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『ありがとう!ママはもう大丈夫だよ~泣いて、泣いて、笑って笑った873日~』全文公開③ 立ちはだかった、小児生体肝移植の現実

我が子のうんちが白い原因や病名などは不明なまま。そして、やっとはっきりとしたことがわかったのは3月も半ばになった頃、『生まれてからたった3カ月の間に、優司の肝臓はほとんどその機能を失ってしまい、体全体が危機的状況にあること。そして命を救う唯一の手段は「肝臓移植」のみである』―という事実を、入院した国立成育医療研究センターで告げられました(『ありがとう!ママはもう大丈夫だよ~泣いて、泣いて、笑って笑った873日~』全文公開② 命を救う、唯一の手段はより)。

優司の目や皮膚が黄色くなっていることから、肝臓が悪いということは私たちの目にも明らかでした。体の中のビリルビン(胆汁または尿から排出され、異常な濃度上昇は何らかの疾病を指し示す)という物質の数値がとんでもなく上昇していることでそれは起こります。

脳死ドナーが現れるのを待つ時間の余裕もなく、今すぐにでも生体ドナー、つまり生きている健康な人間からの生体肝移植しか私たちには選択肢はありません。肝移植とは患者の肝臓をすべて取り去って、そこにドナーの肝臓の一部分を切り取って入れるというとても難度の高い手術です。

肝臓は一部切り取ってもいずれ元通りに再生するトカゲのしっぽのような臓器ですが、人と人との臓器を生きたまま取り替えるなんてブラックジャックではあるまいし、無茶苦茶なことですよね。

(出典:生体肝移植 | 国立成育医療研究センター

ドナーになる条件は、血液型適合、3親等以内、体格などいくつかあるのですが、すべて当てはまっていたので当然のように母である私がなるつもりでした。

自分のお腹から生まれてきた、自分よりも大事なこどもの命です。なんとか優司を救ってあげたい! 当然、夫も同じ気持ちだと思っていたのですが、実際はそうではありませんでした。医療者を含めた最初の話し合いの時、夫は告げました。「手術がもし上手くいかなくて、あずさを一緒に天国に連れてってしまうのなら……優司はあきらめたい」

彼の目は真っ赤でした。夫婦であっても価値観は違います。夫には『妻の私には代わりがいない、ずっと一緒にいたい』という気持ちが強かったのでしょう。

誰も失いたくないという気持ちは私も一緒でした。ですが、夫の気持ちを知ってもなお、私は母親として自分の希望を通さねばならないと思う気持ちは変わらなかったのです。

「本当にドナーになりますね? 断ることも権利ですので、まったく問題ないのですよ」

移植心理士に3回にわたって意思確認をされ、承諾の書類に3回、サインをしました。1回目と2回目の意思確認時には私の身体検査や手術の説明、起こりうるリスク、心のカウンセリングなどいろいろな手続きがあり、そのたびに「ドナーになるのをやめてもいいのですよ」と念を押されました。それほどに生体ドナーとなるには自ら湧き起こる愛情のもと、無償で臓器を提供す
るという意思が必要なようです。

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