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大人だって挑戦したい!

 こんにちはド・ローカルです。新聞記者をやっていると、日々の取材、原稿出筆に追われ、休みの日は「バタンキュー」とひたすら寝て過ごす生活を重ねてしまいます。取材を優先する余り、自分のやりたいことを後回しにして、結局、「今さら…」とあきらめがちになります。
 それならば、「自分がやりたいことに挑戦し、それを記事にしてみれば」と号令をかけました。「えっ、本当にいいのですか?」と記者たちは一瞬、目を丸くしましたが、次から次へと手が上がり、その挑戦を連載にしてみました。名付けて「大人だって挑戦したい!」。記者たちは何に挑戦したのでしょうか。コーナーの一部を紹介します。

〝自分との闘い〟にのめり込む トランポリン&トリッキング

記者もトランポリンに挑戦。自分では軽々と跳べている気分だったが…=神戸市長田区蓮池町

 神戸市長田区蓮池町の県立文化体育館では、大人だけのトランポリンクラブが活動を続けており、同市中央区南本町通1には、新スポーツ「トリッキング」が習えるスタジオ「タンドラ」がある。子どもの習い事がきっかけだったり、テレビやネットで見たり。始めるきっかけはそれぞれだが、大人たちは「自分との闘いなんです」とのめり込んでいる。
 県立文化体育館で活動する、大人だけのトランポリンクラブ「ストークストランポリンクラブ」。軽々と回転技などを繰り出す妙齢の人たちを見ていたら、「もしかしたらできるかも」と勘違いし、いざ、トランポリン台へ―。
 「さあ、まずは両足で跳んでみましょう」。小銭弘美代表=同市須磨区=の指導の下、跳んでみる。「怖い」。体の芯がしっかりしていないため、どこに跳んでいってしまうのか分からず不安定。「腹筋に力を入れて」と言われるが、力が入らない。
 「はい、上で膝を抱えて」「次は開脚」「じゃあ、半回転してみましょう」。必死で食らいつこうとするが、力が入った腕や脚に痛みを感じてきた。始めに、「トランポリンは全身運動」と言われた意味が分かる。息も上がる。ひとたび、台から降りれば宇宙遊泳しているような感覚でふらふら。「でも、ちょっと楽しい」
 こんなに何度も跳びはねることなど、振り返れば中学生以来だ。技ができるようになったら、ますます意欲が出てくるのだろうか。子どもが習い始めたことをきっかけにトランポリンの世界に飛び込んだ小銭さんは「運動は大の苦手。でも、気が付いたら25年以上続いていた」という。
 トランポリンはさまざまな運動に必要なバランス感覚や基礎体力の向上に適しているという。現在、同クラブには30代から70代まで10人程度が所属している。
 競技会の出場なども目指し、個々の体力や能力に応じて、技を磨く。明石市の50代女性は「互いに別々の生活をしながら、同じ趣味を介して集まった仲間。持ちつ持たれつ、教え合い、励まし合いながら続けられることが楽しい」。小銭さんも「まずは健康第一。その上で、技やきれいさの追究を目標にみんな頑張っている」と話す。

(2018年5月17日付 神戸新聞朝刊)
ストークストランポリンクラブのメンバー=神戸市長田区蓮池町

▼トリッキング 武術+アクロバットで爽快 神戸にスタジオ

20~50代の大人がバック転の練習をする=神戸市中央区南本町通1

 神戸市中央区には、トリッキングが習えるスタジオ「タンドラ」がある。トリッキングとは、宙返りやひねり、けりなどを組み合わせた競技で、日本ではここ数年、注目度が高まっている。武術とアクロバットを組み合わせているため、「バック転や宙返りができるようになりたい」と、習い始める大人も多いという。
 会社経営の50代男性は、昨年12月から始めた。実際にトリッキングの大会を目にし、「ジムに通うならこちらの方が面白そう」と門をたたいた。インストラクターが補助につき、バック転の練習中だ。体のあちこちが痛くなることもあるというが、「体重は3キロ落ちたんです」と思わぬ効果もあったという。
 同市東灘区の20代の女性会社員は「仕事の休みの日に来て、ストレス発散できることが楽しい。一人で回れたらかっこいいですよね」と笑顔で話した。

(2018年5月17日付 神戸新聞朝刊)

