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子どものお小遣いにも平成の「失われた30年」【未来を生きる文章術003】

 2002年1月23日の原稿です。

 今回は文章についての話題から。この連載、もともと「ネット社会論的なものを書きませんか?」という編集の方の投げかけから始まりました。
 それもわかるけれどと思いつつ、ぼくにはちょっと荷が重いというか、評論家的な文章を書く気になれなくて。それで行きついたのが、ネット上の情報を参考にしつつ、それを読み解く目を養うという、実践的なコラム。

 だから、毎回ネット上に発表される新しい情報を紹介しながら、ひとつにまとめていったんです。いわばネット新着からの三題話的な。
 今回、過去のコラムを紹介するにあたって、さすがにリンク切れも多いのでリンクは削除していますが、文中で「〇〇によれば」などと記している場合、当時はその情報源へのリンクをつけていたわけです。

 連載を持つとき、どのような制約を課すかは創造性と関係します。創造性というのは、制約の中から生まれますから。
 その制約が、この連載の場合は、ネット上の情報を複数紹介するというところだったわけです。もっともそれだけでは味が無いので、その組み合わせの先に自分なりの視点を加えられるかどうかが勝負でした。

 で、今回の場合は、「小さな福の神」がポイントですね。ここに落とすということをまず思いつき、しかしお年玉やお小遣いの話からストレートに進んだのでは味気ないので、キャラクターで寄り道したと。そこが工夫。

 しかし、このコラムを読み返して、あらためて「家計の金融資産に関する世論調査」の最新版を見たのですが。
 子どものおこづかいって、当時でさえ「1980年ごろにピークをむかえた後は減少し、その後高学年では月1500円弱、低中学年では月1000円前後で横ばいです」と書いていますが、その後はむしろ、デフレ気味。
 失われた20年、いや子どもにとっては40年。ほんとうに、右肩上がりなんて幻想を持つことさえできない平成時代だったのだと、暗鬱たる気分になるのでした。

 ま、キャラクターについては、広がってますけれどね。文中、ピクミンとかトロっていうのは、当時ゲーム機で流行したキャラクターです。

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お年玉と福の神としての子どもたち

 みずほファイナンシャルグループの第一勧業銀行が、今年の「お年玉調査リポート」を発表しました。東京都内の小学校高学年とその母親を対象に毎年行われている調査です。
 報道によると、ひとりあたりの平均金額は2万5538円で、昨年比886円(3.4%)の減少とあります。昨年は4年ぶりに平均金額が増加し、お年玉市況に底打ちと言われていたのですが、ふたたびの減少です。
 親が締めれば子も締める。同リポートによれば、預金にまわす額は1万8717円と、昨年の1万8758円と比べて、受取額の減少ほどには減っていません。消費を抑制して貯蓄しているわけです。

 子どもの毎月のおこづかい額を金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」で調べてみました。小学生のおこづかい額が、ここ四半世紀ほとんど変わっていないことに驚きました。1980年ごろにピークをむかえた後は減少し、その後高学年では月1500円弱、低中学年では月1000円前後で横ばいです。
 収入が伸びない環境下でやりくりする。子どもこそ、現代的家計術の大先輩といえるかもしれません。そんな彼らが、お年玉を貯蓄にまわしている。まさか「痛み」を覚悟して将来に備えているなんてことはないでしょうけれども。

 厳しい時代背景の中で癒しを与えてくれるのが、子どもたちも大好きなキャラクターたち。お年玉のいくらかはキャラクター商品にもまわったことでしょう。バンダイキャラクター研究所の調査によれば、日常生活にストレスを感じている小学生ほど、キャラクターに親や友達の役割を強く期待しているといいます。キャラクターの方が親友や父親より安心できるというのです。
 ストレスは大人にもあります。ピクミンやトロなど昨年人気を呼んだキャラクターは、むしろ大人の心を癒したようです。日本では、シルバー層ですら6割の人がキャラクター商品を持っているのだとか。

 平凡社の世界大百科事典をひもとくと、子どもにお年玉をわたす風習には、訪れる子どもを福の神と見立て、余禄を施すと余慶が得られるという観念がひそんでいるとあります。
 当面、明るさの見えそうにない日本経済。癒し系キャラクターの時代はまだしばらく続きそうです。ロイヤルベビーの誕生もあったことだし、小さな福の神に期待する人も多いのではないでしょうか。そう考えると、もう少し正月の施しをしておけばよかったかもしれませんね。

ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。