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【コメディ】トイレの中心で便意を叫ぶ

3年前の春のことです。

時間に余裕を持って出社するのが新入社員の常識ですが、ぼくは毎日、時間ギリギリに到着する電車に乗っていました。

上司に、「おい、もっと早くこいよ」と言われても、♪ギリギリでいつも生きていたいからah-ah♪ とリアルフェイスで鼻歌を返したのです。

「しばくど?お前は一言多いねん」

「さ~せん」

そんなゆるふわな会社だからこそ、あの悲劇が生まれることになります。

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ある日の朝、満員電車に揺られている最中のことでした。

突然、下腹部をムカムカする感覚が襲います。

なんだ、これは?

ぼくは、ぎゅうぎゅう詰めの車内で携帯を口元に近づけました。

そして、急いでグーグル先輩に向かってささやきシロー、もとい、囁きました。

「下腹部 むかむか 原因」

即座に、Siriちゃんは答えます。

「それは、便意です」

「やはり」
ぼっそりと答えて、顔をしかめます。

しかし便意という名の魔物は、容赦がありませんでした。

下腹部のムカムカは増していき、物体は今にも脱出を試みています。

漏らすのか?漏らさないのか??

いやだ、いやだあ!!!

車内で便意という悪魔に屈するわけにはいかないぼくは必至の抵抗を試みます。

前傾姿勢をしてみたり、芋虫のように体をくねらせてみたり、しゃがみこんでみたり。

しかし、限界は近づいてきます。

やがてぼくは、この便意が多少の我慢程度ではどうにもならないということに気づいてしまいました。

そんなときです。

目の前に快楽の呪文が飛び込んできたのです。

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「万が一の時には、非常停止ボタンがあります。」

電車の広告に描かれたその表示にはこう書いてありました。

そしてぼくの隣には、ワンピース・バギーの鼻のような真っ赤な赤いボタンがあるではありませんか。

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これか?

押すか?

押したら電車が止まるんだよな?

押しちゃおうかな?

葛藤に襲われる中、赤いボタンをポチッと押すだけで、全てが楽になる気がしたのです。

便意に負け、赤いボタンを今にも押してしまいそうになったとき、神様の叫び声が聞こええてきました。

「電車が止まっても、便を出す場所などない。次の駅まで我慢せよ」

その声ではっと目が覚め、再度状況を考察します。

押して、電車を止めた場合、なぜ止めたのか?と問題になってしまいます。

その場合、ぼくはこう答えるでしょう。

「大便がしたかった」と。

朝の通勤ラッシュの大切な時間に、便意に駆られて電車を止めた小僧を、阪急電鉄は許すでしょうか。

いえ、許すはずがありません。
損害賠償などが発生するか、最悪。牢獄行きです。

押しちゃだめだ。
ぼくはなんとか思いとどまり、電車の停止ボタンを押すことを思いとどまりました。

電車の現在地は、現在は阪急岡本を越えたあたりです。
梅田駅まで便意を我慢して、梅田駅で用を足せば、会社に間に合う可能性はあります。

しかしぼくは、会社に間に合うことよりも、生理的欲求を解決することを優先しました。

これは苦渋の決断です。
社会人として、会社と便意を天秤にかけて、便意を選んでしまったのです、

もっと余裕をもって早めの電車に乗れば、「ギリギリでいつも生きていたいからAH」と、調子に乗っていなければ。そんな後悔に意味はありません。

今できることは、この便意を開放するために化粧室に駆け込むことだけでした。
ぼくは一切の邪念を捨てて、精神を集中させました。

西宮北口駅に電車が止まるや否や、猛ダッシュで、階段を駆け上がりました。

このとき、ぼくはたしかに風になりました。時速20キロで化粧室に向かって進みます。

化粧室には、合計4つの扉がありました。
しかしその4つ全てが閉ざされていたのです。

ああ、神よ。神はそこまでして、ぼくに漏らさせたいのでしょうか。

諦めて気を抜いた瞬間、便意が下腹部を襲います。
んが!っと叫ぶや否や、ドアの前に躍り出ていました。

ドドンドッドドドン!!

「すみません!」

ドドドッドドドン!!

「すみません!」

ドドンッドンッドドン!!

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「もうだめなんです!」

ドドドッドドドン!!

「あ、あけてください!!」

4つのドアを叩くぼくの姿は、まるで、楽屋挨拶周りをする鈴木奈々のようでした。

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しかし、どのドアからも反応はありません。

尻の穴を引き締め、限界のところで耐えながら、ドアの前で歩き回りました。

カッカッカッと、響き渡る革靴の音。

頼む、誰でもいいから、出てきてくれという思いは、
「助けてくださあ~い!」と言う咆哮を生み出していたのです。

世界の中心で愛を叫ぶほどの思いはなくとも、トイレの中心で便意を叫ぶことはできるのです。

その咆哮を放ったすぐ後でした。

ガチャッ

目の前の扉が開き、バーコード型の頭をした中年男性が現れたのです。

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しかし、その男性があまりにも芸人のトレンディエンジェルに似ていたからでしょうか。

つい無意識に、「ちぇけらっちょはげらっちょ」と言ってしまったのです。

中年男性はもちろん、烈火のごとく怒り、ドアを再び閉めてしまいます。


ドドン!!!!!


ドアが閉まった衝撃で、ぼくのズボンは重みを感じることになります。



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