魅力発信 神戸でママたち活動中 須磨からゴム跳び〝復権〟

ゴム跳びに興じる参加者たち=神戸市須磨区須磨寺町3
華麗な足技を披露するママも

 「ゴム跳び」。ある年代(?)より上の女性なら覚えがあるのではないでしょうか。輪にしたゴムひもを柱役の2人の足にかけ、ひもを交差させて跳んだり、前後ろに向きを変えながら跳んだりと多彩な技を繰り出す、あの遊び。最近ではすっかり鳴りを潜め、今の子どもたちはその存在すら知らない。学校の階段の踊り場で、廊下で、道ばたで…。さまざまな場所で女子たちが熱狂したゴム跳びを復権させようと、神戸市須磨区のママたちが立ち上がった。
 子育て中の母親や市職員、学生ら15人でつくるグループ「ママスマ」のメンバー。お茶をしながら「まちでできる楽しいこと」のアイデアを出し合っていたとき、ふとゴム跳びの話になった。
 「今の子は全然知らんねん」「うちの地元の跳び方は…」。話は熱を帯び、楽しさを広く伝えようと街角でゴム跳びをするPR動画を作ることになった。撮影、編集は神戸芸術工科大生が担当し、会員制交流サイト(SNS)で参加者を募った。

 4月中旬、山陽須磨寺駅前に母親や子どもら50人以上が集まった。長さ約3メートルのゴムひもを輪にし、須磨寺商店街の休憩所や須磨寺の参道、境内で跳んだり、1本のひもを足に絡ませながらアクロバティックな技を披露したりした。
 「今まで知らなかった子どもや、男性にも魅力を感じてもらえるように」と、動画は格好よさにこだわり、赤鳥居など印象的な街の光景もちりばめた。
 参加した須磨区の30代主婦は「毎日友達と学校でゴム跳びをして、週末や放課後は姉と一緒に一日中していた。あの頃がよみがえってくる」。初めて挑戦した小学生の女児は「最初は難しかったけど、楽しい。1本のひもでもやってみたい」と声を弾ませた。
 動画は「ママスマ」のフェイスブックで公開中。今後も、区内各地で撮影する予定で、動画再生回数が5千回を超えたら、公園を借り切って大会を開く構想もある。
 ママスマの40代女性は「こんな貴重な遺産なのに…って、勝手な妄想ですかね」と笑いつつ、「教える、教わる―の関係じゃなくて、親子が一緒に楽しめて、さらに、子どもの年齢や校区などが違うお母さんたちが、楽しくつながれるきっかけになれば」とゴム跳び復権に意気込みを見せる。

(2018年6月2日付 神戸新聞朝刊)

古民家でカフェ料理 神戸のレンタルスペース   ゆったり〝田舎ムード〟満喫

古民家でカフェ料理に挑戦した記者=神戸市北区山田町下谷上

 一歩足を踏み入れた瞬間、懐かしさがこみ上げた。ガラガラと音を立てて開く引き戸。広い畳の間でせっせと首を振る扇風機。縁側を通り抜ける涼やかな風。神戸市内でもそんなゆったりとした時間を過ごせる古民家が、レンタルスペースとして貸し出されていると聞いた。「古民家でカフェ料理を作ってみたい」。かねての願望を実現できる、とカフェ料理の人気ブロガーのレシピ本を片手に現地に向かった。

 三宮から車で約20分。同市北区山田町下谷上にあるレンタルスペース「32(サブ)base(ベース)」は、築約50年の日本家屋。14畳の和室や8畳のリビング、大人4人が並んでも使える広いキッチンには食器類一式が完備されている。炊飯器やホットプレート、カセットこんろなども充実しており、あらかたの料理はできそうだ。
 平日なら1時間1500円から、土日なら2千円からレンタルできる。5時間から予約可能で、利用人数は最大25人。「せっかくなら」と知人ら7人で借りてみた。
 挑戦するのはカフェ風のワンプレートランチ。メインはレシピ本の中でも最もアクセス数の多い「大根おろしの照り焼きハンバーグ 焼きなす添え」にし、副菜は「サンチュと大根とれんこんの和サラダ」に決めた。
 食材はレシピを見ながら古民家近くのスーパーで買い集めた。慣れない手つきで野菜をカットし、ひき肉をもみ込む。ポイントは塩の分量だ。肉の1%の塩を入れ、粘りが出るまでよく練る。そうするとひび割れしにくくなる。フライパンで焼く際にも、成形したひき肉の表面に油を付け、表面をツルンとさせておけばひび割れ防止になるという。
 こんがり焼き色が付いたら裏返し、ひき肉の3分の1の高さまで水を注ぐ。ふたをして弱火―中火で水分がなくなるまで焼けば完成。おしゃれな皿に盛り付ければ、雰囲気は完全に古民家カフェランチだ。
 猛暑なのでエアコンも欠かせないが、セミの鳴き声を聞きながら縁側で食べるおしゃれなランチもこれまた絶品。家族で遊べるようなゲーム機もあり、子どもと来ても十分に楽しめる。
 実際に「祖母の米寿のお祝いに」と親子三代で使う家族や同窓会、鍋・バーベキューパーティーなどで使う人も多いという。
 大広間で皆がわいわいと飲んだり食べたりしている姿を見ていると、幼い頃親戚一同で過ごした田舎の景色と重なる。古民家で過ごす大人の夏休み。みなさんもいかがでしょう?

