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シン・長田を彩るプレイヤー~社員と共に追及する、靴の美学~(後編)

今月は株式会社ロンタムの取締役社長・神農英道さんの記事をお届けします。
※2021年7月にKOBE007が取材をした記事のリメイクです。

前編では“靴の美学”について、神農さんの強いこだわりを語っていただきました。
後編では、社長に就任されてからの株式会社ロンタムの変化や、社長としての志をお話しいただきます。


コロナ禍こそ社員を守る経営をするワケ

-記者-
“靴の美学“の話がありましたが、他にもこだわっていることはありますか?

-神農さん-
社員の働く環境についてもこだわっています。ただ、僕らの業界の中では他社と比べてめちゃめちゃこだわってるっていうだけで、一般企業としては当たり前のことやと思うんです。けどなかなかね、それが出来る世界じゃないんで。

-記者-
そもそもこういった想いを持たれるようになったのはいつ頃ですか?

-神農さん-
去年僕の代になっていきなり労働基準監督署が訪ねてきて、それはもう色んなことを指摘されて、それで色々勉強しましたね。この1年かけて整えたあと、労働基準監督署の人がこの前また来て「ようここまで整えてくれましたね」って言ってくれました。

いいタイミングで、労働基準監督署が来てくれたんじゃないですかね。ちゃんと社員の働く環境を整えずに、うまいこと逃げてグレーにしてたところで、まあ先はないんかなあと。

-記者-
きっかけは労働基準監督署の訪問だったんですか?

-神農さん-
めちゃめちゃ大きいですね。その前から少しずつ改善はしてきましたけど、指摘されてドーンと背中を押されました。そういった環境が整ってないのに誰が入社してくれるのって思いますよね。

僕の会社は、社員の働く環境を整えることに力を入れてて、色んな若手の人が集まってきてます。その分負担も大きいけど、やっぱり土台を作っていかないと。

昔はそんなことは必要でなかった、でも今は大半の業界が福利厚生をちゃんとしているからなかなかこの業界に若い人が集まらないというね。本来は夢を持って入れる産業にしていかないといけないんだけど、ほんとに何も出来てない・・・

-記者-
この産業の未来を考えたときに人がまず入ってこないといけないということですか?

-神農さん-
そうですね!どこでどうなるか分からんけど人がいないと作れないので。例えば僕らはファッションものなんで閑散期と繁忙期というのが乱雑に起こるんですよ。去年はこうやった、っていうのが通用しないんですよね。

-記者-
その時々のファッションの流れに合わせて仕事をしていく必要があるということですね。

-神農さん-
そうですね。

“社員の大切さ”ということでいうと、2020年の5月、6月、7月に雇用調整助成金をうまく申告できず、実は何百万円かを受け取り損ねてしまったんですよね。

-記者-
結構申告が難しいとニュースでも取り沙汰されていましたよね。

-神農さん-
届けたのが1日遅れ、何百万円かパーになってしまいました。ですが、会社の資金で給料を3か月間保証しました。そのおかげで従業員が残ってくれたから、そのあと仕事がどさっと入ってきたときも対応できて、お客様からも信頼を得られたんですよ。

いかに社員が大事かということをそこで初めて痛感しました。全てしっかりしておかないと、多くの生産依頼があったときに乗り越えられないということを知り勉強になりました。
工場環境もそうだし、福利厚生もそうだし、当たり前のことなんですけどね。

-記者-
当たり前をいかに実践していくかというのはすごく大事ですよね。

社長になられてからは、社員の方の人生を背負うわけじゃないですか。やはりそのプレッシャーというのは私たちでは想像できないものなのかなと。

-神農さん-
そうですね、コロナの影響があって、やはり従業員の削減をせざるを得ないのかと思うこともあったんですが。それこそ、従業員の大切さを知ったことを思い出しまして・・・

繁忙期になって大量の注文が来たら、その分を作っていかないと逆にまたお客さんの信頼を失ってしまうことになりますし。だから今が耐え時で、耐えないと次のステップに行けないですよね。

自分の人生であり、社員の人生

-記者-
神農さんの社員の働く環境の整備について社員さんからの反応はいかがですか?

-神農さん-
各部署の責任者を通してですが、みんな喜んでますといったことを聞きます。その言葉を聞くだけでやってよかったなって。

-記者-
やりがいにつながりますよね。

-神農さん-
社員の働く環境を整備しない場合、スタッフの気持ちや行動が80%やったのが、整備をすることで100%になるんですよ。やる気が変わったんだっていうのが、いちばん実感する。それは生産数で分かります。

今までこの人数やったら「こんだけしかできんかった」、「あんだけ残業をしてた」というところが、やる気が高まることによって同じ人数でも残業が減って、より一層生産数が多くなる。それはもう実感というか数字に見えます。

次世代のものづくりへ

-記者-
田中ミシンさんと前回お話しさせていただいた時、向上心を持って仕事に向かっていて、製造業を盛り上げたいという思いが伝わってきました。

-神農さん-
そうですね。彼はこの業界で特殊やと思います。ミシンを販売している会社はミシンの機械を売るという概念しか僕にはなかったんですけど、彼はその概念にとらわれず、挑戦している。SNSを駆使していて、今までこの業界にいなかったタイプですね。

自分で自分の将来を作ろうとしていてすごいなと思います。こういう若手が増えると、この業界も変わってくるのかな。

ものづくりも昔と今とで全然違う。かつてバリバリやってた人は昔の感覚があると思うけど、昔の考えだけだと良くないんかなって。ベテランの経験と若手の発想でうちのやり方を進化させて一緒に歩んで行って欲しいなって思うので、新しい子たち、若い子たちに来て欲しいですね。

靴づくりを人生にしたい。

-記者-
社長になってからは、現場に立って生産することはなくなりましたか?

-神農さん-
減りましたけど、全然現場に立ってます。お客さんとの商談、窓口は全部僕です。出張でのやり取りもしますし、設計でも最初の部分は全部僕がします。

-記者-
すごいハードワークですね。

-神農さん-
そうですね。それでも今は、ものづくりの最初の工程とかは任せるようになった。ただファッション業界ですと、営業の仕方って非常に重要で。靴を分かってないと営業出来ないですし、お話もできないんですよ。一旦持ち帰って検討という形が取れないので。

-記者-
その場でやはりある程度の交渉ができないと、じゃあ、もうええわってなりますもんね。

-神農さん-
そういうことです。営業はそこがいちばん重要で、そこだけはまだ任せることもできない。お客様もプロフェッショナルなんで。

-記者-
最後に、神農さんにとって靴づくりとはなんですか?

-神農さん-
人生です、僕の人生。僕は他で働いたこともないし、これでしか自分の人生を描けない。だから自分の人生であり、社員の人生にしたい。

-記者-
すごく熱い思いで語っていただいて、ありがとうございます。

-神農さん-
いやほんとに、この想いがないと。それがみんなにね、社員やお客さんにも伝わってると思ってます。

神農さんは、つくる商品だけではなく、つくる人・環境も大切にされていることが伝わってきました。
当たり前を当たり前にするにはたくさんの努力が必要だったと思います。
靴づくりが自分の、そして社員の人生だという強い思いが、魅力的な靴をつくっているんですね。
(編集:みっちゃん)