【1】コロナが明けたらこの店に行け!いや!行くな!混むと嫌だから〜祐天寺「margo」の「退行」しないミートボール〜

【注】本文章は一発目の緊急事態宣言中に書かれた。よって、やや現在とは状況が異なる旨記しておく。

暫く外食をしていない。酒が飲めないからである。フレンチやイタリアンを食いながらワインが飲めないのは辛い。中華料理を食いながら紹興酒を飲めないのは寂しい。和食を食いながら日本酒が飲めないのは侘しい。焼き肉を食いながらビールが飲めないのは悔しい。全ての料理をシャンパン、そしてハイボールと合わせられないのが口惜しい。とにかく「何か食ったら何か酒飲む」と脳内が完全にセッティングされているので、飯を食って酒が飲めないでは片手落ちである。

「水でも炭酸水でも合うでしょ」とは仰るとおりだし、「いや、ノンアルのほうが味わかるでしょ」これまた仰るとおり。だが、それが解らぬほど馬鹿ではない。飯を食って酒を飲む。酒を飲んで飯を食う。速くて30分、遅くて4時間半。こんなにコスパが悪くて幸せなことがあるか。こちとら飯食って酒飲んで2件目行ってもうちょっと飲みたいから3件目行ってフラッフラになりながらサスティンを感じつつタクシーで帰宅したいんじゃ。と読点も打たずに書いたが、現在東京都内は目下緊事宣中であり「飯は食えるが酒は飲めない」店が多い。

じゃによって「行けないので書く」わけではないのだが、コロナが明けた時の忘備録、というか「食べて飲みに行くリスト(その①)」として書き記しておく。ちなみに店の住所や電話番号は一切記載しない。ましてや食べログへの外部リンクなぞ絶対に添付しない。食べログに恨みがあるわけじゃなし、料理人が手間暇をかけてるんだから、訪れる人間も数クリックの手間をかけるべきだ。何より、この文章はどこからもギャランティが発生しないので面倒くさい。

margoの「退行」しないミートボール

東急東横線に祐天寺という駅がある。祐天寺は1718年に創建された浄土宗の寺で、毎年夏になると夏祭りが盛大に開かれる。敷地もかなり広く、寺の隣には墓地もある。ちなみに墓地に隣接した入り口は自動で開くようになっている。以前「ウィーン」と音を立てながら扉が左右に開き、袈裟を着た住職がスクーターに乗っている姿がゆっくりと顕になっていく様を見たことがある。その日はちょっと霧がかっており、門に取り付けられた照明が住職に後光を差していたものだから「ああ、まるでパープルレインのジャケットのようだな」と、檀家でもないのに有り難い気持ちになった記憶がある。20年近く前の話だ。

住職はさておき、今やすっかり北関東在住の若者が上京して原宿や下北沢で衣類を新調したものの、何だか「自分ではお洒落だと思うんだけど、果たしてこれが正解かどうかわからない」感を想起させる駅前に変貌した祐天寺駅のロータリーを出て、KFCのある左側の商店街を進む。

KFC側の商店街は、その辺りに居住しているオッサン達が集まって昼間から花札をプレイしているおよそ中目黒・学芸大学の隣とは思えない堕落の街で、まともに運営しているのが坂東太郎の幟旗立つ肉屋とおでんの種屋だけなのが素晴らしい。昭和から昭和のアウトロであった平成を駆け抜け、令和になった今、商店街のおっちゃんたちは変わらず昼間っから酒を飲んで花札に興じているのだろうか? そうであったらいい。昭和の生き残り、そして平成の残党よ。いつまでもご健在であれ、とか書いてる場合じゃない。店の話だ。その商店街を真っ直ぐ行った先に「margo」はある。

木材を基調とした小さな店内は銀鼠入った壁も美しく、「お洒落風情がやっているので味はそこそこ」と良くわからぬお洒落飲食店コンプレックを発動してしまう方がいるかも知れないが杞憂に終わるだろう。自家製のパテ・ド・カンパーニュ、サワーブレッド、ケールと椎茸のソテーなど、何を食っても大当たりは保証する。サワーブレッドはどの料理よりも適切にセレクトされたナチュールワインに合う。

とくに思い出深いのはモロッコ風ミートボールで、北欧のように少し甘めのソースによって「ああ、なんか懐かしいな」と退行的な味わいを演出するでなし、スパイスがガッツリ利いている。私はモロッコに行ったことはないが「現在、口の中はモロッコあたりに居る」と錯覚してしまうに十分だ。緯度経度、つまり度があっている。「○○風」とは「○○みたいな」といったテイストで使用されるが、margoのそれは「モロッコの風」と表現して差し支えないだろう。肉を齧って鼻に抜けてくるその風は、モロッコ料理で多用されるクミンの香りである。

ちなみに小さめのポット(鍋)に入って供されるのでソースも多く、シチュー感覚で楽しむこともできる。もちろんサワーブレッドをポケットに隠しておいて、それを付けて食べても信じられないほど美味い。マナー違反かもしれない。だが、美味さを引き立てるためならば、行儀くらいは退行しても構わないだろう。

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