(2018年8月16日付 神戸新聞朝刊)
料理動画の撮影風景

神戸・須磨-宝塚間 限界超え六甲全山縦走    痛み耐え、16時間で踏破

ゴール前の最後の階段を上る記者=宝塚市
名勝「馬の背」に挑む参加者=神戸市須磨区

 六甲連山を神戸市須磨区の須磨浦公園から宝塚市まで踏破する「六甲全山縦走大会」が開かれた。これまで登山愛好家の人気イベントと捉え、身近に感じることは少なかった。ただ、神戸マラソンが11月の恒例行事となった影響か、近年、最初の募集では定員に達しない状況が続く。初心者の記者が歩いて魅力を確かめてみようと、挑戦した。

 全山縦走は、記者が生まれた1975年に初開催され、今年で44回目。毎年計約4千人が参加している。ただし距離は公称56キロで、登る高さの合計3千メートルは通常5合目から登る富士登山の2回分。実際に申し込むかどうか、ためらった。
 参加を決意したのは、2人の子に「父親が困難と向き合う姿」を見せたかったから。9月、神戸市長田区と須磨区にまたがる高取山(標高328・8メートル)の毎日登山を始めた。出勤前、自宅から往復1時間半。休日には縦走路を分割して歩いた。だが急に運動したためか腰を痛め、棄権が頭によぎったこともあった。
 大会当日。腰と膝に厳重にサポーターを巻き、午前5時に須磨浦公園を出発した。競走ではないが、途中3カ所のチェックポイントごとに制限時間があり、遅れると失格になる。
 序盤は快調に進んだ。ヘッドライトの明かりが連なり、きれいだ。はちぶせやまはたふりやまてっかい山を越え、とがやまの通称「400段階段」を上る。横尾山から下りると、断崖絶壁で有名な名勝「馬の背」へ。岩肌に朝日が当たり、非日常感が高まる。

 遠足気分が一変したのは菊水山(同市北区)だ。標高差約300メートルを急勾配の坂で一気に登る。体力不足に疲労が重なり、足が上がらない。気持ちが折れそうになるたび「苦しみは分割、喜びは蓄積」と考え、一歩一歩に集中する。何度も何度も息を整え、午前9時57分、頂上に立った。
 六甲縦走の厳しさは、登りが1回だけの通常の登山と異なり、登り下りが連続することにある。菊水山の急な下りで体力をそがれた直後、なべぶた山の急坂に登る。終わりが見えない。膝と足首に痛みを感じ始める。
 正午ごろ、新神戸駅の北にある市ケ原に到着。いよいよ難所と名高い摩耶山に向かう。もう足が動かない。大勢の人に抜かれたが、恥ずかしさより、登り切りたい思いの強さがわずかに上回った。全行程の半分、摩耶山きくせい台に着いた。
 縦走大会を市と共催する市民の会の副会長の男性(80)に会った。勧められた「摩耶山を守ろう会」のホットレモンサービスや、県柔道整復師会の無料マッサージで体力が復活。東を目指して再出発した。

 そこからは距離に苦しんだ。起伏は少なかったが、宝塚はあまりにも遠かった。紅葉狩りを楽しむ行楽客を横目に、尾根筋を参加者の隊列が無言のまま進む。
 午後5時半には真っ暗。宝塚に下りる山道では、森の深い闇を1人で進む場面もあった。腰から下が痛みでしびれていたが、時折見える夜景に励まされた。
 そして夜9時、ついにゴール。家族が迎えてくれた。気力を使い果たし、踏破の実感は伴わなかったが、自分と向き合い、自然に包まれる貴重な体験だった

(2018年11月17日付 神戸新聞朝刊)
夕焼けを見ながら、ひたすら東へ進む=神戸市灘区

<ド・ローカル>
 1993年入社。これは私が報道部デスク時代に世に出した連載の一部です。人は何歳になってもやりたいことはありますし、過去に捨ててきたやりたいことへの思いをなかなか断ち切ることができません。それならば…。がこの連載の原点でした。ちなみに私がやりたいことは2つです。英語スキルを身に付けること。ギターを弾くこと。あきらめずに挑戦していきます。