億り人の似非シンデレラの話


ある程度のお金を持ったときのかなり恥ずかしい話をしよう。




シンデレラの魔法使いはいなかったので、私はお金を使って自分に魔法をかけることにした


当時の言葉で言うならば、リア充を形にする魔法


「お金よお金☆さざ私を幸せにしてちょうだい~ていっ」


飛行機はファーストクラスかビジネスクラス、バーキンかケリーバッグを持ってルブタンの靴をはいて、ヴィトンやエルメス、シャネルかグッチ、フェンディにガラバーニ、フェラガモに流行りの肩のとがったバルマン、ドルチェ&ガッバーナや遊び心を入れてディオールオムはエディ期を着て颯爽と外に飛び出す私


おぉ~お金持ちっぽくて、人生エンジョイしてる人っぽいぞ


と、思っていた


好きではないシャンパンをもらって、機内で本を読む


分かりもしないブレゲの時計を見て素敵だといい、ハリー・ウィンストンやヴァンクリーフを見て、普段使いにさらりと着こなすのよと頭に念じている私がいる


たかが鉱石のくせにと思ってはいけない、ただの炭素だと思ってはいけない


そんな装いをしていると、私の回りには自然といろんな人が寄ってきた


まだ20代だったので、男女問わず寄ってきた


結婚もしていない当時の私は、お金持ちの人の真似をしながらお金を使った


そして、一生縁のなさそうなホテルに泊まり観光をしたり、世界遺産巡りや美術館、博物館巡りをしていた


けれど、私はものすごく疲れていた


かなり無理して泊まったホテルで、白トリュフが入っているオムレツを食べながら


炭火焼きの焼き鳥食べたいなぁー

と思った

味の違いも分からない鈍感な舌の上を流れる、やたらと長い名前のワインやらを飲んでは


麦茶飲みたいなー

と、頭をよぎっていたけれど気づかないふりをしていた

牛のどこの部位で、その牛の銘柄やらの話を聞きながら


豚汁のみたいなー

と思っていた

いやいやいや、そんなばかな

せっかく、お金持ちになったのに

そんな豚汁だなんて、そんな

ネギと一味いっぱいかけて食べたいなー


…いやいやいや、そんなばかな

目の前に、よく分からない御大層な名前のついたスープがあるのに

おしゃれっぽいとうたわれる都会のレストランで、フレンチだイタリアンだ、ひねってネパールだ、インドだ、コンゴだという料理を食べているのに

それこそ食通と言われる人に、連れていってもらったりもしたのに


なぜ、私は焼き魚に副菜を食べたいと思うのだろう

それならばと、定食やさんにも足を運んだが

どうして、私は自分で調味料を選んで、野菜をあーでもないこうでもないと言いながら自分で作っているんだろう


老舗と呼ばれる店先で、どうして私はそこの会話にうんざりしてしまうんだろう

私がそこにいることが、不自然だからだろうか


どうして他の人は、この空間を楽しんで食事ができるんだろう

そんな苦悩を何年か続けて、私の魔法は解けた


魔法はかけれても、私は外にでることが億劫になってしまった


分かったことは、そもそも私は飛行機が苦手だということと、衣服に興味がないこと、着るものは締め付けられるものよりも軽くて、さらっか、ぬくっとしているものがいい


靴は歩きやすい靴がいい、ヒール最低


好きなことはわからなくても、好きなものはわかってきていた


すっと何かから覚めた時、それらを売った


全部売りさばくのに1年くらいかかった


今度はそれが結構なお金になったので、追加の投資に回した


そうしたら資産が増え続けたので、魔法使いは廃業した


私はどこからどうみても、お金持ちには見えないし、どこからどうみてもゆるい人になった



1億円の資産を持ったものの、特にしたいことや欲しいものももののみごとに消え去って、困りつつ焦りつつもがいている主婦でございます。