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幽霊から学んだこと

僕は生まれた頃から、同じマンションに住む兄ちゃんに、弟のように可愛がられていた。

その兄ちゃんは小さな頃から不思議な体験をしており、自分が霊感体質であることを特別なこととは思っていないようだった。

兄ちゃんの思い出の一つを、この前記事にて紹介させていただきました。

兄ちゃんは僕が小学校に進学して間もない頃に引っ越してしまい、さらには同じマンションに住んでいた彼の祖父母も引っ越したことから、僕は彼と会う機会がほとんどなくなっていた。


そのことは僕にとっては素直に、そして本気で寂しいものだった。。。


兄ちゃんと再会したのはそれから7年後となる

僕は高校受験の際に、志望校を兄ちゃんが通っていた高校に決めた。そのことを伝えたら兄ちゃんは歓迎してくれて、「久しぶりに逢おう」と誘ってくれた。

そして中学3年の夏休み、僕は自宅から5㌔離れた兄ちゃんの家へ遊びに行った。
その日は塾の夏期講習があったから、夜に行くことになっていた。

兄ちゃんの自宅は市内の中央部にあるマンション。外観はとても大きくて圧倒されたけれど、入口のドアを開けて入ると暗い雰囲気を感じる。

僕はエレベーターに乗って3階でおり、兄ちゃんの自宅のインターフォンを鳴らした。


「おぅ、よく来たな!」

ドアを開けたのは、昔と変わらず痩せ身で大きな兄ちゃんだった。兄ちゃんは挨拶もそこそこに、

「家に食い物ないから、このままコンビニへ買い出しに行こう」

と言って、サンダルを履いてそのまま玄関を出た。
そしてさっき使ったエレベーターで一階へ降りた。

この間は7年ぶりにしては他愛もない会話をしていた。 

そしてエレベーターを出て、マンションの玄関口へ歩いていると

ふぅ〜っ

と人とすれ違ったときに感じる風が顔を掠めた。そしてふと振り返ると、何か黒い煙のようなものがエレベーターへ向かってゆらゆらと進み、僕らを降ろして、暫く開いていたエレベーターの中へ吸い込まれるように入っていった。

(気のせいか…)

そう思いながら、玄関を出てコンビニへ向かって歩いている途中、マンションの1号館と2号館の節目のあたりまで来た時、節目の窪みに沿って黒い大きな泥人形のようなものが落ちてくる様子が視界に入ってきた。そして無意識にそちらへ視線を移そうとした瞬間


ドンッ!!

と物凄い落下音がした。それは草の茂みに落ちたようで、分入らないと見えない。

(何が落ちたんだ?)

今目の前で起きたことに気を取られていたら、突然肩を

ガッ

と掴まれた。驚いて振り返るとそれは兄ちゃんだった。

「見たのか?」

兄ちゃんは今何が起きたのかを知っている様子だった。口元が笑っているけれど、目は笑っていない。不気味な笑顔を見せていた。

「今何か落ちたでしょ?」

そう言って僕はマンションの最上階を見上げたけれど、部屋の灯で見える範囲には何もなかった。誰かがいたずらでモノを落としてるわけではなかった。

「自殺だよ…」

兄ちゃんが静かに言った。

「一年くらい前に、このマンションの屋上から女の人が飛び降りたんだ」

「えっ?」

「顔から落ちたせいで、顔が潰れていて、遺体を見た住人は、気が触れて引っ越していったってきいた」

その話を聞いて足が震えてきた。そしてある疑問が湧いてきた。

「それって一年前の話なら、今のは何?」

この疑問に対する兄ちゃんの答えで、僕は彼に霊感があることを理解した。

「繰り返してるんだよ…自殺をな。だから、お前が今見たのも、あの女が繰り返してる自殺なんだよ。ふらふらとエレベーターに乗って、最上階へ行って、人が入れない屋上へよじ登って、飛び降りる。それを繰り返してるんだ…」

想像しただけで、吐きそうになった。青ざめた僕を見て

「気にするな!とりあえずコンビニへ行こう」

と言って、兄ちゃんは足早に歩き出した。そして独り言のような小さな声で

「やっぱり、お前にも見えるんだな…」と言っていた。


あれから10年が経った

僕は高校を卒業後、埼玉県にある大学へ進学して卒業後は都内にあるメーカーに入社した。

そして入社して2年が経った頃から、田舎の地域を担当することになった。

田舎に出張するのは月に1回、1週間程度。

この間はスケジュールは自分で決められる。
僕は久しぶりに兄ちゃんの家に行くことにした。兄ちゃんは独立してからは都内で仕事をしていた。だから、自宅にはおばさんしかいない。

夜7時頃に営業車でマンションへ行き、客用駐車場に車を停めて、東京土産を持っておばさんに挨拶をしに行った。

おばさんの家に行くと、食事に誘われたのでお言葉に甘えて、食事をいただきながら談笑した。そして2時間後、おばさんの家を出た。

帰りにエレベーターに乗って1階へ降りた。そして1階でエレベーターのドアが開くと、相変わらず暗い雰囲気の玄関が見えてきた。

そして玄関に向かって携帯電話をいじりながら歩いていたら、

ふぅ〜

と人とすれ違ったような風が顔をかすめた。携帯電話を観ながら歩いていたから、人が通るのに気づかなかったのか?そんなことはないだろうと後ろを振り返った。

振り返ると、黒い煙がゆらゆらしながらエレベーターに乗り込もうとしていた。

(あれ?まさかあの時の?)

怖いという感情よりも、何なのかを確かめたいという思いが強く働いたため、じっと煙を見ていた。良く見ると背中が大きく曲がった小柄の人がフラフラしながら歩いている感じだった。

そしてエレベーターの中にすうっと吸い込まれていった。

(まだとらわれてるのか…)

このマンションから投身自殺した女は、死ぬ直前に死にたくなるほどの苦しみを味わったんだろう。そして生きて、その現実に向き合うよりも

「死んだ方がマシ、死んで楽になりたい」

という思考に支配されていただろう。
そうして身投げした女は死んだ後も、成仏できずに自殺を繰り返している。

あの女は死んでもなお、死ぬ直前に味わった「死ぬほどの苦しみ」を味わい、自死を繰り返している。しかも、10年以上もそれを繰り返しているのだ。

自殺したら、死ぬほどの苦しみから逃れられるなんていうのは嘘だ!
自殺をしたら、死ぬほどの苦しみを毎日繰り返すことになる!それこそが死ぬほどの苦しみなのかもしれない。

僕は自殺を繰り返す霊を見て、そのことを知った。
自殺をしてはいけない。
僕はこの教訓を幽霊から学んだ。


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