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メディアとチャネル、17年の(不)変化【未来を生きる文章術007】

 2002年2月20日の原稿です。

 メディアの融合時代を指摘していますが、「表示」から「行動」へという広告の大きな流れを前提に、ネットにおいてもテレビにおいても同じ方向に向かうだろうという話です。

 予測はちょっとはずしているかな。テレビにネットのインタラクティブ性が加わってネット的になるみたいな未来観ですね。
 実際はむしろネットがテレビ的になって、動画の間にCMが「表示」されている。
 テレビ業界にも視聴質なんて新しい考え方は出てきていますが、行動を計測するには至っていません。テレビを見ながらツイートするという行動は意識されているにしても。

 ところで、文章としては分かりづらいです。なぜでしょう?

 冒頭で話題にしているYahoo! JAPANの仕組みがどんなものであるか、説明が不足しているというのも原因。
 しかしそれ以上に、途中で紹介しているネット広告の進化が、最後の締めにどうつながっているのか分かりづらいんですよね。いわゆる伏線を回収しきれていない状態です。

 これは、推敲の責任。文章を書くとき、1から10まで見えて書くことは、ぼくはありません。最初はとにかく「書き終える」ことが重要で、その後、推敲しながら情報を刈り込み流れを整えます
 ですから、最後の締めを書き終えた後、そこに向けて前半中盤を削ったり組み立てなおしたりということはよくあります。

 締めで触れているチャネルというのは、「どこを通して売るか」ということで、日本語にすれば販売経路です。この販売経路のとらえ方の中にメディアを組み込む。
 この考え方自体は、今でも通用します。未来像としては外しているけれど、メディアのとらえ方としては、現代に通じる。しかしそこに収束させていくだけの情報の整理ができていない、それがこの原稿です。

 なんとなく情報は豊富だけれど伝わらない文章。

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インターネット広告に新指標、メディア融合時代への胎動

 Yahoo! JAPANの発表したインターネット広告の新しい料金算出指標が話題を呼んでいます。広告を見た人数に基づいて料金を算出するというのがそれです。これまでウェブサイト上の広告料金は、広告を掲載したページが何度表示されたかという「ページビュー」指標が中心でした。ひとりで何度も見た可能性があり、一人あたりの単価が測れなかったのです。
 一方、テレビや新聞といった媒体は視聴率や発行部数など「一人あたり」に還元できる指標が使われてきました。今回の新料金算出指標によって、広告主にとっては、インターネット広告をCMや新聞広告と比較検討できることになります。メディアミックス戦略を立てやすくなることでしょう。

 Yahoo! JAPANやサイバー・コミュニケーションズ、サイバーエージェントといった主要インターネット広告企業の投資家向け情報を参照すると、どの企業も、昨年10月~12月期は、広告をとりまく厳しい環境を指摘しています。新料金算出指標には、他媒体と比較してネット広告の割安感を訴え、受注増加を図りたいといった狙いもあることでしょう。
 とはいえ、これをもってインターネット広告も、既存媒体並みの料金算出指標に基づくようになり、同じ土俵で検討されるようになるかというと、そう単純なことではないと思います。今回の新指標は、いわば到達人数という「量」に基づく比較ができやすくなったということで、効果を基準にしたものではありません。

 広告主には、量ではなく効果で広告を測りたいという欲求があります。Yahoo! JAPANの記事と時を同じくしてインテージから発表されたテレビCMの効果測定サービスは、そうした声に応えようとするものといえます。消費者パネル調査にCM視聴調査を絡めることで、媒体としてのCMが実際のチャネルでの購買行動にどう影響しているかを分析するサービスです。
 インターネット広告はこれまで、より消費に近いところで広告効果を測る方向に進化してきました。「掲載期間」や「ページビュー」に加え、クリックされた回数に応じて料金が決まる「クリック保証」や実際に利用者が購買や資料請求といった行動をとってはじめて広告料金が発生する「成果報酬」といった基準が登場してきたのです。

 インターネットは単なる媒体ではなく、チャネルでもあります。個人への到達コストを明らかにするという点から、媒体としての広告料金指標が既存メディアに近づく一方で、チャネルの特性を活かした効果測定も磨かれていくものと考えられます。
 一方で、既存メディアの広告で、チャネル(消費行動)との関連性が問われるようになってきている。今後、テレビのインタラクティブ性が高まると、この方向のニーズはいっそう高まるに違いありません。
 ぼくたちは媒体からチャネルまでを含み、大きな意味でメディアが融合する時代に生きている、そんな実感を強くしました。

ゼロ年代に『日経ビジネス』系のウェブメディアに連載していた文章を、15年後に振り返りつつ、現代へのヒントを探ります。歴史が未来を作る。過去の文章に突っ込むという異色の文章指南としてもお楽しみください。