パンクロックと箱根駅伝 第51話

 俺は、思わず先輩に抱き着いてしまった。今までの人生で何度くじけそうになろうとも今まで一度も先輩に抱き着いたことはなかったが、今回ばかりは再開できた嬉しさに咄嗟に抱き着いてしまった。すると、想像していたよりもずっと細く筋肉質になっているのがわかった、それはまるで駅伝選手のようだった。

「えっ、先輩なんですかこの体。めちゃめちゃ締まってるじゃないですか!」

先輩は、いつものように右の唇だけクイっとあげてニヤッと笑った。

「地獄のシゴキに毎日耐えとるからのぉ。日野先生のシゴキはホンマ恐ろしいで!」

「街田は、よう頑張っとるよ。ワシの全力のシゴキを死にもの狂いでついてきて来る。ビックリするわ。」

はっとして、先輩から身を話すと、先輩の隣にいた日野先生が柔和な笑みでこちらを向いてきた

「あっ、日野先生お久しぶりです!と、いうか、明けましておめでとうございます!」

「まぁ。堅苦しい挨拶はいいよ。それにしても大変な事になったな。まさか大和が棄権するなんてなぁ。」

日野先生は俯き加減にすべてを悟っているような調子で話した。

「ええ、競技が始まるまえからずっと。心配してたんです。ですが、、、。」

ですが、、、。ですが、、、。なんなのだ? そこで、何も言えなくなった。

先輩を前にして何を言えばいいのだろう。そして俺は何のために箱根駅伝を目指す一員になり、何を苦しんでいるんだろう。大和さんの事、白井さんの事、浜さんの事、伊達監督の事、井上さんの事、星崎の事。いったい、俺は何しているんだろう。そして、これからどうすればいいんだろう。俺は、俺は、いったい何をするためにこの苦しみの中を迷っているいんだろう。そんな事を考えると急に何も言えなくなってしまった。

そんな、俺を見て先輩はいつものように軽い口調で言った。

「なんや、棄権なんかして情けないのぉ。牧田!心配するな!わしが…」

その瞬間、何かがプチンと切れる音が心の底で鳴り響いた。気が付くと俺は初めて先輩の胸倉をつかんでいた。

「あんたに何がわかる!!ああ!!いつまでもパンクロッカー気取りで軽い口きいてんじゃねーぞ!」

先輩はさすがに面食らったようで、目を辛子でも食べたかのようにシパシパさせながら、何も言い返してこなかった。それをしり目に俺は怒涛の如く先輩を罵った。

「あんたなぁ!どれだけ、この世界がキツイか知ってんのか!箱根駅伝を目指すのがどんだけ苦しいのか知ってんのかよ!たしかにアンタは死ぬほど努力してたのかもしれない!ただなぁ!あんたは歌えなくなった半端モンで!俺は、あんたに義理があるから!あんたに復活してほしくて!おれはパンクバンドを辞めて!好きな女にも降られてて!友達もなくして!それでもう!死に物狂いで頑張ってんだよ!金も、時間も、体力もなんもねぇよ!でもそれでも死ぬ気で頑張ってんだよ!それから!ほかのチームメイトだってそうなんだよ!死ぬ気で今日まで辛いこと散々我慢して頑張ってきてんだよ!それがなんだ!情けないって!あんたになにがわかるんだ!あんたみたいな半端者が言って良いセリフじゃねぇ!!」

往来の真ん中で激高する俺を日野先生が割ってはいって、やめなさい!と叫んだ。俺は正気を取り戻す、ゼェーゼェーと息が上がって、目の前が自分が吐いた真っ白な息で埋め尽くされていた。先輩は何も言わず、俺を少し悲しい目で見つめていた。それを見ると急に自分が激高してしまったことに対する後悔の念が沸いてきたが、どうしても我慢できずに言葉を続けてしまった。

「あのさ。先輩。おれさ。本当は、先輩とパンクロックずっとやってきたかったよ。いまでもずっとそう思ってる。いまでもずっと陸上部に入ったの後悔してる。正直明日にでも辞めてやりたい!ただ!俺はあんたが来るまでココで歯を食いしばってから絶対に箱根駅伝はしってください!!」

俺が言い終えると先輩は、脱兎のごとく駆け出し、人込みを軽やかに避けながら勢いで近くにあった歩道橋の上に駆け上がり中央分離帯の真上で止まった。そこで、人差し指を天高くかざした!

「牧田ー!ワシは 街田や!クレイジー街田や!ほんまお前には迷惑かけた!確かに歌をもう歌われへん半端もんじゃ!!だが!絶対に箱根駅伝だけははしってやるわ!約束したるわ!一曲聴いてくれ!『ただ走る』」



地平線の先に 何かあるわけではなく

誰の祝福も 受けることもなく

いつかの日に 喝采を

受けることだけ 夢に見て

ただ走る ただ走る ただ走る

誰よりも 早く慣れずとも

自分に まけないように

ただ走る ただ走る ただ走る



先輩はアカペラで冬空のした大声で歌った、いや叫んだ。きっと狂ってる。でも、その狂いの中に何かの希望を見つけたような気がした。みんな一杯いっぱいなのだ、先輩だってそうなのだ。

「さぁ、牧田くん。早く集合に行かなきゃいけないんだろ。あのバカはほっといていいからもう、集合場所に行きなさい。」

「はい、ありがとうございます!」

「先輩ー!もう行きます!それから!その曲いつかライブでやりましょう!約束ですよ!!」

そういって、俺は一路集合場所まで走っていった!








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MK

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パンクロックと箱根駅伝

パンクロックと箱根駅伝の小説です
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