだということを踏まえて私は彼女の「生産性がない」という言葉の撤回を求める。
「人の命を奪う可能性があるから」というただ一つの理由だけだけれど、この一つの理由は彼女にも発言の自由はあるのだと擁護することなしに非難するに値すると思った。

私の差別発言

収容されたユダヤ人は縞模様の囚人服を着せられた上、ユダヤ人や同性愛者、ジプシーなど決まった項目によりマークをつけられたそう。
中谷さんが、今でも「街頭で詐欺をしているのはジプシーだ」などの偏見が多くあるという話をした時、ギクっとした。
ちょうど前日に、道端にいるのはジプシーらしいよ、と友人に話してしまったからだ。

ベルリンでジプシーにお金を取られたという話を聞いたことがあったので、ベルリンで観光客を騙しているのはジプシーだと勝手に思っていた。
差別はいけないことだ。なくさなければならない。などと考えておきながら旅先で自分を守るためという名目で、ジプシーなのかも分からない、詐欺をするほんの一部の人たちをジプシーとして毛嫌いしていた。
この考え方はドイツ人が、「ユダヤ人は自分達に悪影響を与える」という理由でユダヤ人なのかも分からない人をユダヤ人として嫌い、安全のために排除したことと変わりない。

アウシュビッツで感じた希望

中谷さんはガイドの後半にこうおっしゃった。

人々が何か間違ったことをしている時、勇気を出して少数派になってほしい。

大衆について行くのは簡単なことだから、大衆が間違っている時に、「間違っている」と言える人は少ないだろう。アウシュビッツを訪れた私たちは、その勇気ある少数派になれるということだ。
中谷さんはこうもおっしゃった。

少数派が３割集まれば、状況を変えられる

このことを知った私は、周りが間違った行動をしそうだと気づいたら必ず「間違っている」とはっきり発言する義務がある。アウシュビッツでの歴史を知っているから。同じ過ちを繰り返さないために。ちょっとの勇気が大衆を動かせるから。

最後に、私１人だったら絶対に訪れなかったと思う。
友人へ。誘ってくれてありがとう。大事なことに気づかせてくれてありがとう。