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オリンピックエンブレム問題に見えた闇

2015年9月4日 Vol.048 <インターネットに光はあるのか号> より

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佐野研二郎氏デザインのオリンピックエンブレムが、公式に使用を取りやめる事になった。ベルギーの劇場のロゴマークと酷似していると指摘された問題に端を発し、様々なプロセスで問題点が明るみに出るに従い、強硬に使用を続けるのは無理と判断した、ということなのだろう。

1人の人間を巡る騒動が元で、ある業界の闇が明るみに出たという点では、STAP細胞研究の小保方氏や、ゴースト作曲家事件の佐村河内氏の件を彷彿とさせる。だが今回の騒動がそれらと決定的に違うのは、ネット民の探索能力が強烈な証拠を次々と見つけて、傷口が加速度的に開いていったという事だろう。

もちろん、研究や一部の商業作品と、世界中の人が一定期間目にすることになるオリンピックのエンブレムとでは、様々な面で規模が違う。それだけ関心が高いのは当然だが、だとしてもここまで次々と問題が発覚、メディアも喜んでそれを一方的に報道するという「祭り」は、異常な状況であると言わざるを得ない。

これまで特にこの問題には言及してこなかったが、今回の騒動は、インターネットの利用者の闇の部分が発露したのかなという気がする。僕もCMの仕事で多少デザインのはじっこを囓ったに過ぎないが、それに加えてネットの問題ということにフォーカスして、少し考えを整理しておく必要があるだろう。

■問題の発端

そもそも今回の騒動の特徴は、問題となっているのが「図柄」であるということだ。コンピュータ的に言えば、画像イメージである。今や画像は、言葉と並んで類似検索しやすい要素ではある。

また視覚的にもわかりやすい図形パターンであるロゴやエンブレムは、ちょっと見ただけで素人でもその類似性に気づく。これが音楽や研究であれば、その類似性は直感的には気づけないだろう。そういう点で、今回の騒動には、誰でも参加しやすい特性が元々あったわけだ。

7月24日にエンブレムが発表され、その直後、おそらく記憶によれば翌日あたりではなかったかと思われるが、ベルギーの劇場のマークと告示ていると話題になった。僕もこれをときには、確かに似ているとは思った。ただ同時に、Tのフォントから発想したデザインであれば、似た結果になるのはまあまあある事だとも思った。結果的に似ちゃいましたね、ということで誰かがベルギーに行って挨拶でもしてくれば終わる話だったのだ本来ならば。

だが「パクった」と言われたのが心外だったのかわからないが、佐野氏や委員会側は強硬に類似性を否定し始めた。いや、見れば要素的には同じ部分が多数あるというのは誰でも気づくところであり、似ていることそのものを否定するのは変だ。おそらく多くの人も、この強硬な姿勢にカチンと来たのではないか。

これが8月に入り、佐野氏の別の仕事であるサントリーのキャンペーン用トートバッグの画像が、個人ブログのフランスパンの写真をそのまま使ったのではないかという疑いが浮上してきた。実はこの時点で、問題は2つに分岐したのだ。オリンピックエンブレムのほうは、デザインを真似たのではないかという疑いだが、サントリーのトートバッグのほうは、画像を重ねると完全に一致したため、著作物の無断使用である。

この2つ、どちらも著作権法の問題なので同じに見えるかもしれないが、著作物の無断使用は、著作者と和解して著作権料を支払えばクリアになる問題である。もちろん、行為としては「黒」なので、すんなり和解できなければ裁判沙汰になる事も考えられるが、非を認めて誠意を持って対応すれば、クリアにする道筋はある話だ。

一方で完全に同一ではなく、似てる、似てないの話は、決着しづらい。偶然似てしまった、あるいは参考にはしたがモディファイしたというのであれば、「白」になり得る話なのである。そもそもデザインに限らず、人が作るコンテンツというのは、どこかにネタ元があるものであり、いろんな要素の組み合わせだ。まったくの白紙状態から "神が降りてきて" できあがるなどということはない。

ベルギーのロゴの類似性が指摘された時点は、佐野氏を擁護したデザイナーも多かった。それは、「似ている問題」というのはデザイン業界ではままある話で、多くの同業者も過去に困った経験があるのだろうと思う。

だが素材の無断使用が発覚してからは、擁護するデザイナーは激減した。それとこれとは、レベルが違う話だからである。

だがこの2つの問題は、「パクリ」という一言で、世の中的にはごっちゃに語られる事になった。そこにこの問題の混乱と不幸がある。最初に擁護したデザイナーも、ごっちゃに語られたことで巻き添えを食った格好になった。彼ら(彼女ら)を、オマエもパクリ野郎かと断罪するのは、あまりにも気の毒である。

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小寺信良と西田宗千佳のメルマガ「金曜ランチビュッフェ」から派生した原稿を発表していくnoteです。
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