『彼女の提案』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年1月18日(再放送:2022年1月22日)オンエア分ラジオドラマ原稿)

女「猫を飼ったら?」

そう提案してきたのは別れた彼女だった。
別れたあとも僕らは何度かバーで会った。
彼女とカウンターに座ってビールを飲んだりカクテルを飲んだりした。
それは別れるときの約束の一つでもあったから。

女「このバーで会ったら、楽しく飲みましょ」

そう提案してきたのもこのバーだった。
それから僕はこのバーにたまに一人で行くようになった。
彼女に会うこともあれば会わないこともあった。
僕も彼女もこのバーではいつも一人だった。

女「新しいパートナーは?」
僕「ああ、エバーフレッシュって僕と同じ背丈のグリーンが新しいパートナーだよ」

自嘲気味に笑う僕に彼女は優しく、

女「いいね」

とだけ言って笑った。
それから何度か彼女とバーで会っても彼女は僕に新しいパートナーができたかと聞くことはなかった。
彼女は僕によく提案をしてくれた。

女「免許を取ったら?」

僕は教習所に通ってマニュアルの運転を覚えた。

女「ジムにお金を払えばもったいないから行くようになるんじゃない?」

それで僕は身体を動かすようになった。

女「グリーンを置けばいいんじゃない?」

僕と同じ背丈のエバーフレッシュと一緒に住むようになったのも、彼女の提案だった。

女「猫、飼ってみたら」

まさかと思うかもしれないが、
僕は猫と一緒に暮らすようになった。
しかし彼女にはそれは伝えていない。
それから彼女とバーで会うことがなくなったからだ。

僕もバーにあまり行かなくなったし、
夢にさえ彼女はもう出てこなくなった。

猫「ビールでも飲んだら?」

あるとき飼っている猫がしゃべり出した。
彼女が結婚をしたというのを知ったのはそんなときだった。

猫「このエバーフレッシュは君の髪より早くのびるね」

長く伸びた僕の髪の毛をみて猫は言った。
そしてエバーフレッシュの葉っぱでじゃれ始めた。

僕「あんまり葉っぱでじゃれないでくれよな」

猫「ニャー」

都合の悪い時だけ猫はしゃべらなくなる。

次の日僕は長く伸びた髪を切った。

女「短い方が似合うわ」

そういえば彼女が昔そう言っていたのを思い出した。



おしまい


※こちらの小説は2022年1月18日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20220118210000

※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送をREPEAT放送でお届け。

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