魚沼産コシヒカリのアイデンティティ

数年前、お米について研究している大学生に「お米で有名な魚沼の地元の人ならではの美味しいお米の食べ方を教えて欲しい。」と聞かれたことがある。
こんなことを聞かれたら、地元民として黙っていられない。
よそ者が知らない、どんな美味しいお米料理を紹介してさすが地元民だろ!と驚かせてやろうか。と思いながらやけになって考えてみた。

が、まったく思い浮かばない。
新潟ならではの米料理。
おにぎり。とかチャーハン。とか彼はそういったことを聞きたいわけではないのだ。
日本一のブランド米を生産している、地元民しか知らないまだ見ぬ米料理が知りたいのだ。

ひとしきり考えてみたが、結論は「そんな料理はない。」だ。
今まで見たこともないような、味わったことのないような米料理が食べたけりゃ創作料理店でも頼み込んだほうが早い。

なぜなら、地元民は米はそのまま白米で食うのが1番に決まっていると思っているから(あるいは思い込んでいるから)だ。

昔、祖母はこんなことをよく言っていた。
「おばあちゃんが子どもの時はね、白いごはんなんて食べられなかったんだよ。戦時中でね、みんなひえやあわの入ったごはんを食べてね、貧しかったのよ。
余所から疎開してきた子どもたちのごはんも用意しなきゃいけなかったから。
だから、あなたはこうやって毎日白いごはん食べれるなんて幸せなのよ。」

白いごはんが食べられる幸せ。
当時は全くピンとこなかったが、今ならわかる。
パンも好きだしうどんもラーメンもパスタも好きだ。
けど、白いごはんのない生活は想像出来ない。
空気のように、いつも何気なくある幸せ。
それが白いごはん。

お昼の情報番組で、おしゃれなお店に並んだ、小さな小さなお米の袋を手に取り、「このお米は魚料理に合うんですよ」とか「こちらは揚げ物に合うんですよ」とお米ソムリエとやらが話している様子をニコニコしながら聞いているアナウンサーを見て、中学生の頃修学旅行先で食べた米のまずさを鼻で笑って会話のネタにしている時と同じ気持ちになった。

魚沼産コシヒカリは白米で食べるなら、魚料理だろうが肉料理だろうが何にでも合う。
合わない料理なんてない。(お好み焼きは?とか言われたら話は別だが…)
22年地元で食べてきた私が言うんだから間違いない。
もっと言えば、80年近く生きている祖母だってそう言うだろう。
断言していい。

ほかのグルメな人たちならどうかはわからないが、これが、地元民が出した答えなのだと思う。
創意工夫のない、シンプルな白米を炊いて召し上がっていただきたい。

そして、それは、豊かで幸せなことだと再確認してほしい。

毎年新米が採れるこの時期。
新米は地元民にとっても特別だ。
だから、新米を噛み締め、その甘さを感じながら、年に一回、この時期だけは美味しいお米をいつも届けてくれる農家の人、この厳しい雪国で繁栄してきた先祖に感謝をするようにしている。
当たり前すぎて忘れてしまう感謝の気持ちを、実りの秋だけは忘れないように。

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