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温暖化は戦争を引き起こすか?

先日、自分の大学にオスロの研究センターからゲストスピーカーを招いた講演があったのでその内容をメモ目的に記しておこうと思います。

スピーカー(Halvor Berggrav)と研究所のリンク(link)

内容はタイトルにもあるように、「温暖化は戦争を引き起こすか?(Will Climate Change Lead to War?)」と言う内容であったが、実際のところは「気温の変化は武力紛争にどのような影響があるのか?」と言う内容でした。とてもキャッチーなタイトルだったので、割とたくさんの人が聴きにきていたように思います。

結論から言うと、

現時点の証拠によると、温暖化と武力紛争の因果関係は弱い

と言うことでした。

ざっくりと内容をまとめると、以下の通りです。

1  まず、最近の研究では温暖化と武力紛争の関係性について、第二の原因(mediator{日本語の訳が分かりません})を探る方向に向かっていると言います。

気温 → X  → 紛争

2 そしてそのXとなる候補の原因は以下:

経済の急な低下 → しかしこれについては気温との直接的な関係性は弱く、証拠としては弱い

食料(石油)価格の低下 →  つまり資源の欠乏からくる要素。これもまた、気温との直接的な関係性は弱い。

国内避難民 → 自然災害などによる強制立ち退き。これについても、関係性は弱い。

今のところこの中で一番候補となりそうなのは、移民などを巻き込んだ自然災害による影響。特にシリアのような中東地域ではこのような傾向が見られる。

3  これからの研究は、非間接的な原因についてフォーカスしていくだろう。

 なぜ温暖化と紛争についての関係性が弱いのか?これについては、まずは気候の変化が非常に遅いため、今の統計モデル(少なくとも研究者の多くが使用している分析手法)では、分散の少ない要素を因果関係として扱う事は難しいこと。さらに、移民移動などの傾向は他の様々な原因が関係しているはずなので、気候のみを原因とするのは無理がある。

Kodaiの感想

気候と武力紛争についての関係性については、自分が博士課程を始めた最初の頃に読まされたこちらのサイエンスの論文(Hsiang et al., 2013)などをきっかけに、非常に興味を持った内容でした。しかし論文を読み進めていくうちに、気候を分析する難しさを感じました。以下、自分の思ったいくつかのポイントを整理します。

まず、横断研究(cross-sectional)なのか縦断研究(longitudinal)なのかをはっきり区別しないといけない点です。Hsiang et al., 2013の論文は、確か横断研究であったので、基本的に「熱い地域では紛争が多い」までしか言えません。確かに今回のスピーカーの講演内容でも、地域差の分布が紹介されてましたが、武力紛争の頻度は基本的に赤道付近のアフリカや南米に集中しています。横断研究で示されたパターンは縦断研究のそれとは必ずしも一致しないので、両者を混同してはいけない事は、今まで学んだ事で最重要な項目の一つとなっています。

今回のスピーカーの内容は、どちらかと言うと縦断研究の知見が中心でした。しかし縦断研究に置き換えると、気候の変化はあまりに小さいため、時系列データ上での因果関係が見つからない、と言った結論です。これについては気候の不規則性にフォーカスをしても同様です。確かに地球温暖化や気候の不規則性が昔に比べて増加しているのは疑いようのない事実ですが、それが武力紛争にどう影響を与えているのかは、全く解明されていない状況です。本当に因果関係がないのか、分析方法が間違っているのか、これについて解明するにはもう暫く時間がかかりそうです。 個人的には、洪水や干ばつに目を向けるのは非常に面白い観点だと思いました。異常気象により自然災害が増えているのであれば、その影響はかなりあるのではないかと思います。

温暖化は戦争を引き起こすか?と言う非常に大きなタイトルで始まった講演でしたが、結果は非常に残念な内容となりました。けれど、事を大げさにしないで事実を述べていくスピーカーには僕は感心を持てました。しかも温暖化と武装についての関係性はオバマ元大統領も度々発言してたり、ニュースでも大きく取り上げられています。人の期待と現実のデータをどう捉えていくのか。気候と平和の研究分野は、今後の発展が楽しみです。








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